今だから観てほしい!『ニキータ』が魅せるいびつな愛、そして、リュック・ベッソンのススメ~
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今だから観てほしい!『ニキータ』が魅せるいびつな愛、そして、リュック・ベッソンのススメ~
ボブはリュック・ベッソンである
おそらく、リュック・ベッソン監督が自己を投影したキャラが、このボブである。ニキータ役のアンヌ・パリローは、当時のリュック・ベッソンの妻だ。自分の嫁をどんどん過酷な状況に追い込んでいくのだが、それはベッソン流の愛情表現なのである。ウソの逃げ道を教え、それでも脱出できるかを試したり、高所から飛び降りさせてダストシュートにハメたり、どしゃ降りの中を裸足で逃げさせたり、(まるで新婚旅行のような)休暇旅行をプレゼントしたかと思えば、それも結局仕事だったり。
肉体的にも精神的にも追い詰められた嫁がいくら文句を言っても「これが私なりの愛し方だ」と言われてしまったら、何も言い返せない。
案の定、撮影後すぐにふたりは離婚している。ベッソン監督がこの離婚で目が覚めれば良かったのだが、その後何度も再婚・離婚を繰り返しているところを見ると、やはりその辺は変わらないみたいだ。
例え「いびつ」な形をしていても、ベッソンの嫁への愛情は十二分に伝わる。嫁のアンヌ・パリローが、それはそれは魅力的に映っているからだ。心から愛していなければ、ひとりの女優をあそこまで魅力的に撮れないと思う。
先述の勝利の舞いのけだるさ。「微笑んで」と言われるが人生で一度も愛想笑いなどしたことがないため、笑い方がわからずひたすら顔を歪める様。“レディーのたしなみ”担当教官(ジャンヌ・モロー)の教育で、不良少女がどんどん”いい女”になっていく過程。扉1枚向こうの恋人の愛の言葉を聞きながら、ライフルで標的を狙う、その涙。
ただただかわいそうなマルコ
現実の「リュック・ベッソン&アンヌ・パリロー夫妻」を反映しているのが、この作品での「ボブとニキータ」である。そのため、本来のニキータの恋人であるマルコがあまりにかわいそうで、筆者は同情を禁じ得ない。マルコを演じるのは『ベティ・ブルー』でお馴染み、ジャン=ユーグ・アングラード。ジャン=ユーグ・アングラードに「エキセントリックな彼女に振り回される優男」を演じさせたら、彼の右に出る者はいない。『ベティ・ブルー』でも大概かわいそうだったが、この作品でも、負けず劣らず大概である。
先述したが、このマルコとニキータがイチャコラしだしたタイミングで、いつも指令が入る。そのたびに突然ニキータは怖い顔になり、どこぞへ出掛けてしまう。マルコは、悶々としたまま一晩おあずけという放置プレイである。殺生である。薄情である。無体である。
物語の最終局面に、ニキータは姿を消す。ボブに手紙を残して。しかしその手紙はボブに渡ることなく、マルコが破り捨ててしまった。その事実を知って、勝者の笑みを浮かべるボブ。
悔しさをにじませつつも、つとめて冷静にふるまうマルコ。手紙の内容は明らかにされないが、なんとなく察しがついてしまう。『ベティ・ブルー』と続けて観ると、あまりの女運の無さに涙が出る。
どうせニキータやボブは畳の上では死ねないだろう。フランスだから畳はないが。
ただ、マルコにだけは幸せになってもらいたい。
そして、『ニキータ』のススメ
リュック・ベッソンと聞くと、まず『レオン』を思い浮かべる方が多いと思われる。確かに『レオン』は、紛うことなき傑作だ。しかし、『レオン』だけを観て『ニキータ』を観ていないとしたら、非常にもったない。『ニキータ』にも『レオン』そっくりのビジュアルでジャン・レノが出てくる。でも『ニキータ』のジャン・レノは、雑に出てきて雑に殺して雑に殺される。その間経ったの10分。これは笑うところなのかと、判断に困る。この展開は「『レオン』のパロディ」だと思えば良い。『レオン』の方が後の作品だが。
筆者と同じくボブ役のチェッキー・カリョの可愛さにやられてしまった方は『キス・オブ・ザ・ドラゴン』をオススメする。この作品では、リュック・ベッソンは監督ではなく製作・脚本だが「『ニキータ』や『レオン』の世界観に、あろうことかジェット・リーが迷い込んだ」という奇跡の作品と呼んでも差支えがない。
そして、チェッキー・カリョは『レオン』におけるゲイリー・オールドマンを彷彿とさせる「サイコ系悪徳警部」として、堂々のラスボスを張っている。ネタバレになるため詳細は避けるが、彼の死に様を含めて必見である。
なんにせよ、まず『ニキータ』を観ないことにはなにも始まらない。
話はそれからだ。
(文:ハシマトシヒロ)
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