「逃げ恥」「アンナチュラル」「MIU404」、脚本家 野木亜紀子が届ける“絶望と希望”


©TBS

「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」「MIU404」などの脚本を手掛ける野木亜紀子。作品名を聞いてどれも好きだという方もいらっしゃると思います。

野木亜紀子が脚本を担当する作品は、観る人の共感を誘う絶望の側面と、救いのない状況の先ににある希望のどちらも存在していることだと思います。を、言葉の力で感じさせてくれるところだと思います。過去と現在とに絶望を抱えつつも、ひたむきに少しずつ前に進んでいく登場人物たちや登場人物たちが発する言葉には背中を押されます。

今回は野木亜紀子作品で個人的にグッときたセリフとともに代表作を振り返っていきます。

逃げるは恥だが役に立つ(2016年)
ー自分は誰にも愛されないのではと思っているあなたへ

二度の就職活動に失敗し、派遣社員として働くも派遣切りにあってしまい「自分は選ばれない」と思っている森山みくり(新垣結衣)と、彼女いない歴35年のプロの独身・津崎平匡(星野源)がひょんなことから夫=雇用主、妻=従業員という給与が発生する契約結婚をする海野つなみさんの漫画が原作のラブコメディです。

器用貧乏な主人公二人をはじめ、生涯独身のみくりの伯母百合ちゃん(石田ゆり子)、平匡の同僚沼田さん(古田新太)、みくりの親友でシングルマザーのやっさん(真野恵里菜)など、少し変わっていながらも愉快で良い人、そして心の底では愛されたいと願っている登場人物たちが愛おしいです。全体的にユーモラスで軽めなので、肩ひじ張らずに観られるのも魅力的です。


「いいなぁ、愛される人は。愛される人は、いいなぁ…」


第4話において、とある出来事からみくりとの契約結婚を解消しようか考える平匡が、前の生活に戻るだけだ……と何でもないことのように考えていたはずなのに出てきてしまったモノローグ。テキストだけでも切ないですが、星野源さんの言い方が本当に切なくて、最後の「いいなぁ」は涙声になっていて、このセリフがもし少しでも心に引っかかった方はぜひドラマで音声を聴いていただきたいです。沁みます。

アンナチュラル(2018年)
ー真実から逃げずに向き合いたいあなたへ

©TBS

不自然死の死因究明を目的とする「不自然死究明研究所(UDIラボ)」で原因不明の「死」にまつわる謎や事件を解明していくプロフェッショナルな登場人物たちの人間ドラマを中心に描かれた作品です。

一家心中で家族を失った過去を持つ三澄ミコト(石原さとみ)と、殺された恋人の解剖を自ら担当し、今も真犯人を探している中堂(井浦新)。二人はつらい過去を抱えながらもご遺体となって運ばれてくる人たちの死と向き合っていきます。

ご遺体は生き返らないけれど、死の原因を究明することで残された人に少し希望がもたらされることがあります。また過去を抱えながらも、希望を持って前向きに生きようとしているミコトと、真犯人を見つけたら殺したいと思っている中堂が最後にどんな選択をするのかが最後まで目の離せない作品でした。石原さとみ演じるミコトと、市川実日子演じる東海林のサバサバ女子コンビが一緒にご飯を食べるシーンも結構好きでした。ちゃんと働いたらちゃんと食べる、大事なことです。


「絶望している暇があったら、うまいもん食べて寝るかな」


第2話、六郎(窪田正孝)の「三澄さんは絶望とかしないのかな」という言葉への返しであるが、絶望しても無理もない経験をしたミコトが言うこの言葉は、作品全体に流れる力強さを象徴しています。日常の些末なことで落ち込む自分が少しだけ馬鹿らしくなって、めげずに頑張ろうと思えます。「アンナチュラル」は全編通して名ゼリフがたくさんなので、未視聴の方はぜひこの冬にチェックしてみてください。


この作品が好きな人にオススメの not野木ドラマ
きらきらひかる(1998年)




野木亜紀子脚本ではありませんが、同じく死の真相を解明する監察医の物語です。「アンナチュラル」の20年前の作品ですが、深津絵里演じる新米監察医と先輩の鈴木京香・小林聡美の関係や彼女たちをまとめる上司の柳葉敏郎、警察官の松雪泰子のカッコ良さなど、演じる俳優たちの魅力は時が経っても色褪せません。また、判明した真実が涙を誘うエピソードも多く、「アンナチュラル」にハマった人なら楽しめる作品です。

獣になれない私たち(2018年)
ー生きるのが下手、生きづらさを感じているあなたへ


©NTV

いつも笑顔で仕事も完璧な裏で、実はそのためにただならぬ努力をしており、誰に対しても都合よく振舞ってしまう深海晶(新垣結衣)。世渡り上手で人当たりが良い公認会計士でありながら、実は調子よく振舞っているだけの根元恒星(松田龍平)。一見うまくいっているようでいっていない二人が、クラフトビールバーで出会ったところから始まる、ラブストーリーならぬラブかもしれないストーリーが本作。


「馬鹿になれたら楽なのにね」


第1話のこのセリフですべてを持っていかれました。主人公の置かれている状況、ブラック企業を経験した人にはなかなかくるものがあり、私もその一人。放映当日のTwitterには「つらすぎて途中離脱した」という人までいるほどでした。終電を逃し、恒星に軽く誘われた晶が「私はバカじゃないからそんな誘いには乗りません」と言ったのに返されたセリフです。

おそらくほとんどの人は「馬鹿にはなりたくない」「馬鹿だと思われたくない」と思っているし、そうならないように行動したり振舞ったりしている。でもこのセリフで「馬鹿になれないから苦しいのか!」という気づいてしまいました。「野木亜紀子ハンパない」……と改めて思った瞬間でした。

ちなみに新垣結衣演じる主人公には彼氏(田中圭)がいるのですが、この彼氏、とんでもない秘密を抱えていまして、そのあたりの事情も含めて晶と恒星がどうなるのか、ぜひ見届けてほしい作品です。

MIU404(2020年)
ー人間関係に悩みや行き詰まりを感じているあなたへ

©TBS

『コウノドリ』でも正反対の役で共演した綾野剛と星野源のW主演作品。

警視庁の元捜査一課だが、とある理由から異動になった志摩(星野源)と、機動力と運動神経に長けているが常識外れのバカのため、奥多摩の交番勤務だった伊吹(綾野剛)が、立ち上がった機動捜査隊(4機捜)でバディを組むことになります。シリアスな事件、主人公二人が時にぶつかりつつも絆を深めていく様子、良い意味でお互いによって変わっていく様子に非常に心惹かれた作品でした。また主人公二人だけでなく、父親が警察庁刑事局長のエリートである九重(岡田健史)と、ベテラン刑事陣馬(橋本じゅん)のバディの関係の変化も見どころです。


「玉突きされて入った俺が、404で志摩と組むことになって、二人で犯人追っかけて、その一個、一個、一個が全部スイッチで! なんだか人生じゃん! 一個一個、大事にしてえの。諦めたくねえの。志摩と全力で走るために必要なんすよ」


第6話、相棒殺しと呼ばれた志摩の過去を探る伊吹が言ったセリフ。自分の責任で元相棒が死んだと思っていて、どこかで関わりを恐れている志摩に対して、伊吹との関わりを諦めない伊吹に胸が熱くなる言葉でした。人との関わりに疲れてしまうことはありますし、特に今は人と関わることがままならない時代。人と積極的に関わっていきたい、人と関わることで良くなっていくこともたくさんあるなと感じさせてもらえた作品でした。

全員の演技が素晴らしいこの作品、伊吹の恩人である蒲郡(小日向文世)の演技(特に第9話)もすさまじいのでぜひ観ていただきたいです。

この作品が好きな人におすすめの not野木ドラマ
dele(ディーリー)




「MIU404」と同じく、真逆な二人がバディを組み難題に立ち向かっていく、麻生久美子が重要な役でで出ているという点や、ドラマ全体の雰囲気が個人的に似ていると感じる作品。「MIU404」ではどうしようもない悪人を演じた菅田将暉が、真っ直ぐでどちらかというと感覚派な青年(「MIU404」でいうと綾野剛のポジションに近い)を演じているので、対比を楽しむという意味でも楽しめると思います。

罪の声(映画・2020年)


(C)2020 映画「罪の声」製作委員会

実際に起こった未解決事件(グリコ森永事件)をモデルにした塩田武士の小説が原作です。事件の脅迫テープに使われた子どもの声が自分のものだったということに気付いてしまった曽根俊也(星野源)は、他に二人の子どもの声が使われていたと知る。一方35年前に起こった同事件の真相を追う新聞記者・阿久津英士(小栗旬)。二人は出会い、辿り着いた真相とは……?というストーリーです。

「逃げるは恥だが役に立つ」同様に原作がありながらも、要所要所で野木亜紀子の脚色したセリフが効いている、そんな作品でした。また、過去の野木亜紀子作品に出演した俳優が数多く出演しているので、ファンにはそんなオールスター大集合感も楽しめる要素です脅迫テープに使われた声の主の一人である少女が、友達に電話で伝えた言葉が印象的でした。ぜひ本編を鑑賞の上で確認してほしいです。

まとめ

人生は、うまくいく時ばかりではありません。自分のコンプレックスや欠点は、なかなか解消できない。死んだ人は生き返らない。

それでも、現在と未来を生きていかなければいけない私たちに勇気をくれる野木亜紀子作品は私たちに勇気や活力を与えてくれます。2021年もたくさんお世話になって生きていくことでしょう。まずは「逃げるは恥だが役に立つ」スペシャルドラマ、とても楽しみです。

(文:ぐみ)

TBS「逃げるは恥だが役に立つ」ガンバレ人類!新春スペシャル!!

2021年1月2日(土)夜21:00~

http://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/

TBS「アンナチュラル」再放送

2020年12月30日(水)26:00〜30:00(午前2時〜6時)

2021年1月1日(金)25:30〜29:00(午前1時30分〜5時)

2021年1月2日(土)24:30〜28:00(午前0時30分〜4時)

TBS「MIU404」再放送

2021年1月3日(日)4:00~15:00

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