<ひきこもり先生>最終回まで全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第2話ストーリー&レビュー
第2話ストーリー
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「ようこそ!STEP(ステップ)ルームへ」
上嶋陽平(佐藤二朗)が中学校に通い始めた初日、不登校生徒の坂本征二がおにぎりを万引きしたという連絡が学校に入る。征二は無職の父・征一(村上淳)と二人暮らしで、深刻な貧困状態にあった。スクールソーシャルワーカーの藍子(鈴木保奈美)は生活保護の申請を勧めるが、征一は頑として受け付けず、別居中の母・ユキ(内山理名)も家に戻る素振りはない。陽平は、希望を失いかけている征二を連れて、ユキの職場を訪ねていく。
第2話レビュー
第2話も、お腹の下あたりにドスンと響き、やがてタイトルバックのように一瞬の晴れ間がのぞくような、濃密なエピソードだった。
ひきこもり生活を11年経験してきた上嶋陽平(佐藤二朗)が、中学校の不登校児を集めた「STEPルーム」の非常勤講師に就任する。教室から逃げようとして、STEPルームの担任教師、深野祥子(佐久間由衣)に襟をつままれて子猫のように連れ戻されるのが可愛らしい。
陽平がSTEPルームで最初に直面したのは、深刻な貧困にあえぎ、コンビニでおにぎりを万引きしてしまった生徒、坂本征二(南出凌嘉)のこと。
彼の父親、征一(村上淳)は事故で仕事を失い、うつ状態になってひきこもりになっていた。セルフネグレクト状態の征一は、生活保護の申請を進められても頑なに拒絶。家を飛び出した母親、ユキ(内山理名)も帰宅を拒否していた。両親が養育義務を放棄しているのだ。
スクールソーシャルケースワーカーの磯崎藍子(鈴木保奈美)は苦悩する。彼女は「親であること」の重さ、大切さを征一とユキに訴えかけるが、まったく届かない。征二には「お父さんは悪くない!」と突き飛ばされ、ユキには子どもを産んだことがないことを見抜かれて「母親ってものがわかってない」とせせら笑われる。
「私は子どもいません、子ども産んでません。産んでみたかった……。育ててみたかった……。もっと大事にしろよ、自分の産んだ子ども!」
ビールをジョッキであおり、陽平に「強いですね」と言われて藍子は「好きなだけよ」と返すが、これはダブルミーニング。彼女は「子どもを守る」強い使命感があり、今の仕事が好きで仕方がないのだろう。しかし、藍子のきれいごとは、ユキが訴える母親と生活のリアリティに通じない。藍子は自分の無力さにひとり涙を流す。大人だって悩んでいる。それでも、子どもを守らなければいけないのだ。
かつては時代のヒロインを演じていた鈴木保奈美が、この作品では芯が強くて気のいいおばちゃんにしか見えないのが素晴らしい。風俗で働く母親を演じる内山理名の変貌ぶりも凄まじかった。征二役の南出凌嘉は「姉ちゃんの恋人」に続いて好演。これからますますすごい役者になっていくだろう。
一方、陽平は「食べること」と「好きなこと」が気になっていた。前者は生きることそのもの、後者は心の健康に大きく関わってくる。いわば、人間の核にあたるものだ。
人間、生きていれば腹が減る。でも、辛いことがあると、食べることを拒絶するようになる。征一は征二が持ってきたサンドウィッチを振り払ってしまったし、藍子も悩んでいるときは焼き鳥を口にしなかった。征二がオムライスや陽平が持参した焼きとり弁当を頬張るのは、彼の心がまだそれほど病んでいない証拠でもある。
征二は父親が好きなおにぎりの具を知っていたし、母親が毎日持たせてくれていた弁当を「世界中で一番おいしい」と思っていた。食べることは生きることだ。親子は一緒に同じものを食べて生きてきた。陽平は別れてしまった子どもが好きなおにぎりの具を知らない。だけど、愛情の深い母親(白石加代子)はいつも食事の心配をしてくれる。だからこそ、征二たち親子の深い結びつきがわかるのだ。
「こわさないでください。子どもを……子どもを、子どもを手放したら、ダメです!」
征一の前で、指を組んで這いつくばる陽平の姿は祈るようでもある。続けて、陽平は征二とともにユキを訪れる。征二に持たせた家族の思い出の花、白いトルコキキョウの花言葉は「思いやり」。平穏だった頃の家族は、お互いの思いやりを忘れていなかった。征二の気持ちと陽平の愚直さが、頑なだった大人たちの壁に少しヒビを入れる。
次に征二自身の心のケアだ。STEPルームの担任、祥子は「好きなこととか、それをきっかけに一歩、踏み出せることもあります」と陽平に教える。陽平も大好きな花の世話をするために学校に通っていたから、好きなことの大事さはよくわかっている。第1話で堀田奈々(鈴木梨央)の心を開いたきっかけになったのも、彼女が大好きなアイドルグループ、GANG PAREDEの曲だった。
陸上部だった征二の「好きなこと」は「走ること」。どう見ても走るのが苦手そうな陽平だが、征二とともに何度も走る。スニーカーを買い揃えて、みっともない姿で走る。
「走れ、走れ、走れーっ!」
そう叫んで、青息吐息の陽平はグッと征二の背中を押す。子どもの背を押すのが大人の役割だ。好きなことを取り戻した征二は、陽平と抱き合って笑う。まだまだ現実的に解決しなければいけない問題はたくさんあるが、彼はもう大丈夫、そんなことを確信させてくれるような笑顔だった。
第3話の予告では、また胸が押し潰されるようなシーンが展開していた。陽平は過酷ないじめの問題にどう立ち向かうのだろうか?
※この記事は「ひきこもり先生」の各話を1つにまとめたものです。
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