2021年12月04日

<午前十時の映画祭>『モスラ』4Kデジタル・リマスター版に入っている〈序曲〉とは?

<午前十時の映画祭>『モスラ』4Kデジタル・リマスター版に入っている〈序曲〉とは?


テレビに対抗する超大作映画に
必須の存在だった〈序曲〉


『ウエスト・サイド物語』より (C)1961 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

映画における〈序曲〉、これは演劇などの上演直前、その作品に即した音楽を流して、場内の観客に開幕を告げる形式に倣ったもの。

この形式は主に『スパルタカス』(60)『ウエスト・サイド物語』(61)『西部開拓史』(62)『アラビアのロレンス』(62)『バルジ大作戦』(65)など、ハリウッドを中心とする上映時間2時間を超える超大作を中心に導入されていきました。

〈序曲〉だけでなく、二部構成作品の場合は〈休憩曲(インターミッション)〉、そして映画が終了して場内が明るくなり、観客が席を立って出ていく際、お見送り代わりの〈終曲〉が流されるパターンも数多くあります。

これらは特にテレビが台頭してきた1950年代以降、シネラマや70ミリ映画などの超大作を以って対抗しようとする映画界の試みの一環であり、要するに大きな映画館の巨大画面で、映画ならではのゴージャスな体験を存分にしていただこうとする「おもてなし」の精神に基づくものでもありました。

〈序曲〉が流れる際、スクリーンには何も映されないまま、暗闇の中で音楽だけが場内に響き渡るものや、独自のデザインを施した画が入っていたりと、ケースはさまざまです。

画のない暗闇モードの〈序曲〉をそのまま今の時代で上映すると「映写ミス」と勘違いしてしまう観客もいるため、音楽が流れている間“序曲”の文字を画面に映すパターンも今は増えています。

TV放映の場合、スチル写真など名場面を挿入するパターンも多いですね。

曲そのものは、映画のメインテーマや劇中曲のさわりを数珠つなぎにして、映画全体の雰囲気を音で先に伝えておくといったものが比較的多く感じられます。


『2001年宇宙の旅』より(C)2018 Warner Bros. Entertainment Inc.

『2001年宇宙の旅』(68)や『スター・トレック』(79)のように劇中曲の一部を流して雰囲気を高めるものもありました。

こうした〈序曲〉が流れる映画は1970年代以降徐々に少なくなっていき、個人的な体験としてもディズニーのSF超大作『ブラック・ホール』(79)あたりから、しばらくお目にかかった記憶がありません。

少しでも1日の上映回数を増やしたい映画館としましては、場内真っ暗な中に音楽だけが鳴り響く時間を許容できなくなっていったという事情もあったのかもしれませんね。
(当時の名画座などで〈序曲〉をカットして、いきなり本編から上映するところも結構あったりしました)

そんな中、まもなくリバイバルされる『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(00)には久々に〈序曲〉が入っていましたが、これは往年のミュージカル映画大作に〈序曲〉が入るケースが多かったことを意識しての計らいだったのでしょう。

同じくミュージカルのディズニー実写版『美女と野獣』(17)には、サントラ盤に〈序曲〉が入っています。

残念ながら実際の劇場公開には使われていませんでしたが、現在リリースされているBlu-ray&DVDでは〈序曲〉入りヴァージョンを選択観賞することが出来ます。

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