『そして、バトンは渡された』ネタバレありで魅力を大いに語る


本屋大賞受賞の瀬尾まいこ原作が映画化!

映画『そして、バトンは渡された』は、瀬尾まいこの同名小説が原作(2018年文藝春秋刊)。2019年には本屋大賞を受賞し、数々のメディアで取り上げられ多くの人の知るところとなった。

主人公は女子高生の娘・優子。生まれたときは「水戸優子」だったが、いくつかの苗字を経て、高校生である現在は「森宮優子」になっている。いまや映画・ドラマ界になくてはならない役者である永野芽郁が、少し複雑な家庭環境に暮らす優子をみずみずしく演じている。

優子の父親・森宮さんを演じるのは、その姿を見ない日の方が少ないほど多忙な役者・田中圭だ。彼が演じる森宮さんは、娘である優子とは血が繋がっていない。いわゆる「家庭の事情」というやつで、血縁関係にない親子なのだ。



父・森宮さんと、その娘・優子。血が繋がっておらず年齢も近いこの親子を主軸に、物語は進んでいく。

原作小説の第一章・第一行目である「困った。全然不幸ではないのだ」の一節が記憶に残っている方も多いだろう。そう、優子は悩んでいた。「悩みがない」ことに悩んでいるのだ。一般的には「これまで親がたくさん代わってきた片親の娘」と聞くと、ネガティブなイメージを持たれることが多いはず。



本作の主人公・優子自身も、教師をはじめ周囲の人々から「かわいそう」「大丈夫?」と勝手に心配されてきた。心配してもらっているのに、世間的にはいわゆる”複雑な家庭環境”らしいのに、大した悩みがない自分を申し訳なく思っている。

一方で「自分が泣きながら大層な悩みを打ち明けたら満足してもらえるんだろうか」と、醒めた頭で状況をとらえる冷静さも持ち合わせている彼女。主観と客観のバランスが絶妙な優子のイメージは、原作・映画ともに変わらない。



森宮さんに対するイメージも、まさに原作小説がそのままスクリーンに投射されたかのように差異がない。メガネをかけた東大卒のエリートサラリーマンである森宮さん。娘の優子とは血が繋がっていないけれど、愛情は人一倍だ。ときにその愛情が暴走し、受験を控える娘への夜食としてうどんやオムライスをがっつり作ってしまったりもする。森宮さんの良いところのひとつとして、料理上手である点もしっかり描かれている。

血縁関係にはないけれど、互いに尊重し合い愛情を育んでいる親子。その陰で、対比として描かれるもう一組の親子関係がある。違いを尊重できず傷つけ合ってしまう親子の形だ。

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(C)2021 映画「そして、バトンは渡された」製作委員会

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