2020年05月21日

STEP ZERO「フィールドマネージメントレーシングの挑戦」Vol.4

STEP ZERO「フィールドマネージメントレーシングの挑戦」Vol.4

STEP ZERO「フィールドマネージメントレーシングの挑戦」
-モータースポーツの世界で可能性を追求する注目チームの年間密着ドキュメント連載-



クルマで速さを競う“自動車レース”。
その存在は知っていても、人によってはなじみの薄い世界だろう。

実際レースの現場は予想以上に規模が大きい。

TVやインターネットでF1などのレースを観ると、そこでは実に多くの人間が動いている。

何千何万とという数の観客があんなに熱狂するのか?

どこにそれだけの魅力があるのだろうか?

そもそもなぜレースをするのか?


どんな人たちが、どんな人生を背負い、何を目指して戦っているのか?

その魅力に迫るべく、あるレーシングチームの一年に密着した。

本記事は、そんな世界で愛される『モータースポーツ』の裏側や魅力を追う連載ドキュメントである。


INDEX

→Vol.1:モータースポーツとは何か/PSCJとは/参戦するFMRとは

→Vol.2:1STドライバー マックス・サロ/井出有治監督、就任理由と方針解説/

→Vol.3:熊林社長、一般参加紹介&魅力解説

→Vol.4:レースのしくみ説明&予選前/コースアウト リタイヤ/エンディング

→Vol.5:「フィールドマネージメントレーシングの挑戦」

レースのしくみ説明&予選前





一般的に、自動車レースには『予選』と『決勝』がある。まず予選はコース1周を何分何秒で走ったかで順位をつけ、それを決勝のスタート並び順とする。

決勝はその並びで一斉にスタートし、決められた周回数を走って一番最初にゴールした者が優勝というシステムだ。予選で速いラップタイム(1周のタイム)で走るほど決勝は前からスタートできるので有利になる。

ケイマンGT4を初走行してからまだ日の浅いマックスは実戦で走りながら学習している段階ではあるものの、好タイムは狙いたい。




しかし前夜までの雨の影響で、予選当日は雨は降ってはいないが路面はまだ濡れている。この状況を、井出監督がこう説明する。

「ずっと雨が降っていたら溝のあるレインタイヤを履いていくんですが、今は雨が止んでいて、濡れている路面は予選後半には乾いていくという予想。こういう場合は乾いた路面で圧倒的にアドバンテージのあるドライタイヤで出て、路面が乾いて良くなってきた時を狙ってドライビングしていきます。でも、今日に関してはそのタイミングが本当に難しいコンディションでしょう」

そしていよいよ予選開始。マックスのマシンはコースに飛び出していった。




コースアウト リタイヤ


「おーっと!ここで一台コースアウト! ゼッケンは…10番! 10番のようです!!」

予選も中盤にさしかかろうという頃、場内スピーカーから実況MCの絶叫が響いた。ゼッケン10番とは…FMR・マックス車である。

「スピンしてリア(後部)からタイヤバリア(サーキットの壁沿いに積まれた衝突衝撃吸収バリア)に当たったようです!あ、赤旗が出ました、赤旗です!」

赤旗とは、何らかの事故でコース上に車両が停止するなど、競技の継続が危険と判断されたときに振られる『レース中断』を意味する旗である。映像では見えないが、この時点でマックス車は少なからぬダメージを負ったことが推測された。チームに緊張が走る。

しかし、マックスは表情に悲壮感を漂わせつつも、クルマを降りて駆け足でピットに帰ってきた。「体は無事か?」と第一声で尋ねる井出監督に、マックスは伏し目で頷いた。監督が状況を語る。




「仮に僕が走ってたとしても相当気を遣うコンディションで、マックスも経験が浅い中で気をつけてはいたと思いますが…一か所だけ他よりも路面が乾きにくいコーナーがあって、そこの縁石だけが滑りやすくなっていた。でも他のコーナーの縁石は大丈夫だったから、彼はタイムアップのためにそこも使って走ろうとした時に滑ってしまったという感じですね」

ほどなくして回収されてきたマシンは、リヤウイングが脱落するなど大きなダメージを負っていた。チームクルーが総出で修復に当たるも、ポルシェのレーシングサービスに必要なスペアパーツが無いこともあり、井出監督はリタイヤ届けを提出した。

幸いにも、マックスのフィジカルにはまったく問題は無かった。

エンディング


無念。これもレースの一部、なのだが、開幕戦の決勝の舞台にすら立てなくなってしまったマックスの落胆はかなりのものだった。経験豊富な井出監督には、そんな時のドライバーの気持ちは痛いほどよく分かる。

「壊したくてマシンを壊すドライバーなんていないですし、一番悔しいのは彼ですからね。決勝を走る経験を積めなかったというのは、彼としてもチームとしてももったいないと思います。ですが、このミスによって彼には悔しい気持ち、正直恥ずかしいという気持ちもあると思うんですけど、今後その気持ちを糧に強くなって欲しいです。




レースを続けていればこれは誰もが通る道なので、いつまでも悔やんでも仕方がない。次にいい結果を残してくれればチーム全員が笑顔になれるしハッピーになるので、チームも仕切り直しして、ドライバーと一緒に強くなって、いいレース、いい結果が残せるように次回は頑張ります!」

クルマはすぐ直るけど、ドライバーのメンタルはすぐには治らないものですよと井出監督。しかし、マックスはスッと立ち上がると気丈に前を向いた。

「悔しい、悔しいです。次回のためにもっとトレーニングして、プラクティスして、スキルをインプルーブ(腕を磨く)しないと。いいレースを見せられるように」




たかがレース、されどレース。非日常の興奮や感動がそこにあるからこそ、人々はそれを肌で感じたいがために情熱を注ぐのだ。




※この開幕戦の翌週2020年4月7日、政府により新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令された。これにともない、2020年5月17日に予定されていたPSCJ第3戦および第4戦スポーツランドSUGO大会の開催延期が決定。以降の開催についても社会情勢を踏まえての検討となり、今シーズンの行方は不透明である。しかし、チームに関わるすべてのメンバーたちは、それぞれの思いを抱き日々を研鑽している。

FMRの挑戦はまだまだ続いていく。





■写真・島田健次
■取材・文/長谷川貴洋
Text by Takahiro Hasegawa

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→Vol.1:モータースポーツとは何か/PSCJとは/参戦するFMRとは

→Vol.2:1STドライバー マックス・サロ/井出有治監督、就任理由と方針解説/

→Vol.3:熊林社長、一般参加紹介&魅力解説

→Vol.4:レースのしくみ説明&予選前/コースアウト リタイヤ/エンディング

→Vol.5:「フィールドマネージメントレーシングの挑戦」

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