映画コラム
『テスラ エジソンが恐れた天才』レビュー:芸術肌発明家の脳内を覗く奇想天外な伝記映画
『テスラ エジソンが恐れた天才』レビュー:芸術肌発明家の脳内を覗く奇想天外な伝記映画
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
2020年に日本で公開された『エジソンズ・ゲーム』(19)の中でも描かれた、19世紀末の電流戦争。
このとき直流派のエジソン(カイル・マクラクラン)と交流派ウエステイングハウス(ジム・ガフィガン)が熾烈な争いを繰り紘げていく中で、後者に味方して見事に交流派を勝利に導いた発明家がニコラ・テスラ(イーサン・ホーク)です。
本作はそんなテスラの人生を描いた伝記映画……ではあるのですが、実は一風変わった作りにもなっています。
このテスラ、発明とビジネスを両立させるべく(良くも悪くも)無慈悲に腐心し続けたエジソンとは真逆に、まるで発明のことしか頭にない完全無欠のオタク系で、一方では当時にして現代のインターネットみたいなことを考えたりもしていた天才でもあったわけです。
そして本作はいわゆる伝記ストーリーの合間に、突如大富豪J・P・モルガン(ドニー・ケシュウォーズ)の愛娘アン・モルガン(イヴ・ヒューソン)がいきなり現代のグーグルでテスラの検索を始めたりしながら、あたかもドキュメンタリー番組の案内人のように、彼について語り出したりします。
いやはや、まるでテスラの脳内を覗くかのような描写ではありますが(こういった時空の錯綜感覚は、マイケル・アルメレイダ監督の作風でもあるようです)、これこそテスラが常に未来を見据えていたことを伝えるための大胆な手法であり、むしろこういったシーンが伝記部分と対等に存在するくらいでも良かったのではないかと思えるほど。
映画の後半、テスラがいきなり歌い出すシーンに至っては、そこまでの凝った構成にニンマリしていた側からすると我が意を得たりの面白さで、またそこにこの映画およびテスラという芸術肌の天才の孤独が見事に表現されていたとも断言できます。
その意味でも惜しむらくは、その後のテスラの晩年に至るまでが割とあっけなくて、特に前半から中盤までの電流戦争におけるユニークかつスリリングな描写の数々に比べると、若干の物足りなさを覚えてしまいました。
もっともっと大胆に冒険して、類のないぶっとんだ映画にすれば、この孤高の天才の本質がよりわかりやすくなったかもしれません。
ところで、電流戦争と並行しながらエジソンは映画を発明し、やがてはそれをビジネスにすべく機材などに法外な特許料をかけるようにもなり、最終的にはそうした横暴から逃れるべく、西海岸の農村へ赴いた草創期の映画人たちが築き上げたのがハリウッドでした。
個人的にはこちらの極悪非道(?)エジソンと、彼に歯向かった映画人たちの“映画戦争”を映画で見てみたいとも思うのですが、いかがなものでしょう?
(文:増當竜也)
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