『パピチャ』レビュー:“暗黒の10年”にファッションショーは開催できる!?
ジェンダーギャップ指数で
アルジェリア132位、日本は?
このように本作は、“暗黒の10年”と呼ばれた1990年代アルジェリアに生きる女性たちの、過酷ながらも輝こうとしていた青春像を描いていきます。
過激な原理主義が蔓延して「女はただ家にいればいいんだ」などと自由を奪われる言動の数々を浴び、オシャレしようとするだけで「あばずれ」とか「尻軽女」などとののしられる、偏見に満ち満ちていた時代。Gパンを履いているだけで「裸のようだ」と非難されていた時代です。
その他、女性に対するさまざまな抑圧と迫害がこの映画の中で描かれていますが、こうした迫害は男だけでなく、同性たる女からも受けていた(むしろ女のほうがタチが悪い? ちなみに内戦時のFIS党員200万人のうち80万人が女性だったとのこと)、そんな過酷な状況下でヒロインのネジェマは、狂おしいまでにファッションショーの開催に腐心していきます。
(タイトルの“パピチャ”とは、アルジェリアのスラングで「愉快で魅力的で常識にとらわれない自由な女性」という意味とのこと)
しかし、こういった状況下でファッションショーなど開くことができるのか? 仮に開けたとしても、それは安全なのか?
こうした辛辣なサスペンスを伴いながら、本作はそれでも自由を追い求めてやまない女性たちにエールを贈っているのです。
監督は1978年にロシアで生まれ、アルジェリアで育ったムニア・メドゥール。
1997年(内戦が最も激化した年)の暮れ、地元の大学に通っていた18歳の彼女は、家族(父親も映画監督で、過激派から殺害の脅迫を受けていたとのこと)と共にフランスへ移住することが叶い、パリで映画を学び、数々の短編やドキュメンタリー映画の演出を経て、本作で長編映画監督デビューを果たしましたが、まさに本作には彼女自身の忸怩たる青春の想いが如実に反映されているものと捉えてよいでしょう。
ちなみにアルジェリア内戦は1999年に沈静化し、民主化による国家再建を目指しますが、過激派残党によるテロはその後も続いていくのでした。
そして本作はアルジェリアで撮影されたアルジェリア映画として、フランスのセザール賞新人監督賞&有望若手女優賞を受賞する栄誉に預かったものの、アルジェリア本国では予定されていたプレミア上映は、何の説明もなしに突如中止。
同時に、米アカデミー賞国際長編映画賞アルジェリア代表としてのエントリーも叶わない危機に見舞われましたが、こちらに関しては制作陣の決死の訴えで何とか特別措置が図られ、代表として選出されることにはなりました。
それにしても、本作を鑑賞しながら、日本はまだ何とか自由が保たれていることを痛感させられますが、同時にこの自由がいつまで続くのであろうかといった不安にも苛まれてしまいます。
2020年度の世界経済成長フォーラム発表のジェンダーギャップ指数でアルジェリアは153か国中132位となっていますが、実は日本も121位なのです……。
(文:増當竜也)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。