映画コラム
【非常事態への心構え】『日本沈没』など小松左京原作映画が示すもの
【非常事態への心構え】『日本沈没』など小松左京原作映画が示すもの
「何もせん方がええ」から始まる
日本人のレスキュー
そんな山本総理のD計画をひそかにバックアップするのが“箱根の老人”と称され、戦後日本の政財界の黒幕として暗躍してきた100歳を超える渡老人(島田正吾)です。
彼は3人の識者に“日本民族の将来”なるD2計画の基本要綱3パターンを作らせますが、それとは別に3人が下した付属的な、しかしながらこれこそが真の結論なのであろうと察知させる意見を山本に伝えます。
「このまま何もせん方がええ」
1億1000万人がこのまま日本とともに海に沈んでしまうのが、日本および日本人には一番良いことなのだという結論は驚愕的ではありつつ、どことなく日本人のメンタリティに即している感もあります。
そして山本は愕然となりつつも、この言葉を基軸に一人でも多くの日本人を救おうと腐心していくのです。
いわゆるマイナス思考からの出発は、安易なプラス思考よりも信じられるものがあるのではないでしょうか。
(少なくとも本当に今「何もせん方がええ」と嘆きたくなるような政策ばかりを講じ続けている、どこぞの国の政府よりも……)
一方ではD計画に携わる中田(二谷英明)が「何もしないよりは3%や5%は多く助かる。1億の5%でも500万人です」と説くシーンもありますが、双方の台詞は同義と捉えてもいいでしょう。
このように本作は印象的な台詞が多数出てきます。
渡老人から「科学者にとって一番大切なことは何かな?」と聞かれた田所博士は、即座に「カンです」と答えます。
そもそも渡老人も、毎年自宅にやってきては巣を作るツバメが昨年の7月に去って以降、今年はついにやって来なかったことから、いち早く日本の不穏を察知しています。これもまたカンであり、人間に秘められた才能であることまで本作は示唆しているのです(現に、それを告げるナレーションも出てきます)。
まもなく日本が沈むことを知っている小野寺が心の声で絶叫する
「来年になったら春は来るだろう。しかし夏は分からんぞ。秋はもっともっと分からん」
は、今まさに自分たちが直面している危機とも呼応するようにも聞こえて、他人事ではないものすらもたらします。
しかし一方では山本総理が放つ
「爬虫類の血は冷たかったが、人間の血は温かい」
この一言にささやかな未来の希望を託すことも可能です。
このように、優れた映画には優れた台詞がつきものであることの好例が、本作であるともいえるでしょう。
なお『日本沈没』はその後もテレビドラマやラジオドラマ、樋口真嗣監督による同名リメイク映画(06)も存在しますが(余談ですが、小松左京公認の筒井康隆によるパロディ小説『日本以外全部沈没』も、リメイク版『日本沈没』と同じ年に河崎実監督のメガホンで映画化されています)。
そして2020年の今年、ネットフリックス配信のwebアニメーションも製作中で、まもなく配信開始されていく予定となっています。
やはり今の時代が『日本沈没』を求めているのかもしれません。
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