映画コラム

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2020年02月29日

『1917 命をかけた伝令』のレビュー|カメラワークと音楽が芝居をさらなる高みに引き上げた1作

『1917 命をかけた伝令』のレビュー|カメラワークと音楽が芝居をさらなる高みに引き上げた1作



『1917 命をかけた伝令』




(C)2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.



1917年、第一次世界大戦が始まり3年。西部戦線は、ドイツ軍とイギリス・フランスからなる連合軍が、熾烈な長大な塹壕戦を繰り広げて、多数の犠牲を伴う消耗戦を行なっていた。

第8連隊に属する、ウィリアム・スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とトム・ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)は、ある重要な伝令を伝える任務をエリンモア将軍(コリン・ファース)から与えられた。

ある隊が退却したドイツ軍を追っていたのだが、航空写真からそれが罠でありドイツ軍が待ち構えていることが判明。このままでは、1600人の兵士がドイツ軍の砲兵隊により全滅してしまうため、なんとしてもこの事実を大佐に伝えて、明朝に予定されている戦線突破を阻止しなくてはならなかった。通信手段はドイツ軍によって遮断されていたために、この二人の兵士の伝令が最後の頼みの綱であった。

戦線に行くためには、ドイツ軍の仕掛けた罠やドイツの占領下の街を越えて行かなくてはならないため、スコフィールドは慎重を期すが、戦線突破しようとしている大隊に兄がいるブレイクは焦り、一刻の猶予も許されない状態。2人は、張り巡らされた罠や戦地を掻い潜り、伝令を届けることが出来るのか、、、




監督は『アメリカン・ビューティ』や『ジャーヘッド』『007 スカイフォール』『007 スペクター』などで多数の受賞歴をもつ、名匠サム・メンデス。

いやーーーー傑作でした。

ストーリー自体は、上記の通り単純です。

上からの命令で、明日の朝までに伝令を届け、戦前の突撃をやめさせる!と、まぁ簡単に説明出来るほどシンプルな構造。しかし、それを名作に仕立てあげたのは、ワンカット(風)で全編通して撮影したことです。

「風」というのは、実際はワンカットでシーンを撮影し、シーンとシーンの繋ぎ目は後処理によってすべてのシーンをひとつなぎに見せているからです。それによって、観客も2人の兵士とともに戦地を緊張感の中、潜り抜けている心理へと誘われます。

観ていて特に注目したことは、やはりカメラワークと効果的な音楽の使い方。芝居はもちろん素晴らしいの一言ですが、それを高みに上げているのはその2つの要素があるからこそ。

ただ単に2人の背後を追っていくだけのドキュメンタリーのような画角になりそうな所を、撮影監督のロジャー・ディーキンスの手腕により見たことのない体験を味わいます。

リハーサルにも多大な時間をかけ、役者に芝居をさせ、そこから距離と時間を測り、計算しそれに伴った360度どこからも撮れるセットを作りあげる。準備には通常の映画とは、比べものにならないほどの期間と労力を掛けた本作。

そのやり方は、舞台の演出家でもあるサム・メンデスにはぴったりハマったやり方だったのでしょう。(舞台の場合には、同じ演技を繰り返し行う為に、入念なリハーサルを必要とする)

さらには、ワンカットの為に、照明は一切組めないので、天候は曇天でなければならず、天候を待ちながらその撮影出来る瞬間になった時に、役者が100%のパフォーマンスが出来る状態なのは入念なリハーサルのお陰だった、と監督は語っています。

そして音楽の力。2人と同じリアルタイムを追っている観客は、差し込まれるSEや音楽に、よって気持ちが和らいだり、緊張感の高みに押しやられたりと見る側の気持ちの見事にコントロールしてくるのです。(少し、先読み出来てしまいそうになってしまいますが。ああ、ここからは緊張感のある感じだから、もしかしたら、、、みたいな感じで。しかしそれでも見事なまでのアシストです。)

音楽、カメラワーク、芝居この三つの大きな柱があり、衣装やメイク、セットの細やかな仕事ぶりが画面の端から端まで、埋め尽くされており、一回では見切れないくらいの上質な世界。

こんな戦争映画は初めてです。衣装だけで、そのキャラクターが浮き出ていて、メインキャストだけでなく大勢の兵士のドラマ性も感じ、そこに生きている人々を見事に映し出してぃす。

素晴らしすぎる、、、

あの緊張感、、

そしてあっという間な2時間と少し。

体感だと15分(少し言い過ぎ?)くらいだったのではないかと思うほど。




そして、英国を代表する俳優。コリン・ファースとベネディクトカンバーバッチの使い方。この2人が作品にさらに深みを与えます。

エンドロールの頃には、ああもう一度見返したいと唸ること間違いなしな、観たことのない傑作がここにあります。

この体験は是非、映画館で!!!

それでは今回もおこがましくも、紹介させていただきました。

(文:橋本淳)

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