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真夏の夜に捧げるホラー『スリー・フロム・ヘル』&『ザ・ヴィジル―夜伽―』
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真夏の夜に捧げるホラー『スリー・フロム・ヘル』&『ザ・ヴィジル―夜伽―』
お盆を過ぎて酷暑のピークこそ過ぎたものの、まだまだ暑い日は続きます。
残暑厳しき中、今回は2本のホラー映画をご紹介!
殺戮大好き一家、メキシコを目指す
『スリー・フロム・ヘル』
本作はミュージシャンとして知られる一方、21世紀のホラー・メーカーとしてマニアに大人気のロブ・ゾンビ監督のデビュー作にして出世作『マーダー・ライド・ショー』(03)『デビルズ・リジェクト・マーダー・ライド・ショー』(05)に続く血まみれバイオレンス・ホラー・シリーズの第3弾です。
殺戮大好きクレイジーな一家のキャプテン・スポールディング(シド・ヘイグ)とオーティス(ビル・モーズリー)、ベイビー(シェリ・ムーン・ゾンビ)の3人は前作での壮絶なラストを経て、刑務所入りを余儀なくされていましたが、オーティスの腹違いの兄弟フォクシー(リチャード・ブレイク)の協力で脱獄に成功。
自由ながらも指名手配の身となった彼らは、自分たちの知名度が薄いメキシコを目指しますが、当然彼らの行く先々に血の雨が降らないはずもなく……。
第2作で死んだとばかり思われていたファミリーが実は生きていた!という、映画ならではの奇跡(!?)によって蘇った殺人ファミリーですが、前作からおよそ15年の月日を経ての新作ということもあって、キャストそれぞれにどこかしら哀愁が漂っています。
そしてタイトルにもある“スリー”が実はこの3人そのままではないことも、シリーズのファンとしてはさまざまな想いを去来させてくれることでしょう。
(嗚呼、追悼シド・ヘイグ……)
その伝ではもちろん第1作から見たほうが最善な作品ではありますが、これ単体として接してもそれはそれで十分楽しめるものになっています。
逆にこの作品でシリーズに興味を持った方、視覚的にも精神的にもダメージがきつい残虐恐怖ゴア描写の度合いは、本作の比ではないすさまじさなので、そのあたりはお覚悟のほどを!
(え、「この映画のレベルで既に卒倒しかねないくらいなのに?」という方は、本当に覚悟を決めて見たほうが良いでしょう……)
これまでもシーンの端々にさまざまな映画オマージュを盛り込んできたロブ・ゾンビ監督ではありますが、今回は悪党がメキシコへ逃亡するという西部劇およびマカロニ・ウエスタンの伝統的なパターンを踏襲しながら、『荒野の用心棒』をはじめとするセルジオ・レオーネ監督&クリント・イーストウッドのマカロニ3部作や、もう若くないワルどもがメキシコをめざす『ワイルドバンチ』などの要素を多分に盛り込んでいます。
また今回、監督夫人でもあるシェリ・ムーン・ゾンビの異様なまでの可愛らしさたるや!(明らかに今回監督は自分の妻をいかに魅力的に捉えるかに腐心している!?)
やっていることはえげつないこと極まりないのに、どこかしらチャーミングに映えてしまう彼女を筆頭に、そうなのです、この殺戮クレイジー家族、第1作ではおぞましき嫌悪感しか抱けなかったものが、第2作あたりで妙に倒錯したシンパシーが湧き上がるようになり、そして今回は完全に見ているこちらも頭がイカレたか、醜悪血まみれ応援MAXモードという、映画を見ているひとときだけに許される醜悪な狂気を大いに体感できてしまうスグレモノなのでした!
ホロコーストを背景にした
『ザ・ヴィジル―夜伽―』
一転して、実に静謐なホラー映画『ザ・ヴィジル~夜伽~』です。
こちらは鑑賞する時間が夜中であればある程、じわじわした恐怖が倍増していくことでしょう(いわゆるトイレに行けなくなるという、アレですね)。
主人公は、ブルックリンのユダヤ教超正統派コミュニティを離れ、普通の生活になじもうとしている若者ヤコブ・ローネン(デイヴ・デイヴィス)。
しかし家賃の支払いすら滞り気味な貧困生活を送る彼は、およそ5時間にわたる“ヴィジル(夜伽)”を400ドルの報酬で引き受けることになったのでした。
ヴィジルとは、死んだ人の遺体を一晩見守るユダヤ教の通夜の慣習のこと。
通常、ヴィジルは遺族が行うものなのですが、今回の遺体はホロコーストの時代を辛くも生き延びたという老人リトヴァクで、その唯一の家族である妻は病弱の上にアルツハイマーを患っているため、ヤコブが代行しながら老未亡人とともに一晩を暗い部屋の中で過ごすことになったのです。
しかし、未亡人は何かにとても脅えている様子で……。
本作はオカルト・ホラーにユダヤ教やホロコーストの歴史を組み合わせた異色の内容となっています。
ヤコブもまた、やがて自分が恐るべき存在と対峙していることに気づかされていきますが、それは同時に彼の心のトラウマを解き明かすきっかけともなっていくのでした。
そもそも、なぜ彼は信仰を捨てたのか?
本作は「記憶」をキーポイントにしながら、そういった謎とヴィジルの一夜をリンクさせていきます。
見ていくうちに、未亡人が放つ謎めいた一言一言が作品の幻惑性をさらに高めつつ、彼女は本当にアルツハイマーなのかどうかがわからなくなっていくあたりも不気味な妙味。
さらには、あのホロコーストがもたらした大いなる闇の「記憶」もまた本作の裏モチーフとして屹立させながら、いつまでもあの惨劇を忘れてはならないというメッセージを濃厚に醸し出していくのでした。
夜の闇を基調としながらか細い灯りの点滅などを幻惑的に映し出す撮影監督ザック・クーパースタインの映像美、スマホを効果的に用いたキース・トーマス監督の演出の数々も認めるにやぶさかではありません。
ちなみに本作は日本でも『ハッピー・デス・デイ』2部作(17・19)や『ザ・スイッチ』(20)など、新作が発表されるたびに映画ファンの間で大いに話題となるブラムハウス・プロダクションズ製作作品。
低予算ながらもハイレベルな作品を次々と生み出していく同社の力量は、ここでは静かな恐怖の発散として大いに機能してくれています。
(文:増當竜也)
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