『嵐電』のレビュー|繊細に描かれた3組の少し不思議なラブストーリー
『嵐電』
京都市街を走る路面電車、嵐電。
ノンフィクション作家の平岡衛星(井浦新)は、嵐電の走る線路のすぐそばに部屋を借り、嵐電にまつわる不思議な話を集める取材をしていた。衛星には、妻がかつて、この街で経験した出来事を呼び覚ます目的があったのだった。
修学旅行で、青森から京都にやって来た女子学生・北門南天(窪瀬環)は、嵐電の駅で電車を8ミリカメラで撮影する地元の少年・有村子午線(石田健太)を見かける。あるラッピングした電車を見たカップルは幸せになれるという都市伝説に導かれるように、南天は子午線に恋をする。しかし電車を撮影し続ける子午線のほうは「俺は電車だけやねん」と南天に目もくれなかった。南天は自身の運命を信じるように、修学旅行の友達も振り切って、子午線に突き進む。
太秦撮影所の近くの飲食店で働く小倉嘉子(大西礼芳)は、撮影所にお弁当を届けた際に、東京から俳優・吉田譜雨(金井浩人)に京都弁の指導をスタッフにお願いされ、さらには台詞の読み合わせを行う。
初めて演技を経験する嘉子は、譜雨と擬似的な男女関係を演じる過程で、自分でも気づかないうちに魅かれていく。嘉子は譜雨からの、一緒に嵐電に乗って嵐山へ行きませんか、という誘いを受ける。
嵐電の街に紛れ込んで、まるで出られなくなったような3組の恋と愛の運命が、互いに共振を起すように進んで行く。
監督は、鈴木卓爾。
長編映画作品に『ゲゲゲの女房』、『ジョギング渡り鳥』、『ゾンからのメッセージ』などがある。俳優としても、『セトウツミ』、『あゝ荒野』など、様々な作品に出演している。
3組の少しファンタジックで不思議なラブストーリー。昨年公開され、この作品の評判はよく聞いていましたが、なかなかタイミングが合わず観られずにいましたが、ようやくレンタルで最近観ることが出来ました。(遅くなりすみません)
冒頭からゆっくりと始まる世界。
気づくと幻想的な世界にこちらも引き込まれていきます。3組の男女のエピソードが少し交錯したり共振したりと、前に進んでいく。
登場人物の過去や、感情の流れや、ちょっとした揺らぎが本当に繊細に描かれています。カメラワークであったり、役者の芝居であったり、薄くもなく濃くもなく、程よいギリギリのバランスで積み重ねていく。
どの役者さんもよかったですが、特に、東京から来た俳優に恋をする奥手で不器用な女性・嘉子を演じた大西礼芳の繊細な芝居が素敵でした。
歩み方や、台詞の揺れ、時には瞳だけで、その役の感情が分かる。むず痒く、応援したくなる感覚になり、いつの間にか、彼女に感情移入していました(性別関係なくなりますね、そういう時)。
きっとこういうことなのだろうと、想像力を駆使しながら鑑賞者を楽しませる。そんないい塩梅の余白の作り方も好みでした。見終わった後に、色々な記事インタビューなどを掘って、一人で答え合わせなんぞをして、余韻を引きずりながら楽しんでます。
日本映画の良さが詰まった一作!
現在、少し暗い世の中ですが、そういう時は家で映画鑑賞をして、心をほぐしてあげるなんていうのは、どうでしょうか?
それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。
(文:橋本淳)
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