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『ウエスト・サイド・ストーリー』公開、ニューヨーク×ミュージカルの相関を検証してみた
『ウエスト・サイド・ストーリー』公開、ニューヨーク×ミュージカルの相関を検証してみた
ブロードウェイミュージカルのスタンダートタイトル「ウエスト・サイド・ストーリー」。
1961年の映画版の『ウエスト・サイド物語』は、その年のアカデミー賞10部門を受賞し、今では映画史のオールタイムベストの常連作品となっています。
それから約60年、あのスティーブン・スピルバーグ監督が再映画化に挑んだ『ウエスト・サイド・ストーリー』がいよいよ日本でも公開されます。
50年のキャリアを誇るスピルバーグ監督ですが、意外にもミュージカル映画の演出は初めてのこととなります。
物語の舞台は1950年代のニューヨーク。
『ウエスト・サイド・ストーリー』以外でもニューヨークは、ブロードウェイというミュージカルの一大発信地を抱えることもあってか、物語の舞台になったミュージカルタイトルは多く、そこから映画化に進んだ作品も多くあります。
ニューヨークを舞台にしたミュージカル作品
『ウエスト・サイド・ストーリー』はニューヨークを舞台にした作品の代表例で、1950年代の移民同士の対立や貧困などで分断される若者の姿を描いています。
物語はシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」がベースになっています。
アメリカにおいての社会の分断は今も深刻な問題となっていて、そのテーマの普遍性は色あせることがありません。
『RENT/レント』
『RENT/レント』はオペラの古典「ラ・ボエーム」をもとにジョナサン・ラーソンが作り上げた物語で、ロックミュージカルの代表例ともいえる作品。
人種やセクシャリティの面でのマイノリティが中心人物に置かれ、ドラッグやHIVなど正統派ミュージカルにはなかった社会性を大きく取り込んだ作品です。
ブロードウェイのロングラン、世界ツアーの後に2006年に映画化もされています。
映画版はもちろん舞台版もソフト化されているので、見比べてみるのもおすすめです。
「アニー」
「アニー」はニューヨークを舞台にしたミュージカルのスタンダードといえる1本。蒼井優を輩出したほか、多くの俳優がオーディションを受けた日本人キャスト版が定期的に公演されており、日本でも馴染み深い作品です。
直近の映画化作品では2014年の『ANNIE/アニー』がありますが、その前にも2度映画化されています。
『ハミルトン』『イン・ザ・ハイツ』
『ハミルトン』と『イン・ザ・ハイツ』もニューヨークを舞台にしたもので、どちらも2000年代以降でブロードウェイで最も成功を収めたと言えるリン=マニュエル・ミランダが作曲として参加しています。
「ハミルトン」はアメリカ合衆国建国の父の一人アレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いた物語。映画化はされていませんが、ディズニープラスでブロードウェイ公演の模様をダイナミックに撮影したバージョンを見ることができます。
一方で『イン・ザ・ハイツ』は現代のマンハッタンの若者たちを描いています。2021年に映画化され、日本でも公開されました。
『踊る大紐育』
Amazonプライムビデオで視聴可能なクラシックミュージカルの名作が『踊る大紐育』(ニューヨークが漢字表記である部分に時代を感じます)。この作品は当時としては画期的だった屋外ロケーション撮影を導入したミュージカル映画で、『ウエスト・サイド・ストーリー』へと続く手法の原点を見ることができます。
ブロードウェイミュージカルの内幕を描いた作品
ブロードウェイがミュージカルの世界的な発信源ということもあって、ブロードウェイミュージカルの内幕を描いた“入れ子構造”のようなミュージカル作品も少なくありません。『コーラスライン』
『コーラスライン』は『キャッツ』などとともに(大きな筋立てのない)ブックレスミュージカルの代表的な作品で1975年に初演が始まり、1985年に映画化されました。
コーラスラインとは舞台上に惹かれるラインのことで、コーラス=役名のないモブキャストのオーディションに挑む若者たちの姿を描く内幕ものの代表例。
『ブロードウェイ♪ブロードウェイコーラスラインにかける夢』
「コーラスライン」の過酷なオーディションの様子を追った『ブロードウェイ♪ブロードウェイコーラスラインにかける夢』という作品もあります。
これは2006年の「コーラスライン」のブロードウェイでの再演に合わせて大々的に展開されるオーディションを追った作品で、8000人の応募者から、8か月をかけて19人に絞るという激戦の様子を見ることができます。
■『ブロードウェイ♪ブロードウェイコーラスラインにかける夢』配信サービス一覧
| 2008年 | 日本 | 93分 | (C)Vienna Waits Productions LLC. | 監督:ジェイムズ・D・スターン/アダム・デル・デオ | マイケル・ベネット/ドナ・マケクニー/ボブ・エイヴィアン/バイヨーク・リー |
※2022年2月11日(金)時点の情報
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『tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン!』
『tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン!』、2022年の映画賞レースを賑わせているNetflix製作のミュージカル。前述のリン=マニュエル・ミランダの初長編監督作品でもあります。
前述の『RENT/レント』の原作者ジョナサン・ラーソンの『RENT/レント』完成前夜を描いた自伝的な作品で、アンドリュー・ガーフィルドが主演を務めています。
ジョナサン・ラーソンという人は非常に波瀾万丈な生涯を送った人物で、「RENT/レント」を作り上げ、オフ・ブロードウェイでのプレビュー公演初日を迎えたその日の未明に急逝しています。『RENT/レント』の大成功を見る前、35歳の若さでした。
『42ndストリート』
『42ndストリート』は1933年のクラシック映画の名作であり、ブロードウェイの裏側を知ることができます。
『プロデューサーズ』
『プロデューサーズ』は、かつて成功納めたブロードウェイのプロデューサーが悪だくみを狙う物語。1968の映画からミュージカル化され、それがまたミュージカル映画になりました。
2005年公開のミュージカル映画版の方は比較的見やすくなっています。
『Endless SHOCK』
堂本光一の『Endless SHOCK』もブロードウェイでの成功を夢見る若者たちの物語です。
2020年の新型コロナウィルスの感染拡大で休演が続いた時期に無人の帝国劇場で撮影を行ったバージョンが2021年に限定上映されました。
『Endless SHOCK』は数年ごとのバージョンがソフト化されています。
コロナ禍の中で
『ウエスト・サイド・ストーリー』(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
新型コロナウィルスの感染拡大はブロードウェイを直撃しました。
ブロードウェイ全体(ミュージカルに限らずストレートプライも含む)での休演が決まり、多くのスタッフ・キャストが仕事がない状態になり苦境に立ちました。
2021年の秋に、約1年半ぶりに公演が再開されましたが、オミクロン株の感染拡大により、2021年の年末から再び休演が相次いでいて、まだまだ光明が見えるとは言えません。
新型コロナウィルスの感染拡大は映画の撮影、映画館の営業にも大きな影響を与えましたが、人流の密を生む対面型エンターテインメントであるブロードウェイミュージカルへの影響の度合いはさらに深刻なものになっています。
なかなかブロードウェイミュージカルを見ることが(それ以前にアメリカへの渡航自体が簡単ではありませんが)難しい今、ミュージカルを味わうため、応援するためにミュージカル映画を見るというのもいいのではないでしょうか。
また、松竹ブロードウェイシネマは定期的にブロードウェイのミュージカルのヒットタイトルを映画館で見ることができます。
「シネマ歌舞伎」や「ゲキ×シネ」シリーズなどにも言えることですが、普通の舞台のチケット代金と比べると割安な価格帯で名作舞台に触れられるのでおすすめです。
(文:村松健太郎)
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