『護られなかった者たちへ』佐藤健が「一筋の光が差す」熱演をした理由
阿部寛、清原果耶、林遣都の役にも注目
もちろん、もう1人の主人公と言える刑事を演じた阿部寛も素晴らしい。冒頭の震災のシーンでは肌や衣服の汚しを徹底して、肌の裏側の見えない部分まで自分で濡らして本番に挑んだという。佐藤健と同じくスター俳優である阿部寛が、その佐藤健と好対照であり、かつ似ている(同じく震災を経験している)ところもある「合わせ鏡」とも言えるキャラクターにぴったりだった。
さらに実年齢よりも上の役も演じた清原果耶は凛とした存在感があり、阿部寛のバディとなる「不遜だが熱意もある」若手刑事を演じた林遣都も観客の目線に最も近い役として重要だ。その他も脇役に至るまで日本映画のオールスターキャストかと思うほどの豪華な配役で、特に永山瑛太、吉岡秀隆、倍賞美津子は鮮烈な印象を残すだろう。
そして、物語の中核に置かれている問題は「生活保護」。言うまでもなくそれ自体は、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために必要なシステムだ。だが、劇中の連続殺人事件の謎を追う中で、生活保護にまつわる複雑な事情、それに対する葛藤や矛盾が描かれていくのである。
その中には「社会的スティグマ」もある。それは社会から烙印(スティグマ)を押されているかのような精神的負担を負ってしまう心理であり、そのために必要なはずの生活保護を受けずにいてしまうこともあるという。その他にも、日本では貧困に対する生活保護の受給率が低いこと、はたまた不正受給者の問題なども、それぞれわかりやすく語られている。
ただ、その生活保護にまつわるメッセージは、瀬々監督の演出のクセもあって不自然なまでに強く感じたシーンもある。プロパガンダとまでは言わないまでも、居心地が(良い意味で)悪くなったので、そこには賛否両論もあるだろう。
だが、そのメッセージ性の強さは、作り手が真摯にこの問題を考えているという証拠と言える。何より深刻に貧困が広がるコロナ禍の今、生活保護の問題を真正面から見つめた『護られなかった者たちへ』は、間違いなく「必要」な映画だ。ぜひ、劇場でご覧になってほしい。
(文:ヒナタカ)
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(C)2021映画『護られなかった者たちへ』製作委員会