映画コラム
『鬼滅の刃』の何が魅力なのか?14項目徹底解説!
『鬼滅の刃』の何が魅力なのか?14項目徹底解説!
2020年の映画界イチの話題作といっても過言ではない、劇場版「鬼滅の刃」無限列車編。原作マンガの完結を経てなおブームが盛り上がりを見せ、もはや『鬼滅の刃』というワードを目にしない日はないと思えるほどの一大社会現象を巻き起こしています。
「無限列車編」でスポットライトを浴びる鬼殺隊・炎柱の煉獄杏寿郎は、原作でも屈指の人気を誇るキャラクターの1人。また原作の「無限列車編」自体評価が高いこともあり、映画は公開3日間の興収記録更新や100億円最速突破など、記録尽くしの快進撃がヒットに華を添える形となりました。
映画の特大級ヒットもさることながら、そもそもなぜ『鬼滅の刃』はそれほどまでに支持を集める作品となったのでしょうか。今回は改めて、原作・アニメともどもその計り知れない魅力についてご紹介したいと思います。
1:大正時代を背景にした“リアルリズム”
吾峠呼世晴さん原作の『鬼滅の刃』が「週刊少年ジャンプ」(集英社)誌上で連載をスタートしたのは、2016年のこと。大正時代の日本を舞台にした剣戟×ダークファンタジーであり、鬼に家族を惨殺された主人公・竈門炭治郎が、鬼と化した妹・禰?豆子を人間に戻すべく奔走する姿が迫力溢れる筆致で描かれました。本作を支える魅力の根幹の1つとして、「大正時代」という時代設定があります。その空気感を伝えるべく示された生活様式(居住環境、衣装など)は実に緻密で、第1話から寒々とした山間に漂う“薄気味の悪さ”が作品の世界観を決定づけることに。もちろんその世界観が作中崩れることは一切なく、“鬼”を扱うフィクション或いはファンタジーでありながら「こんな時代が日本には実際にあったのかもしれない」と思わせるリアリズムが、作品をより強固なものにしているといっても過言ではありません。
ちなみにヒグマ好きの筆者としては、第1話のモチーフとして熊害史上最悪と呼ばれる「三毛別羆事件」があるのではないかと勘繰ってみたり。実際に凄惨な現場を目の当たりにした炭治郎が、冬眠に失敗した熊(穴持たず)の仕業ではないかと疑う描写も見られました。
2:少年マンガの正統派主人公“竈門炭治郎”
前述の通り、本作は家族を鬼に殺された炭治郎の視点で物語が展開。いうなれば炭治郎の視点=読者の視点であり、同時に読者自身が炭治郎の成長を見届けることになります。そんな炭治郎の性格はとにかくひたすら優しく真っ直ぐで、憎き相手であるはずの鬼にすら同情や憐みの心を抱けるほど。また“強くなる”ための努力を惜しまず、こちらがちょっと恥ずかしくなるくらい自身を鼓舞するような場面も度々描かれているのが特徴です。ある意味ここまで実直かつストレートなキャラクターというのも久しぶりな気がして、少年マンガの王道的主人公として誰もが共感を覚えやすいのではないでしょうか。さらにいえば“強くなりたい”=“弱い自分”をはっきり認識していることにもなり、そんな“弱さ”に母性本能をくすぐられている人も少なくないかもしれません。
3:鬼と化すも健気に兄を守る妹“竈門禰?豆子”
全編を通じて、炭治郎の行動原理にもなっているのが妹の禰?豆子。第1話で鬼の襲撃に遭いながら一命は取り留めたものの、日の光を浴びれば消滅してしまう鬼と化すことに……。一方で自我をギリギリ保つことで炭治郎を守り、“人を喰わない鬼”となることが、単純なことのように思えて実は本作における重要な要素にもなっています。鬼の力を有しているとはいえ家族を喪った炭治郎にとって心の拠り所であることに変わりはなく、無慈悲な作品の根底に流れる“兄妹愛”の温もりこそ読者にとっての拠り所になっているはず。また日中は日の光を避けるため炭治郎が背負う木の匣で眠っていますが、戦闘時には着物を翻して戦う姿がなんとも凛々しく魅力的。竹の轡や髪留め、ピンク色を基調にした瞳や着物などピンポイントのキャラクターデザインも目を惹くところであり、女性芸能人がこぞって“禰?豆子コス”を披露していることからもその存在感の強さが窺い知れます。
4:竈門兄妹をサポートする仲間“我妻善逸・嘴平伊之助”
物語序盤から登場し、炭治郎とともに鬼殺隊の一員として鬼狩りに向かうのが我妻善逸と嘴平伊之助の2人。炭治郎に負けず劣らずの人気を誇り、もちろん「無限列車編」でもしっかり活躍する場面が描かれています。彼らの魅力を紐解くと、まずは濃すぎるキャラクター設定が挙げられるのではないでしょうか。たとえば善逸は剣士でありながら極端なビビりで、敵地では常に悲鳴をあげてばかり。その反面大の女の子好き(当然禰?豆子のことも大好き)であり、「無限列車編」では彼の夢の中に侵入した少年が“男”であるが故に恐怖のどん底へと叩き落とされることに……。言葉を選ばず書くならば本作随一のヘタレキャラでもありますが、実は失神してからが善逸の腕の見せ所というのがなんとも心憎い演出。「雷の呼吸」の使い手である彼の活躍は、「無限列車編」の中でもきらりと輝くシーンに仕上がっています。
また猪の面を被った伊之助(素顔は中性的なイケメン)は、まさに絵に書いたような猪突猛進タイプのキャラクター。世間知らず故に炭治郎や善逸を困らせる場面も度々描かれていますが(二刀の日輪刀を敢えて刃こぼれさせるくだりは爆笑必至)、ある意味では炭治郎以上に実直な性格であり、実は本作の中で最も感情の振れ幅が大きいキャラとも呼べるかもしれません。伊之助が周りに憚ることなく大粒の涙をこぼす時は、おそらく読者・視聴者・観客も全く同じ感情を胸に抱えているはず。伊之助に感情をリンクさせることで、文字通り彼が読者たちの“代弁者”にもなるのです。
5:宿敵・鬼舞辻無惨が放つ悪役としての“圧倒的カリスマ性”
本作における唯一無二の宿敵にして、鬼の始祖たる存在の鬼舞辻無惨。彼が“人間だった”ころのエピソードは平安時代までさかのぼり、病弱だったことがきっかけで鬼と化した過去を持ちます。とはいえ鬼化したあとの無惨の行動は最後の最後まで一切同情に値するものではなく、特に物語の本筋における冷静沈着にして圧倒的な強さは他に類を見ないほど。故に絶対的な支配者であり、上弦の鬼・下弦の鬼を従える姿は純粋悪にしてなぜか目が離せなくなってしまいます。なお無惨は男女の性別を問わず度々容姿を変化させていますが、原作の最終章にあたる無限城での決戦時は白髪で眼光も鋭く、体から鞭のような触手を幾本も生やした姿に。また全身に鋭い牙の並ぶ口まで生え、さらには…… と序盤登場時の原型をとどめていないほどの異形のモンスターへと化していきます。これは推測に過ぎませんが、そのキャラクターデザインから察するに吾峠呼世晴さんは『遊星からの物体X』や『寄生獣』を意識されているのではないかな、と思えるほど。この辺りのタイトルがお好きな映画ファンは、ぜひとも本作を最終章まで読み通してほしいものです。
6:個性派キャラしかいない鬼殺隊の“柱”たち
鬼狩りの組織・鬼殺隊の中でも最強の剣士であり、炭治郎にとって目指すべき存在となるのが十人の“柱”たち。原作・アニメともに「那田蜘蛛山編」終了後に、前述の煉獄杏寿郎(炎柱)も含め、冨岡義勇(水柱)、胡蝶しのぶ(蟲柱)、宇髄天元(音柱)、甘露寺蜜璃(恋柱)、時透無一郎(霞柱)、悲鳴嶼行冥(岩柱)、伊黒小芭内(蛇柱)、不死川実弥(風柱)が一挙に顔を揃えます。最強の剣士たちとあってその実力は言わずもがな。それだけでなくビジュアルも含め“超”をつけても足りないくらいの個性派揃いであり、各々の特色が物語の展開において有機的に機能していく様子も本作の大きな魅力となっています。全員を紹介できないのが惜しいくらいですが、朴訥でありながらどこか人情味あふれる冨岡や、炭治郎たちの成長を見守り時には毒も吐くしのぶ、炭治郎のメンター的存在である煉獄は要チェックキャラ。
7:炎柱・火の呼吸の使い手、煉獄杏寿郎の“熱き血潮”
「無限列車編」において“もう1人の主人公”たる煉獄は、彼の行く末もあって本作での人気は絶大。その理由として考えられる要素を挙げると、炎の呼吸を司る驚異的な体技はもちろん、「よもやよもや」が口癖の明朗な性格、そして炭治郎の成長に欠かすことはできなかった指導者としての表情など、数えあげればキリがありません。また彼の幼少期にまつわる父親の煉獄槇寿郎、弟の千寿郎とのエピソードは、現在の煉獄というキャラクターを知る上でも重要な位置づけにあります。特に母親・瑠火の存在は煉獄にとってあまりにも大きく、「無限列車編」の終盤でしっかり回収されているほど。絶大な力を誇り、鬼になるようそそのかされても毅然と拒絶する姿はまさしく炭治郎を強き者へと押し上げる指導者としても相応。煉獄にまつわる描写からは一切目が離せないので注意しましょう。
8:敵味方関係なく丁寧に掘り下げられる“キャラクターの背景”
本作が他の作品と一線を画す理由の1つに、丁寧すぎるほどじっくり描かれる各キャラクターの背景の深掘りがあります。中でも死に際に垣間見る走馬灯のようなシーンは実に幻想的。悲劇(と言い切ってしまっていいでしょう)でありながら、慈愛に満ちた瞬間とも受け取れます。読者にとっては辛く切ない場面でも、生い立ちや辿ってきた足跡がじっくり描き込まれることで、そのキャラクターにとって魂の昇華に伴う“救済”になっているような気がしてなりません。また主人公側だけでなく、本来なら憎まれ役として終わっていく鬼側も分け隔てなく掘り下げることで、感情移入する余地を与えているのも本作の特徴。つまり敵味方関係なく作品に登場するキャラクターの数だけドラマがあり、結果的に作品の世界観を広げることにもなっているのです。
9:誰が生き残るかわからない“無慈悲”な展開
作品に登場するキャラクターが個性豊かであればあるほど、前述のように受け取り手はそのキャラクターに感情移入しやすくなります。また強ければ強いほど惹かれるものではありますが、本作はたとえメインキャラであろうとも容赦なく退場していくので、気を抜くことが全くできません。言い換えればより強き者が生き残る世界であるとはいえ、その差は紙一重というバトルが大半を占めています。それだけに“推しの死”は唐突に訪れる形になり、作品を支えてきた人気キャラの退場時にはTwitterでその名前がトレンド入りを果たすほどでした。さらに容赦のないことに本作は人体損壊の描写も多く、やはりたとえ人気キャラであっても凄惨な最期を迎えることが……。それこそTwitterでは“鬼滅本誌”や“地獄絵図”といったフレーズが飛び交い、その単語の端々からもどれだけ異常な状況が描かれているかが窺い知れるのではないでしょうか。本作は男女間の力量差がなく強い者がただただ強いという単純な構造も魅力ではありますが、その分戦闘に敗れれば平等に死が訪れる点も、緊張感を極限まで高める要因になっています。
10:絶妙な間合いで描かれる“コメディシーン”の面白さ
無慈悲なストーリー展開が胃をキリキリさせる一方、随所に差し込まれるコメディシーンは思わずほっこりしてしまうものばかり。緩急をつけた場面転換のバランスが実に絶妙で、気づけば誰もがペースをコントロールされているはずです。人体破壊も平然と描かれる作品世界において、作画を敢えて崩してまで描かれるギャグパートは、ある種緩衝材の役割を担っているのかもしれません。11:無駄な要素・展開を排除した抜群の“構成力”
シリアスシーン・コメディシーンがバランスよく配置されていることからもわかるように、本作は計算し尽くされた構成力が光る作品でもあります。特に顕著と思えるのが、本作の主要キャラがほぼほぼ序盤で出揃う点。炭治郎・善逸・伊之助は序盤で出会い、十人の柱も早い段階で登場し、以降クライマックスに至るまで新たなキャラクターが仲間になることはなく、バトルマンガにありがちな“敵が味方になる”ようなこともなし。無駄にストーリーを膨らませず、ある程度情報を出し切った上で物語が進行していくので、初めて作品に触れる人でも理解しやすいという利点があります。12:社会現象を巻き起こしている最中に完結を迎えた“潔さ”
もともと一定の人気がある剣戟や鬼狩りといった要素が組み合わさった本作は、当初から本誌でも支持を獲得。とはいえ現在に至るような弩級のブレイクを果たしていたというわけではなく、人気を加速させた理由はクオリティの高いアニメ化によるところが大きいといえます。実際にアニメ放送を機に単行本の発行部数はうなぎ登りの様相を見せ、店頭で品薄状態になったことや、SNSで盛んに話題になったことも大ヒットを後押ししました。本作は最終章付近で一大ブームを巻き起こし、クライマックスの無惨戦では読者の間で「このまま完結するのか、それとも新章に突入するのか」という点にも注目が集まることに。これだけのブームを巻き起こして終わらせるはずがないと考える向きもあったかもしれませんが、結果的に本作は社会現象を巻き起こしているさなかに堂々完結。その点も構成力の高さに直結していて、潔く炭治郎たちの物語に幕引きをおこなった作者の手腕は見事としか言いようがありません。
13:アクションに驚異の躍動感を与えたアニメ制作会社“ufotable”
本作を社会現象化させる要因の1つとなった、アニメ化の成功。その主軸がアニメ制作会社の「ufotable」であり、声優陣の熱演とともに圧巻のバトル描写が作品の人気を支える形になりました。もちろん原作の筆致でも十分なほど迫力は伝わってきますが、色彩や線画、2Dと3Dを巧みに融合した映像表現はまさにアニメーションの醍醐味。テレビシリーズの時点で贅沢なほど美麗なシーンが展開されましたが、「無限列車編」ではさらに圧倒的な躍動感がスクリーンを突き破りそうな勢いで観客を包み込みます。また煉獄の火の呼吸や上弦の参・猗窩座とのハイスピードバトルはまさに映画向けであり、ufotableのずば抜けた表現力が発揮される絶好の機会になったのではないでしょうか。14:物語に豊かな情感を与えた“音楽”の力
忘れてはならないのが、同じ制作陣によって奏でられたテレビシリーズと「無限列車編」の音楽。LiSAさんが歌う「紅蓮華」(テレビシリーズ主題歌)は本作の魅力を象徴するようにパワフルであり、転じて「炎」(「無限列車編」主題歌)は壮大なバラードにして煉獄のテーマとも呼べるほどその情景に寄り添った歌詞とメロディが涙を誘います。「無限列車編」の内容もあって、「炎」のサビを聴いただけで目頭がウルっとしてしまう人も多いのでは?また梶浦由記さんと椎名豪さんによる劇伴も、和をテーマに耳に馴染みやすい楽曲の数々が印象的。バトルシーンを音楽の面から鼓舞するリズムだけでなく、情感たっぷりに響く繊細な音色も本作になくてはならない重要な要素となっています。
まとめ
2020年12月4日発売のコミックス23巻で完結となった『鬼滅の刃』ですが、本来その魅力はもっと細分化して書き綴れるほど豊富。巻数は意外とコンパクトに収まっていてもそれだけの見どころに溢れ、探れば探るほど語りどころも増えていきます。既に原作を読み終えている人は、改めて読み返して炭治郎たちが歩んだ物語を辿るのも一興。まだ作品に触れたことがないという人も、今からでも全く遅くはありません。海を飛び越え世界へとその人気が拡散されている本作の魅力を、じっくり堪能してみてはいかがでしょうか。(文:葦見川和哉)
作品情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』2020年10月16日(金) 公開
声の出演 花江夏樹/鬼頭明里/下野紘/松岡禎丞/日野聡/平川大輔/石田彰/小山力也/豊口めぐみ/榎木淳弥 ほか
監督:外崎春雄
ストーリー
吾峠呼世晴原作によるアニメ「鬼滅の刃」の劇場版。TVアニメ最終話「新たなる任務」で“竈門炭治郎 立志編”の物語が幕を閉じ、主人公の竈門炭治郎とその仲間たちが映画の舞台となる“無限列車”に乗り込むシーンで終了した。本作ではその無限列車を舞台に、炭治郎たちの新たなる任務が描かれる。蝶屋敷での修業を終えた炭治郎たちは、次なる任務の地、《無限列車》に到着する。そこでは、短期間のうちに四十人以上もの人が行方不明になっているという。禰豆子を連れた炭治郎と善逸、伊之助の一行は、鬼殺隊最強の剣士である《柱》のひとり、炎柱の煉獄杏寿郎と合流し、闇を往く《無限列車》の中で、鬼と立ち向かうのだった……。
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(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable