『リング・ワンダリング』笠松将×阿部純子対談|役者を続けるそれぞれのモチベーションとは?
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『アルビノの木』(2016)の金子雅和監督が手がける長編映画『リング・ワンダリング』が2022年2月に公開。建築現場で働きながら漫画家を志す青年・草介が、偶然出会った写真館の娘・ミドリを怪我させてしまった夜から物語が始まる。過去と現代、そして草介が描く漫画の中の世界ーー3つの舞台をめぐって、人との縁を感じられるストーリーを描いている。
ミドリとの出会いをきっかけに、過去と現代をまたぐ不思議な体験をすることになる草介を演じるのは、ドラマ「君と世界が終わる日に」(2021/日テレ)で強い印象を残した笠松将。ヒロイン・ミドリと、草介が描く漫画の登場人物である梢の二役をこなしたのは、『燃えよ剣』(2021)に出演している阿部純子である。
本作で初共演となる笠松将・阿部純子の二人に、撮影中の印象深いエピソードや役者を続けるモチベーションについて聞いた。
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利便性よりも「理想の映像」を最優先した撮影現場
——お二人は本作が初共演ですね。撮影現場はどんな雰囲気だったのでしょうか?阿部純子さん(以下、阿部):笠松さんとは初対面だったので、顔合わせの段階からとっても緊張していたんです。だけど、笠松さんの方から気さくに話しかけてきてくださって助かりました。年齢も笠松さんの方が1歳上なので、まるでお兄ちゃんのような感じで、リラックスしてお話できました。
——笠松さんは、過去のインタビューでは「自分からはコミュニケーションを取らないタイプ」と答えてらっしゃいましたが。
笠松将さん(以下、笠松):もともと自分からは話しかけないタイプだったんです。同年代で活躍してる役者さんと現場が一緒になると、なんだか悔しくて……心を閉じちゃってたんですよね。だけど、ある瞬間から切り替えました。今は自分からどんどんコミュニケーションを取りに行ってます。
阿部:笠松さんに、そんな時期があったんですね。撮影現場ではまったくそう感じなかったので、意外です。
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——撮影現場で印象に残っているエピソードなどはありますか?
阿部:笠松さんが現場で絵を描いてくださったのを覚えています。本当にお上手で、多才な方なんだなと思いました。
笠松:ありがとうございます、そう言ってもらえると照れますね。どのシーンを撮影していたときでしたっけ?
阿部:ミドリの父役の安田顕さん、母役の片岡礼子さんと一緒に、家族でどじょう鍋を囲むシーンです。足を怪我したミドリを彼女の自宅まで送った草介が、ミドリの母に誘われて一緒に夕食を食べることになって。
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笠松:ああ、その撮影は僕もすごく記憶に残ってます。疲れすぎて撮影の合間に寝てしまった僕のために、阿部さんが栄養ドリンクを置いてくださったんです。「良かったら飲んでください」って……なんて優しい方なんだと感動しました。
阿部:ずっと夜の撮影が続いていたので、お疲れだろうと思って。今作では、私を背負いながら神社の階段を何度も往復したり、笠松さんにとって過酷なシーンが多かったんです。
笠松:金子監督は、人間の利便性よりも、作品のためのロケーションを最優先した撮影場所を選ばれるんです。山中や滝など自然の中にある場所ばかりで、着替える場所もなくて。肉体的にはつらい撮影も多かったですが、阿部さんの栄養ドリンクのおかげで乗り切れました。
お互いに学んだ、作品や演技に対する姿勢
——他にも、お二人にとっての印象的なシーンはありますか?笠松:草介がミドリを背負って神社の奥へ入り込んでいくシーンで、ミドリが「振り返らないで、もっと奥へ」ってささやくんです。わざとミドリの目元を映さず、口元だけ映っている様子が怖さを増幅させていて。そのときの阿部さんの表情がすごく印象に残っています。
阿部:「ミドリは幽霊なんじゃないか」と思わせるような怖さがありますよね。私は、シーンの話とは少し違ってしまうんですけど、一人二役をやらせてもらった点に思い入れがあります。草介と出会うミドリという女性と、草介が描く漫画内の登場人物・梢として。
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——一人二役を演じる上で難しかった点はありますか?
阿部:金子雅和監督の中にある明確なビジョンをなぞるように「ただそこにいればいい」と思えたので、無理に演じ分けようとようとし過ぎずに、自然と”存在する”ことができました。
——お互いの演技を見て刺激を受ける場面も多かったんじゃないでしょうか?
笠松:阿部さんの作品に対する姿勢を見て、学ぶことがたくさんありました。僕自身、作品をもっと良いものにしたいと思う一心で、脚本や演出で思ったことは割と監督に伝えるタイプなんです。でも、阿部さんはその場のすべてを吸収しながら演技をされる方。「それはできない」なんて絶対に言わないんです。そんなあり方を自分では考えたことがなかったので、僕としては焦りましたね。
阿部:そんなこと初めて言われました、ありがとうございます。私は、作品全体を俯瞰する笠松さんの姿勢に、座長として作品を引っ張っていく力を感じました。やっぱり、私とは背負っているものが違います。「この人がいてくれれば大丈夫だ!」って、いう安心感がありました。
役者を続けるモチベーションとなっている言葉
——笠松さんは、金子監督と多くの意見交換を重ねたそうですね。笠松:観客の方に向けたエンターテイメント作品になっているのか、監督と話し合う場面が多かったと思います。生意気に思える僕の言葉も、監督は最後まで「大丈夫だ」と受け止めてくださいました。
実際に仕上がった映像を見たら「監督の言っていたとおりだ」と心から感じたんです。この監督についてきてよかった、と安心できましたね。
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——映画にちなんで、お二人にとって「大切なご縁」を感じるエピソードがあれば教えてください。
笠松:ここまで役者を続けて来られたのは、祖母がいてくれたからです。「うちの孫が役者をやっていてね」と知り合いに宣伝してくれたり、僕の後ろ姿しか映っていないような作品でも「これが将だよね」と言いながら写真を撮っていてくれたり。
そんな祖母の姿を見て、途中で諦めるわけにはいかない、何がなんでも続けなきゃいけない、って思いました。役者を続ける上での強いモチベーションになってます。
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阿部:私は、まだ学生だった頃に、薬師丸ひろ子さんに言っていただいた言葉が心に残っています。学業と役者業の両立について相談させてもらう機会があったんです。「やりたいことをやることが何よりも大切。自分がやりたいことをやって、自然と役者としての幅も広がったら素敵よね」と言ってもらえました。
それ以来、自分の人生の豊さが感性を高めるのかなと思えるようになったんです。笠松さんもご自身で絵を描かれたり、インスタグラムで猫の写真をアップされたりしていますよね。私も日常の中でやりたいことを見つけて、お仕事の幅を充実させていきたいです。
(スタイリスト:徳永貴士、ヘアメイク:松田陵(Y’s C)<笠松>、スタイリスト:菅沼愛、ヘアメイク:長谷川大志<阿部>、撮影:小山志麻、取材・文:北村有)
<衣装協力:ザ ヴィリディアン(笠松)、ワンピース、ブラウス:tiit tokyo<the.pr_>(阿部)
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