<リバイバル>“20世紀の奇跡”カール・テオドア・ドライヤー監督の映画たちを簡明に語ってみたい
『怒りの日』と
ドライヤーの母の悲劇
(C)Danish Film Institute
カール・テオドル・ドライヤーの復活は1943年、当時ナチス・ドイツの支配に置かれていたデンマーク本国で撮った『怒りの日』でした(今回の上映作品)。
これは魔女狩りが普通に行われていた中世(1623年)ノルウェーのある村を舞台に、老牧師の再婚相手である若き妻アンネ(リスベト・モーヴィン)が、ほぼ歳の差がない彼の息子と不倫に走っていく模様を描いたもの。
最初、淑女のように登場したヒロインがいつのまにかファムファタルのように艶めかしく変貌していく、そんな驚異の画を目の当たりにすることができます。
撮影は基本長回しで、キャメラのパンや移動をシンプルに行いながら、どこかしら神の目線で彼女たちの行いをじっと見守っているかのような凄みが感じさせられるのが妙味。
(C)Danish Film Institute
また『裁かるゝジャンヌ』同様、ここでも宗教裁判が色濃くドラマに反映されており、どちらも過激な信仰によって捌かれてしまう女性の悲劇が描かれていますが、宗教と女性の悲劇はドライヤー映画を語る上で重要な要素ともいえるでしょう。
ドライヤーは18歳の時、生母が自分を産ませたスウェーデンの裕福な地主に見放され、さらには別の男にも捨てられて貧困と孤独の果てに死んでいったことを知らされたそうです。
ドライヤーの生前の発言でもある「男性や権力者の欺瞞によって生まれる社会の不寛容と抑圧が、母を死へ追いつめた」、これが彼の作劇に大きな影響を及ぼしていることは疑いようはないでしょう。
また、劇中の魔女狩りも当時のナチスを暗喩していることは間違いなく、そのせいもあってか公開時の本国の批評は酷評まみれだったものの、ナチスの支配から解かれた戦後になると一転して絶賛に変わったとのこと。
(現に本作は時を経て1974年のヴェネチア国際映画祭で審査員特別表彰されているのでした)
ドライヤーは続けて1945年『ふたりの人間』を発表し、タイトル通り精神科医同士の確執のドラマをふたりのキャストのみで描くという実験的趣向で挑みましたが、その後再び10年ほどの沈黙を余儀なくされます。
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