2021年12月25日

<リバイバル>“20世紀の奇跡”カール・テオドア・ドライヤー監督の映画たちを簡明に語ってみたい

<リバイバル>“20世紀の奇跡”カール・テオドア・ドライヤー監督の映画たちを簡明に語ってみたい

ユニークなホームドラマ
『奇跡』の家族と信仰


(C)Danish Film Institute

1954年、カール・テオドア・ドライヤーは久々に長篇新作『奇跡』(今回の上映作品)に取り組みました。

これは1925年のデンマーク、ユトランド半島に住む敬虔なクリスチャン一家の物語。

厳格な父、無信仰の長男、神学を学びすぎて精神不安定になった果てに自らキリストと名乗るようになった次男、そして三男は宗派の異なる家の娘と恋愛関係にあります。

こうした状況下で、妊娠している長男の妻の容態が悪化し、そこから何が起きるかは見てのお楽しみとなるわけですが、邦題からイメージされる宗教的に崇高なものはあるものの、これが結構ユニークなホームドラマになっていて、『怒りの日』同様に長回しやパンなどの撮影技法やシンプルな家屋セットなども功を奏して、どこかしら戦後のアメリカTVのホームドラマを見ているかのような気分にもなるほど。

父と三男の恋人の父が諍い合うシーンなど実に喜劇的で、また次男の存在そのものも滑稽に映えわたってユーモラスですらあります(長男の幼い娘だけが彼の理解者なのも、どことなく微笑ましいものがあります)。


(C)Danish Film Institute

『怒りの日』と本作を続けて見ると、ドライヤーの宗教に関する認識がどことなく想像できます。

彼は過剰な信仰には否定的ながら、宗教そのものの存在を否定しているわけではなく、むしろ必須なものともみなしているのでしょう。

これまで本作を難解に語りがちな批評には「日本人にはキリスト教の本質が理解できていないから」的なものも多いのですが、どこの宗教であろうと似たような悲劇も喜劇も、世界各地で日常的に昔も今も起きているもので、日本も例外ではありません。

それよりも何よりも、シンプルな語り口を徹底させながら家族関係の普遍的な機微を巧みに描いていることにこそ注目し、大いに讃えるべきでしょう。

現に1955年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞および1956年ゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞を受賞した本作は、ドライヤー監督の最高傑作と讃える声も多いのです。
(私もこれがベストだと思っています)

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© 1928 Gaumont, © Danish Film Institute

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