『子供はわかってあげない』レビュー:上白石萌歌×沖田修一監督で贈る、ひと夏のガール・ミーツ・お父さん!
『子供はわかってあげない』レビュー:上白石萌歌×沖田修一監督で贈る、ひと夏のガール・ミーツ・お父さん!
人間の滑稽さを優しく包み込む沖田修一監督作品の妙味
結論から先に申して、これは傑作・秀作・快作です!『南極料理人』(09)『横道世之介』(13)『滝を見にいく』(14)『モリのいる場所』(18)『おらおらでひとりいぐも』(20)など、常に人間の滑稽さを慈愛で包み込むようなタッチで描くことに長けた沖田修一監督ですが、ここではひとりの少女の少し風変わりな境遇に基づく実父との、それこそ初対面に近い再会を、これまた滑稽に、そして楽しく爽やかに、どこかしら切なく描いていきます。
上白石萌歌といえば「義母と娘のブルース」(18)「3年A組―今からみなさんは人質です―」(19)「いだてん」(20)などのTVドラマで鮮やかな印象を残し続けてきていますが、本作では映画の代表作もゲットしたと思しき好演。
アクティヴなのかマイペースなのかも定かではない、ヲタク気質な少女の思春期の夏を目いっぱい体現してくれています。
一見明るいがゆえに、心の奥底の本音が見えづらいというか、本人もどう出したらいいのかわからないまま、気がつくと明るくふるまっているといった風情も共感できる同世代の方はさぞ多いことでしょう。
(緊張すると笑い出してしまう、というのもアルアルですね)
聞くと、10代最後の夏に本作の撮影に臨んだとのことで、その意味でも女優人生の中で本作はひとつのモニュメントとして、後世に語られること間違いなし!
実父役の豊川悦司に関しては、もうご覧になってみてください! としか言いようのない、実に不思議な存在感を醸し出しまくっています。
新興宗教の元教祖様で超能力もあり? といったうさん臭さと、今は田舎の指圧師という生真面目さが絡み合うと(さらには水着姿まで見られる!?)、かくも不可思議なおっさん像になるものかと唸らされっぱなしなのでした。
このところの豊川悦司はアメリカ映画『ミッドウェイ』(20)の山本五十六から『いとみち』のお父さん、8月27日より公開『鳩の撃退法』のおっかなさを忍ばせた黒幕など、どれを見ても味のあるものばかりで、若かりし頃にはなかった渋みと飄々感が毎度の魅力となってきているようです。
そんな娘と父の奇妙キテレツなランデブー(?)を前にしては、先ごろ「ドラゴン桜」(21)も評判の細田佳央太とのガール・ミーツ・ボーイのドラマはありえるのかありえないのか? も映画が進むにつれて興味の焦点となっていきますが、そこは見てのお楽しみ。
(ちなみに本作は自転車が出てきますが、それに乗っているのは……)
美波の家庭内の描写も一見にぎやかな中に微妙な感情が忍び寄っていたりもして、その意味では斉藤由貴&古舘寛治といったベテランの上手さに舌を巻きます。
特に古舘寛治は『南極料理人』『キツツキと雨』といった過去の沖田監督作品でも良い味を出していただけに、今回も義理の娘に対する優しさゆえの気遣いみたいなものが好もしく描出されていました。
この人がキャメラをやっているのなら、何はともあれ見てみたいと思わせてくれる撮影の名手・芦澤明子が今回捉えた真夏の映像は、学校のプールと田舎の海、どちらもさわやかながら前者は暑く、後者はどこかしら涼し気に感じられるところも妙味。
基本的には思春期青春夏休み映画のジャンルに入るでしょうが、老若男女オールマイティに楽しめるのはもちろんのこと、今年の酷暑さえも優しく受け止めながら涼しくお返ししてくれるような、そんな素敵な作品として一見をお勧めします。
(文:増當竜也)
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