映画コラム

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2020年06月27日

『マルモイ ことばあつめ』レビュー:母国の言葉を護るために闘った人々の凱歌

『マルモイ ことばあつめ』レビュー:母国の言葉を護るために闘った人々の凱歌



韓国映画の隆盛を
象徴する好例




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冒頭で韓国映画の隆盛を讃えたばかりではありますが、本作も見事なまでにその好例として採り上げたい、映画としての大らかな膨らみを湛えた秀作であり快作です。

辞書作りといえば日本でも辞書編纂の世界を描いた三浦しをんの小説『舟を編む』が映画(13)&アニメ(16)化されて話題になりましたが、こちらは辞書作りはおろか母国の言語そのものをなくしてしまおうという体制下での行動ゆえ、当然ながらにスリリングかつサスペンスフルな展開がなされています。

もっとも本作はいわゆるサスペンス映画としてのテイストよりも、むしろ過酷な状況下で“ことばあつめ”に奔走する人々の交流や絆といったヒューマニズムの観点からドラマツルギーを成し得ているのが妙味で、見ているうちに心をほっこりさせてくれる人間讃歌として屹立してくれています。

辞書作りのエピソードの中でユニークなのが、全国各地の方言を集めて、そこから標準語を決めようとするところで、狭い日本にもさまざまな方言があるように、朝鮮半島も同様にさまざまな言葉が成り立ち、ひしめきあっている事実を改めて知らされたりもします。

また、時間のない中でどうやって各地の方言を集めるかといったくだりで「なるほどその手があったか!」と思わず叫びたくなるような、本作の主人公のキャラクター性を巧みに活かしたエピソードも登場します。

さすがに時代設定上、日本が悪役的立場になるのは致し方ないところですが、最後まで見終えると意外にそういった印象を残さないのも、本作の目指すものがあくまでも激動の時代を健気に、そして必死に生きようとした人々へのエールに他ならないからでしょう。

『タクシー運転手』や『1987、ある闘いの真実』(17)など、激動の韓国近現代史映画群の中で庶民を演じさせたら随一のユ・ヘジンが魅せる人間臭さ、『犯罪都市』(17)の残酷な犯罪者から一転してカタブツ・インテリのジョンファンを好演するユン・ゲサンなど、いつもながらに韓国映画界の俳優陣の層の厚さにも唸らされっぱなしです。

また当時の京城の街の大掛かりなセットなど、時代を見事に再現した美術などのスタッフワークも特筆しておくべきでしょう。

歴史がもたらす国同士の諍いはさておき、国境を越えた感動をもたらすことを可能とするのが映画の本領であるとすれば、本作こそはその筆頭でしょう。

改めて、多くの人に見ていただきたい秀作であることを強く訴えておきたいところです。

(文:増當竜也)

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