映画コラム

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2020年07月18日

『アルプススタンドのはしの方』レビュー:今年の邦画ベスト1はこれに決定!

『アルプススタンドのはしの方』レビュー:今年の邦画ベスト1はこれに決定!


空振り青春群像に寄せる
温かくも優しいキャメラアイ




 (C)2020「On The Edge of Their Seats」Film Committee


本作は兵庫県東播磨高等学校演劇部の顧問教師(当時)藪博晶が創作して同校演劇部が上演し、第63回全国高等学校演劇大会で文部大臣賞(グランプリ)を受賞した名作戯曲を原作としています。

実はこの戯曲、2019年6月に劇団献身/ゴジゲンの奥村哲也の演出で浅草九劇にて上演されて好評を博すとともに浅草ニューフェイス賞を受賞しており、このとき出演していた小野莉奈&西本まりん&中村守里&目次立樹はそのままの役柄で映画版へ続投。奥村も映画版の脚本を担当しています。

室内空間の舞台とは異なり、実際のアルプススタンドに座りながら空振りな青春群像を体現していく若き演技陣の姿は、どことなく開放感にも満ち溢れているようです。

その中でなぜか「しょうがない」を口癖にする安田、何かと周囲に気を使いすぎる田宮、部活を辞めた忸怩たる想いを隠しきれない藤野、そして友達のいない宮下は一体誰を見つめているのか……。

本作はどこか心が折れて久しく、一生懸命に頑張ることに疲れてしまったかのような(そのくたびれ感も手伝ってか、本作の全体的な雰囲気は華やかな甲子園本チャンというよりも地区予選的ではありますが、まあ、そのあたりはご愛敬ということで!?)、いわばどこにでもいる普通の高校生たちが、ふとしたことから徐々に一所懸命になっていく姿が自然に、そして微笑ましくも温かいキャメラアイによって描出されていきます。
(しかもこの作品、真ん中で立ち回る子のしんどさまで、さりげなく肯定してくれているのも嬉しいところ)

もし集団演技賞みたいなものがあるとしたら、本年度の受賞は本作のキャスト陣以外にありえない!(というか、とても一人に絞れないほどそれぞれが好演しています)

無理に一生懸命でなくても、一所懸命になれる瞬間があればいい。

あたかも彼女たちはそのことを示唆しているかのように、銀幕の中で映えわたっているのです。

監督の城定秀夫はピンク映画やVシネマを中心に精力的に活動し続ける俊英ですが、その作品群はダメダメな人生を送る主人公たちへ切なくも優しいエールを送るものが大半を占めています。

そんな彼の世界観と卓抜した映画的センスにシンパシーを抱いて夢中になる映画ファンは年々増加。

そして今回、こうしてダメダメ(というか、実は誰もが体験してきたことがある挫折のキャリアを隠そうとしている)高校生たちに優しいエールを送る一般映画への登板となったことで、恐らくはまだ彼の存在をよく知らないであろう多くの女性客や10代の子どもたちにも、その実力の程を大いに知らしめてくれること必至でしょう。

演者の一人一人が発する何気ない台詞の一言一言や行動の数々が実にテンポよく繰り出されることでユニークな笑いが醸し出されるとともに、プチ長回しを基本にロング&ミディアム&アップと「そこで画が転じてくれると心地良い!」と思われるところで見事に切り替わる編集(担当は城定監督自身)の妙味は映画全体のリズムを巧みに醸し出し、いつしか自分までも観客席にいるかのような極上の臨場感をもたらしてくれています。

登場人物のフレームイン、フレームアウトのタイミングなども含めた画の構図も素晴らしく、始めはそれぞれ離れたところにいる者たちの位置関係が、気がつくと接近しているといった過程も、実に自然に描出されているのにも驚かされます。

また、何故そこで彼女はそういう微妙な表情をするのか? といったリアクションの数々も、全てはそのつどそのつどの感情の繊細な揺れに応じて露になっていたことにも後から気づかされ、改めて驚嘆&感嘆させられることでしょう。

余談ですが、一見ウザさ極まりながらも人間味あふれる存在感を醸し出していく厚木先生は、NHKの名物視聴者参加バラエティ番組だった「着信御礼!ケータイ大喜利」に登場する熱血体育教師“元気田イクゾー”を彷彿させるものがあり、同番組を長年親しんできた方ならばホクホクしてしまうことも必定!(司会の今田耕司&千原ジュニア&板尾創路にもこの作品をぜひ見ていただきたい!)

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