2021年08月19日

『あらののはて』レビュー:8年前の初恋絶頂感を求めるフリーター風子の滑稽かつ繊細な冒険!

『あらののはて』レビュー:8年前の初恋絶頂感を求めるフリーター風子の滑稽かつ繊細な冒険!



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

好きな子の食べかけのガムを、食べてみたいと思ったことはありますか?

絵画モデルを務めてみたら、不可思議な絶頂感に襲われてしまったことはありますか?



どこか奇妙で一見変態チックながらも、思春期特有の切なさまで兼ね備えたかのような、これらの要素を内包しつつ、本作は照れ隠しのように終始すっとぼけながら、いつのまにか映画は高校2年から8年後の今へ翔びます。

フリーターの野々宮風子(舞木ひと美)25歳は絵画モデルのバイトを務めつつ、あのときの陶酔を味わうことはありません。



やがて彼女は一念発起し、かつて高校時代に自分をモデルにして絵を描こうとしたアランこと大谷荒野(髙橋雄祐)に、再び自分をモデルに絵を描いてくれと要求します。

アランにはマリア(眞嶋優)という幼馴染の恋人がいて、いつのまにか風子とマリアの間でアランを巡っての確執が始まりますが、実は高校時代にも彼を巡って風子は同級生の前田(成瀬美希)にからまれたことがあります。

このように本作は高校時代の前半と8年後の後半を面白い具合に対象化させながら、それぞれの登場人物の滑稽ながらも繊細な想いの数々を真摯に描出していくのでした。



監督・脚本・撮影・編集を務めた長谷川朋史の演出は、長回し撮影の中でフレームの外にいるキャラクターを大いに意識させた演出をユニークに展開させることで、それぞれの孤独感や心の奥行きなどを見る側に感じさせてくれています。

それゆえの音への気配りや、風景の切り取り方もなかなかのものがあり、門真国際映画祭2020で最優秀作品&優秀助演男優賞&優秀助演女優賞、うえだ城下町映画祭第18回自主映画コンテストでは審査員特別賞を受賞といった実績も大いに納得なのでした。

なお本作は長谷川監督と俳優のしゅはまはるみ(本作では風子の友人・珠美役)&藤田健彦(本作ではカサブランカこと山田先生役)が立ち上げたルネシネマの第2回作品。

小規模ながらもこうしたユニークなプロジェクトの実践は、今後とも温かい目で見守り、応援していきたいものです。

(文:増當竜也)

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(C)ルネシネマ

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