俳優・映画人コラム

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2021年10月25日

錦戸亮、役者としての魅力<今こそ全て観てほしい、作品毎の異なる顔>

錦戸亮、役者としての魅力<今こそ全て観てほしい、作品毎の異なる顔>


(C)Fuji Television Network, Inc.

観ている者をゾッとさせるようなDV男の役から、妻をこよなく愛し子どもたちに優しい父親の役まで、幅広い役柄を演じる俳優・錦戸亮。

常に「錦戸亮」らしさを保ちつつも、その役柄の魅力を120%引き出す。そんな彼の俳優としてのポテンシャルについて、これまでに演じた役柄をもとにお伝えしたい。

意外とパパ役が多い? 若い父親の苦悩

初めてのパパ役は2011年に放送された「犬を飼うということ~スカイと我が家の180日~」だ。錦戸亮が演じるのは8歳の息子と6歳の娘がいる本郷勇次役。どちらかという妻に尻を敷かれつつ、家族自体の仲はぎくしゃくしている。そんなとき、あることがきっかけで犬をお迎えした。スカイと名付けられた犬のおかげで家族の絆を取り戻していく。

ちょっぴり弱気だけれど、子どもの目線で話しかけ、一緒に問題を解決していく。その姿は、すべての大人がかつては子どもだったことを思い出させてくれる。

その後、「全開ガール」、「パパドル!」、妊娠した妻を支える「ウチの夫は仕事ができない」でパパ役を演じるが、どれも底抜けに優しい。声のトーンが対大人に対するものより柔らかだが、相手を子ども扱いしない。ちょっと首を傾げて、困ったような表情をしてコミュニケーションをとっていく。子ども側に「この大人はなんか違うぞ」「話を聞いてくれそうだぞ」というスキを見せてくれる。
もしかしたら、錦戸亮自体が思い描く父親像の共通項でもあるかもしれない。

■誠実さだけではない、多面性を表現
パパ役と同じぐらい多いのが、公務員役だ。
しかし、公務員と言っても職種はさまざまだ。「ジョーカー 許されざる捜査官」では派手なアロハシャツを着た鑑識課、映画「県庁おもてなし課』では県庁職員、『ラスト・フレンズ」では区役所の児童福祉課勤務、映画「羊の木」では市の職員、「トレース~科捜研の男~」では科捜研の法医研究員。思わず、どこまでが公務員なのか調べてしまった。

注目したいのは、市や県職員というところだ。錦戸亮自身はスター性が高い人だと思う。
スポットライトと大きなステージが似合う。
が、県職員という役どころがスルッと馴染んでしまうのだ。特におしゃれではないスーツをあっさりとかっこよく着こなしてしまうところはある種、問題かもしれないが、地味で、周りに埋没する。ごく普通の人を無理なく演じてしまう。実はそれは高い演技力があるからで、日常の苦しみや悲しみを表情で伝える。

「ラスト・フレンズ」では役所職員での優しそうな顔とは裏腹に、実は恋人に暴力をふるうとんでもない役どころだった。が、暗い過去を抱えている中で、残虐性と、弱さと、重すぎる愛情と多面的で難しい人間像を演じ切っている。実際には許されざるキャラクター像だが、ここで「役者・錦戸亮」として演じられる役の幅広さを示したと言える。個人的には、「ラスト・フレンズ」の経験を踏まえて、凶悪犯かサイコパス役もやってみてほしいのだけれど……。

「ごめんね青春!」の涙の演技が心をわしづかみに

公務員役と通ずる部分があるが、教師役の錦戸亮もやっぱり外せない。教師役を演じたのは「オルトロスの犬」と「ごめんね青春!」がある。

「ごめんね青春!」では仏教系男子校・東高の教師役・原平助を務めた。経営難などの理由から、近隣のカトリック女子校・三女と合併することになり、合併前に両校の3年生の1クラスを実験的に共学クラスとすることに。平助はその1クラスを受け持つことになるが、浮かれる男子生徒と警戒する女子生徒の間で悪戦苦闘することに。
平助自身も高校時代の苦い思い出、告白できない罪などを抱えているが、両校の生徒の交流を深めていくうちに抱え続けていたわだかまりを溶かしていく。

物語終盤、自身が行ったことへの懺悔と、想いを寄せる人への告白シーンは何度見てもいい。限界まで堪えた思いがあふれ出すように、一筋の涙がこぼれ落ちる。美しく泣く役者男性部門があればベスト5に入ると思う。

ちなみに「ごめんね青春!」に生徒役として出演していた中には、現在も活躍する俳優が多いので、ぜひその点にも注目してほしい。

いろいろ言っても、結局役者・錦戸亮はイイ

「ラスト・フレンズ」以降、錦戸亮が出演するドラマ・映画は欠かさず観ているが、毎回感じるのが、それまでの演じた役が錦戸亮の中で蓄積されている、ということだ。例えば、「ちょんまげぷりん」や「サムライせんせい」などで侍役を経験してからは、普段の役柄にも動きの止めが美しくなったように思う。
所作の基本が入ったことで、全体の動きが変わったような印象がある。また、侍の演技が影響しているからなのかはわからないが、土下座の型がきれいだ(たまたまかもしれないが、土下座するシーンが多いように思う)。そういう小さな所作や演技に、これまでの経験が年輪として刻まれていて、年を重ねたらどのような演技を見せてくれるのだろう、とワクワクする。

10代のころから役者として活躍しているが、年代ごとにその演技に重みと渋みが増している。その中でも、失くさない少年っぽさの表情が観ている者をドキリとさせる。
最近は、アーティスト活動が目立っているが、7月には吉田大八監督が手がける短編映画「No Return」で主演を務めている。



アーティスト・錦戸亮として2019年に新たなスタートを切り、これまでとは異なる経験も多くしたのかもしれない。明らかに異なる色をはらんでおり、新たな可能性を感じさせてくれた。
2022年には日英合作映画の公開も控えている。今後もどのような「錦戸亮」を見せてくれるのか、楽しみだ。

(文:ふくだりょうこ)


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