映画『岬のマヨイガ』レビュー:不思議で温かくも繊細、そしてダイナミック!これぞアニメ版“妖怪大戦争”!
東北伝承に根差した
ユニークな世界観
本作を見ていて何よりもうれしくなってしまうのは、劇中に「遠野物語」をはじめとする東北地方の伝承に倣った妖怪たちがいろいろ登場してくることです。「遠野物語」といえば、岩手県遠野地方に伝わる逸話や伝承などを柳田国男が1910年にまとめ記した説話集で、水木しげるの妖怪ワールドなど現在伝え聞くモノノケたちの原型みたいな存在も登場。
1982年には鬼才・村野鐵太郎監督のメガホンで映画『遠野物語』も作られています(ただし特撮ファンタジーではなく、アーティスティックな悲恋物語です)。
さて、本作はこうした妖怪たちとの不思議で民話チックな交流によって、ふたりの少女の心が癒されていきます。
その過程で哀しみを喰らう妖怪と対峙していくことにもなっていきますが、そこに至るまでのマヨイガをベースにした淡々としながらもほんわか温かいものが感じられる諸描写が秀逸。
また、その奥に内在するのが東日本大震災であり、それとどこかでリンクしたそれぞれの大きな心の傷跡であることから、単にユーモラスなだけではない切々とした哀しみまでもがほのかに、そして確実に滲み出ているのが妙味でもあるのでした。
そしてクライマックスに関しては、はい、もうはっきり申して“妖怪大戦争!”です!
アニメーションならではのダイナミズムを駆使した戦いであったり奇跡であったりの数々は、それまでのほのぼのトーンのイメージを一切崩すことなく両立させているのも、実に優れたところであるといえるでしょう。
芦田愛菜、大竹しのぶら
声のキャストの好演!
今回は声のキャストもそれぞれ実に良い味を醸し出してくれています。ヒロインのユイに扮する芦田愛菜に関しては、もう幼いころからアニメの声や吹替を務めてきたある意味大ベテラン声優(!)で、最近だけでも『海獣の子供』(19)『えんとつ町のプペル』(20)『ゴジラvsコング』(21・吹替)と大活躍。
そして今回はなかなか心を開ききれないまま素直になれない同世代の女の子の寂しい真情を巧みに表現してくれています。
キワおばあちゃん役の大竹しのぶも声の仕事は大ベテランで、今年も『漁港の肉子ちゃん』(21)が印象深いところですが、今回はさらに雰囲気ぴったりといった不思議で優しいばあちゃんの慈愛みたいなものが声で描出されています。
ひより役の栗野咲莉は現在11歳の子役ですが、今回はしゃべられない設定のキャラクターということで、ではいつ言葉を発してくれるのか? というのも興味のひとつとなるでしょう。
“ふしぎっと”たちの河童グループもサンドウィッチマンの伊達みきお&富澤たけしであったり、宇野祥平であったり、なかなかユニーク。
「遠野物語」ときたら忘れてならない座敷童は、アメリカ出身で声優アイドルグループ22/7のメンバー、天城サリーが担当しています。
こうした劇場用長編アニメーション映画の声優キャスティングも、以前は宣伝狙いの顔出しタレント・オンリーが多く、それらの名前が発表されるだけでアニメ・ファンはがっくり来てしまうことが往々にしてあったものでしたが、最近はそれこそ芦田愛菜のように実写もアニメも等しく活動する存在が出てきたり、良い意味でバラエティ豊かになってきている気がします。
(サンドウィッチマンの富澤たけしも、2011年の長編アニメ映画『とある飛空士への追憶』がすごく良かった)
今後もこういったユニークな形態でのキャスティングを組んでもらえるよう、切に願いたいものですね。
(文:増當竜也)
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(C)柏葉幸子・講談社/2021「岬のマヨイガ」製作委員会