『明日の食卓』『女たち』『茜色に焼かれて』etc……今、日本映画の女優たちがすごいことになっている!
『女たち』が描く、文字通り激しい愛憎がもたらす生きざま
内田伸輝監督作品『女たち』は、そのものずばり“女たち”の生きざまを激しい愛憎のぶつかり合いをもって描いた秀作です。
舞台は山あいの静かな田舎ながらも、コロナ禍に見舞われてどこか息苦しい町の中、主に3人の女性が登場します。
地域の学童保育所で働く独身の美咲(篠原ゆき子)は、母(高畑淳子)の介護に大きなストレスを感じています。
母も身体が思うように動かせない苛立ちと苦しみを娘にぶつけまくっていて、さらには新しいヘルパーのマリアム(サヘル・ローズ/彼女も4人目の「女」としてなかなかの存在感)をひいきする分、あてつけるように我が娘をののしる始末。
そんな忸怩たる日々を過ごしている美咲が唯一心を開いている親友が香織(倉科カナ)です。
養蜂家でマイペースに自由な日々を過ごしているかのような香織は、美咲にとってどこか憧れるところもあるようです。
しかし、そんな香織にも心の闇はありました。
そして、やがて香織の起こした行動は、美咲と周囲の人々にも大きな影響を与えていくのです……!
昨年は「相棒season19」が話題になるとともに主婦同士の対立を描いた映画『ミセス・ノイズィ』(20)がクリーンヒットとなった篠原ゆき子ですが、ここでは学業も恋愛も上手くいかないまま家庭の事情に振り回されて歳だけ重ねていった女性の複雑な心理を見事に体現してくれています。
一方で、いわゆる毒母を演じるベテラン高畑淳子の上手さは定評あるところではあれ、今回はさらにこちらの予想の上をいくすさまじさで、まただからこそ後半は大いに場をさらうほどのオーラを発散させまくっています。
そして今回特筆すべきは倉科カナで、もっとも優雅な佇まいを示しながら、実は……という一歩間違えると取りとめのなくなってしまう難しい役柄を、自身の感性を信じて演じ切ったようなカタルシスが満ちあふれているのでした。
内田伸輝監督はそんな“女たち”と絶妙な距離を保ちながら、彼女たちの感情のぶつかり合いをクールな長回し撮影で捉え続けていきます。
特に昨今の説明台詞まみれの日本映画の中、本作は極力説明を排した画の力で、もはや説明不要なまでに説得力のある女たちの生きざまを描出してくれています。
かつては『ハチ公物語』(87)『226』(89)などで“日本映画界の風雲児”とも謳われた製作の奥山和由にとって本作はかなりの低予算作品で、それは現在の日本映画界の苦境を奇しくも反映しているようにも思えてなりません。
(コロナの時代であることをあえて劇中に入れ込んでいるのも、そういったさまざまなリアルを意欲的に伝えたかったからでしょう)
しかし、今回はだからこそのカツドウヤ魂とでもいった執念がスタッフ&キャストにまで飛び火して、幾多のメジャーを駆逐するに足る快作をものにすることが出来たに相違ないのでした。
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