『孤狼の血 LEVEL2』鈴木亮平演じる悪役がなぜこんなにも恐ろしいのか?その理由を語る
2021年8月20日より『孤狼の血 LEVEL2』が公開された。
前作は同名小説を原作としていたが、今回は前作から3年後となるオリジナルストーリーとなっている。原作には『凶犬の眼』という続編が存在するものの、前作が続編を意識せずに原作と違う結末を描いたため、その『凶犬の眼』を映画にするのが難しくなったという事情もあったそう。出来上がった作品はなるほど、タイトル通りに「レベルアップした続編」という褒め言葉がぴったりくる、ストーリーも含め日本映画の総力を結集したような快作だった。
その理由の筆頭は間違いなく、悪役に鈴木亮平をキャスティングしたこと。ガタイの良さだけでなく、その言動がある意味でヤクザらしく「正論を言っているようで本質は暴力でおかしい」ことが本気で怖い。いつもの善良な役なんか全く思い出せない、「本当にこういう人なのかも」と思えるほどの見事な悪役を体現していた。
鈴木亮平は白石和彌監督からオファーを受けた時に「日本映画史に残る悪役にしてほしい」と重すぎるプレッシャーをかけられたのだが、「私自身がいちばん怖いと思う人は、“自分を悪いと思っていない人”だと思い至りました」と語っており、その期待に十分に応えたと言えるのではないか。確かに、会話の相手に「何言ってんの?俺の方が正しいし」な感じで詰め寄り支配する様は、確かに自分を正しいと信じ切っている者の言動であったのだから。
そんな風に劇中の鈴木亮平は極悪人すぎてむしろスガスガしい領域に達しているのだが、ご本人は暴力的なシーンを撮った後に深く落ち込んで、気にしすぎるあまり帰りに泊まるホテルを間違えたりしたらしい。なんて良い人なんだ。ぜひ、本作を観た後は『ひとよ』(19)あたりの善玉サイドの役を観て「中和」してほしい。もしくは『俺物語!!』(15)や『HK 変態仮面』(13)を観て別ベクトルでやっぱりこの人すげえと思うのもいいかもしれない。
ちなみに、今回は白石監督たっての希望で、日本の映画業界を根本から改革する意味合いも込めて、「現場での差別やハラスメントをなくすことを目的とした『リスペクト・トレーニング』」も実施していたという。暴力的なシーンも多い作品の上にハードなスケジュールではあったものの、このリスペクト・トレーニングはキャストやスタッフから好評だったそうだ。
実際に現場の空気は良く、アクションシーンにおいて、鈴木亮平があらかじめ決められた手数よりも多く松坂桃李に殴りを入れたものの、松坂桃李はきちんと反応してOKとなり、カットの声がかかった時に「1発増やしたでしょう〜!」と鈴木亮平をいじる余力を見せていたのだとか。本編は怒号が飛び交い、殴る蹴るの恐ろしいシーンが満載だが、実際の撮影ではそうしてキャストたちが和気藹々としていたことを思い出せば、ちょっとだけでも恐怖感が薄れていいのかもしれない(?)
その松坂桃李が、新米刑事だった前作から一転して、広島弁が板についた油の乗ったキレキレ演技を披露しているのも大きな見所。劇中で「なぜオオカミは日本からいなくなったのか?」という話がされるのだが、これが松坂桃李演じる主人公の心理を見事に示しているのも上手いところだ。
今回の松坂桃李の相棒となるのが、前作のギラついていて、めちゃくちゃな言動をしていた役所広司とは好対照の、「いかにも普通の良い人そう」な中村梅雀というのも新基軸。中村梅雀は「日岡(松坂桃李)が実の息子であるかのように接して関係を表現した」とのことで、とっても怖いお兄さんたちばかりの本作の中では癒しの存在となっていた。
さらに、村上虹郎演じる若き「スパイ」の活躍も見所。どちらかと言えば頼りない役柄であり、彼のことを心配する姉役の西野七瀬との関係性も感情移入しやすい。ヤクザがらみの暴力性が取り沙汰されやすい本シリーズだが、本質的にはこうした「普通の人」の描き方も秀逸なのだと思い知らされた。それだけに、鈴木亮平演じる最悪の悪役に「いいよう」にされる村上虹郎のキャラに心から同情してしまう。
その他、吉田鋼太郎、滝藤賢一、中村獅童、斎藤工なども印象的な役柄を好演しており、「日本映画界のオールキャスト」感も存分に堪能できた。その中でも悪役を嬉々として演じていた(でも根が良い人なのであまりの暴力的なシーンの撮影で落ち込んでいたらしい)鈴木亮平の凄さが突出しているのは驚異的だ。ぜひ、史上最高(最悪)の鈴木亮平と、エンターテインメント映画としての面白さを堪能してほしい。
(文:ヒナタカ)
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