『ナイル殺人事件』レビューのついでにアガサ映像作品リストも作ってみた
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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」
2月25日よりケネス・ブラナー監督・主演の『ナイル殺人事件』が公開されます。
コロナ禍で幾度も公開が延期となってやきもきしていた方々(私のことです)、お待たせしました!
そして、かつてジョン・ギラーミン監督の『ナイル殺人事件』(78)を見て、その虜になっていた方々(私のことです)、今回はどうなっているのか期待と不安が入り混じっていることかと思われます。
しかし正直に申して、今回初めて“ナイル殺人事件”の映画に触れる方も、ギラーミン版をご覧になっている方も、もちろん原作を読んでらっしゃる方々も、等しくその面白さを堪能できる逸品に仕上がっています!
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壮大なスケールを必要とする原作世界への挑戦
『ナイル殺人事件』はミステリの女王とも謳われるアガサ・クリスティーの「ナイルに死す」の映画化で、先にも触れたように1978年にはジョン・ギラーミン監督のメガホンで『ナイル殺人事件』が発表されました。
今回の映画化は実にそれ以来で、TVでも1回(「名探偵ポワロ」シリーズ内「ナイルに死す」)しかドラマ化されていないようです。
エジプト・ロケなど壮大かつ豪華絢爛なスケールを必要とする「ナイルに死す」の映像化は、やはりそうそう簡単にはいかなかったようですが、2017年に『オリエント急行殺人事件』で初めてクリスティー原作に挑戦したケネス・ブラナーとしては、前作をはるかに超える規模のものを構築してみたかったのでしょう(前作の最後でも、次は「ナイルに死す」を映画化することを匂わせていましたね)。
また彼自身、アガサ・クリスティー・ワールドの代表格ともいえる名探偵エルキュール・ポアロを演じるに足る年齢と風格を備えてきたことを前作で実感し、今回はそれ以上の存在感をもってブラナー=ポアロを決定づけたかったのかもしれません。
(ちなみに日本語だと20世紀後半までは「ポワロ」と表記されるのが一般的でしたが、最近は「ポアロ」が普通になっています。正直、個人的には「ポワロ」のほうがしっくりくる世代ではありますが、今回は本作品の表記に倣って「ポアロ」としておきます)
ブラナー版のポアロ映画は常にポアロが主人公!
さて、ブラナー版『ナイル殺人事件』ですが、前作『オリエント急行殺人事件』がポアロを主軸にドラマが動いていくスタイルだったのと同じように、いや、今回はそれ以上に、事件そのものを描きながらも実は“ポアロの映画”として屹立しています。
それは驚きのファースト・シーンから一目瞭然で、一瞬別の映画を間違って見始めたのではないかと勘繰る方もいらっしゃるでしょう(それが何かは見てのお楽しみ)。
それに比べるとジョン・ギラーミン監督版は割かし原作に忠実な作りで、まさにグランドホテル形式の群像劇足り得ていましたが、ブラナー版の主人公はあくまでもポワロであり、彼の内面なども深く明確に描かれていきます。
これに従い、ブラナー版は登場人物の設定などもギラーミン版よりもさらに改変されていますので、その点でも双方を見比べると楽しみが倍増することでしょう。
(人種も多彩に設定されていますが、これは昨今の事情を反映させてのものでしょう)。
その伝で驚いたのは『オリエント急行殺人事件』にも出演していたブーク(トム・ベイトマン)がここにも登場することで、これが何を意味しているのかも、見ていくうちにおいおい理解できることと思われます。
もちろん本筋のミステリ描写におろそかなどありようはなく、またギラーミン版に負けじとばかりのゴージャスさ、ここではジャズ・ヴォーカルの披露などでも工夫を凝らしています。
出演者もギラーミン版がいかにもオールスター・キャスト!といった体裁だったのに対し、今回は実力重視の布陣ではありますが、美貌の大富豪リネットに扮しているのが“ワンダーウーマン”ガル・ガドットというのも意表を突くキャスティングで、それゆえか彼女の傲慢さよりも世間知らずの純粋さが後々に悲劇を呼ぶといった空気が醸し出されています。
(ギラーミン版でリネットを演じたロイス・チャイルスは、もっとクールで傲慢な趣がありました)
事件が起きてからの捜査シーンの数々で「灰色の脳細胞」たるポアロの性格の悪さ(?)が露呈してしまうのは他のポアロ作品でもよく目にするところですが、今回のブラナー=ポアロの尋問時のきつさはかなりのもので、これもまた名探偵と呼ばれる所以の闇の側面をも物語っているように思えます。
(ギラーミン版のポアロも結構きつい物言いでしたが、演じるピーター・ユスティノフの太っちょパパ的な大らかさもあってか、雰囲気がかなり緩和されていた感があります)
このように、原作もギラーミン版も接してない方は、犯人探しや衝撃のトリックなども含めて新鮮な想いで本作を堪能できることでしょうが、逆に知っている方々こそ、原作小説とギラーミン版との比較を大いに楽しめる作品になってることは断言できます。
ここは原作のほうが良かったとか、この改変はギラーミン版のほうが上、でもあそこの描写は今回が一番素晴らしいとか、2時間強の上映時間の間、基本ストーリーを把握している分、さまざまな論考を脳裏で駆け巡らせてくれること必至でしょう。
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