<ひきこもり先生>最終回まで全話の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】
第3話ストーリー&レビュー
第3話ストーリー
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「いじめの法則」
元ひきこもりの陽平(佐藤二朗)が中学校の不登校クラスの先生になったことが話題になり新聞でも紹介される。まだ学校に慣れない陽平は、ひきこもり仲間の依田(玉置玲央)に叱咤(しった)激励される日々。そんな中学校の花壇が何者かに荒らされる。それは生き物係の和斗をいじめているグループの仕業だった。陽平は和斗を守ろうと不登校クラスに誘うが和斗はかつて同じクラスだった奈々と目が合った途端、教室を飛び出してしまう。
第3話レビュー
「苦しいときは学校なんか来なくていい!」
「苦しかったら、学校なんか、来なくていいんだ! 苦しかったら、苦しいときは……学校なんか来なくていいんだ」
佐藤二朗演じる上嶋陽平が絞り出すようにして叫んだ言葉で思わず涙腺が緩んでしまった「ひきこもり先生」第3話。タイトルは「いじめの法則」。重いテーマだ。
11年間のひきこもり生活から脱した陽平が非常勤講師として勤める中学には、あちこちにいじめがあった。きっかけはさまざま。不登校児が通うSTEPルームの松山ちひろ(住田萌乃)は、友達からのメッセージに返信しなかっただけでいじめの標的にされていた。
スクールカウンセラーの磯崎藍子(鈴木保奈美)は「スクールカースト」の存在を指摘する。カースト上位の生徒が下位の生徒をいじめる。しかし、上位の生徒はいついじめられる側にまわるかわからない。いつも花壇にいる伊藤和斗(二宮慶多)は、カースト上位の奥山博喜(中川翼)に指示されて堀田奈々(鈴木梨央)をいじめていたが、奈々が不登校になってからは苛烈ないじめを受ける側になっていた。
和斗は不登校児ではない。毎日欠かさず学校へ行く。だが、教室には居場所がなく、いつも花壇にいる。学校に居場所がない。家にいることもできない。そんなの苦しいに決まっている。さらに追い打ちをかけるように、いじめがある。いじめは人の心を殺す。
磯崎はもうひとつ重要な問題を指摘していた。スクールカーストによるいじめを見て見ぬふりをするどころか、カースト上位の子どもを上手く使って学級運営に利用する教師がいるというのだ。和斗のクラスの担任・田代(佐野泰臣)がそうだ。
表向きは優等生なのに裏でいじめを行っている物語といえば、「3年B組金八先生」の第5シリーズを思い出す人もいるかもしれない。風間俊介演じる優等生がクラスでいじめや暴力を扇動し続けるショッキングなストーリーだった。金八先生の息子で、いじめを見て見ぬふりしなかった生徒として出演していたのが佐野泰臣である。このあたりは意識されたキャスティングなのかもしれない。
陽平にできるのは、見て見ぬふりをしないことだけだ。花壇に散らばった和斗の教科書を一緒に拾いながら、絞り出したのが冒頭の言葉だった。「学校なんか、来なくたっていいんだ!」という言葉は、子どもたちにひたすら生き抜いてほしいという強い願いの表れである。学校に来て死にたくなるのなら、そんな場所になんか来なくていい。陽平の言葉は、聞いていた子どもたちの心を揺らす。いじめの被害に遭っている子ども、居場所を失っている子どもは和斗だけではない。
しかし、いじめを告発しようとする陽平に、校長の榊(高橋克典)が立ちはだかる。「不登校はゼロにする。いじめはあってはならない。これ、うちの学校の方針だから」と言って憚らない榊は、いじめを人間関係の問題として処理しようとする。和斗の心が踏みにじられるのを見て、陽平は呻くしかない。
チーフ演出の西谷真一は「ひきこもり先生」が他の学園ドラマと大きく異なる点として、「エネルギーを失った日本を描いている点」だと答えている(スタッフブログ 6月24日)。金八先生はエネルギー全開で問題にぶつかり、生徒にも親にも熱く説教をして改心させ、子どもたちはエネルギーを取り戻した(第5シリーズは生徒全員でソーラン節を踊って大団円になる)。エネルギーがまだ満ちていた時代だった。しかし、今はそうではない。大人も子どもも疲れ果てている。
陽平は愚直に、子どもたちに「消えていい人間なんかいない」と語りかける。意識しているかどうかはわからないが、自分が子どもたちの居場所であろうとしているようにも見える。しかし、第4話では大人たちの論理によって、さらに苦しい立場に追い込まれそうだ。
重い展開の第3話の中で、一筋の光明のようだったのが、ひきこもり歴21年のヨーダ君こと依田浩二(玉置玲央)をめぐるエピソードだった。モニター越しには超然としているのに、学校で働くようになった陽平と対面すると挙動不審になってしまう彼が、自分の意志で家を出るようになった。行き先は家からずいぶん離れたコンビニ。そこで働く店員のビック(フォンチー)に思いを寄せているようだ。彼女から手渡しでおつりを受け取っただけで、生きる喜びを全身で表すように自転車で疾駆するヨーダ君。恋愛がひきこもりから脱するきっかけになるのかもしれない。
※この記事は「ひきこもり先生」の各話を1つにまとめたものです。
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