『テーラー 人生の仕立て屋』レビュー:ウェディングドレスのオーダーメイドを始めた中年男の人生サバイバル!
『テーラー 人生の仕立て屋』レビュー:ウェディングドレスのオーダーメイドを始めた中年男の人生サバイバル!
■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT
オーダーメイドのスーツなんて正直なかなか手が出せない貧困の身ではあれ、やはり一生で一度くらいは頼んでみたいもの。
また女性からするとウェディングドレスのオーダーメイドなんて、大きな憧れのひとつでもあるのではないでしょうか。
本作の主人公ニコス(ディミトリ・イメロス)はスーツもウェディングドレスのどちらも作れちゃいます。
しかも移動式屋台の仕立屋(=テーラー)として参上する!
ソニア・リザ・ケンターマン監督は、実にユニークなアイデアを基軸に、ギリシャのアテネという陽光の舞台を最大限に活かしながら、明るくもすっとぼけた(バスター・キートンやジャック・タチを深く研究したとのこと)、それでいてシニカルな人間観察眼を怠ることのない秀逸な人間ドラマを形成してくれています。
そもそも主人公のニコスが仕立屋としての腕こそ一流ながらも人付き合いは苦手で奥手な50歳の中年男、しかし崖っぷち負け組人生に転落していく中で彼なりの決死のサバイバルを敢行し、その波に乗っていくことで徐々に世界も変わっていきます。
しかし、その変化はプラス面だけでなくマイナス面まで醸し出すことになっていくのが本作の真の妙味であるともいえるでしょう。
説明的な台詞は少なく、画とそれに並走する音楽によって登場人物らの繊細な想いを露にしていく演出はお見事!としか言いようがないほどで、特に隣人家族(ロシア系移民?)それぞれとの交流が実にスリリング!
ニコスとその巌窟な父親との関係性も、父子であると同時にプロフェッショナル同士という複雑怪奇な想いが絡み合っていくあたり、なかなか見過ごせないものがありました。
さらにはこの作品、ギリシャの金融危機をベースに展開されていて、それは今の日本も他人事とは到底思えないほどの不安と恐怖すら醸し出してしまう一瞬もあったりします。
しかし、まったくもって勝ち組とは言えない主人公がポーカーフェイスのまま行動に移す人生復活戦は、笑いと皮肉の中から見る側に何某かの勇気と希望を与えてくれることでしょう。
(文:増當竜也)
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