「ミステリと言う勿れ」第9話レビュー:「ミスだと言えなかったのがミス」掛け違えられた友情のボタン(※ストーリーネタバレあり)
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菅田将暉が主演、伊藤沙莉や門脇麦など豪華俳優陣が脇を固める新月9ドラマ「ミステリと言う勿れ」が2022年1月10日(成人の日)より放送スタート。
物事を深く考える癖があり、特徴的なヘアスタイルが印象に残る、土日のカレー作りが趣味な大学生・久能整(菅田将暉)。身に覚えのない容疑を着せられたり、バスジャックに巻き込まれたりと、何かと事件に巻き込まれやすい性質である。
本記事では、第9話をcinemas PLUSのドラマライターが紐解いていく。
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「ミステリと言う勿れ」第9話レビュー
ミステリー会を開催するため、天達(鈴木浩介)の友人である蔦(池内万作)の別荘=通称アイビーハウスに集まった整(菅田将暉)と風呂光(伊藤沙莉)たち。整には、ずっと気になっていることがあった。ゲームは前日のうちに終わっているはずなのに、どうも、それとは別のゲームが進行しているように思えてならないのだ。デラさん(田口浩正)&パンさん(渋谷謙人)も含め、まだみんながお芝居を続けているように見える。
ただ、ある一人を除いて。
天達は、この会が開催される前に、整に告げていた。「一人だけ嘘をつく人間がいるだろうから、よく観察していてほしい」と。どうやら天達は、妻・喜和(水川あさみ)の死には、ストーカー以外の第三者が関与していると考えているらしい。
そんな人間が本当にいるのだとしたら、一体誰のことなのか?
そして、その人物はなんのために嘘をつくのか?
おそらく「たった一人嘘をついている人間」と「嘘をつかない人間」そして「お芝居をしていない人間」は同一人物である。これまでの行動や言動を振りかえって、最も怪しいと考えられるのは……。
天達の友人である橘高(佐々木蔵之介)は、こう言っていた。「冬の間、この別荘に来たことはなかった」ーー玄関先にマットが置かれているのを見て不思議がり、鼻先に触れながらふと漏らした言葉だった。それをたまたま聞いていた整は一瞬だけ流しそうになるが、違和感をつかまえる。
冬以外=春夏秋に別荘へ来たことがあるのなら、玄関先にマットが置いてある光景を見ているはず。冬に別荘へ来たことがないのなら、どちらかといえば「マットが置いてある光景」のほうが見慣れているはずだ。
橘高は、いつどこで、冬時期の別荘には玄関マットが置かれていると知ったのだろうか?
整がつかまえた違和感は、これだけではない。
橘高がこの別荘へやって来る際、蔦の運転する車の後部座席にて、毛布にくるまった状態でずっと寝ていたという。別荘で過ごす間はマイスリッパやマイボトル、マイ食器の類を欠かさず、就寝時もガレージにテントを張る徹底ぶり。まるで透明人間になろうとしているかのようだった。
そう。橘高は透明人間になろうとしていた。
それは、5年前、喜和が亡くなった事件に関与しているのが彼だったからだ。
例の日の朝、市役所に勤める橘高の元へ、喜和から電話があった。「これから別荘へ行く。若宮と名乗る若い子から電話があったら、自分の居場所を伝えてほしい」ーー心理カウンセラーをしていた喜和。電波が通じにくくなる別荘へ赴く前に、橘高を頼ったのだ。
言われた通り、橘高は”若宮”へ別荘の住所を伝えた。それが、ボタンの掛け違えの始まりだった。
このとき電話をしてきたのは、喜和の言っていた”若宮”ではなく、ずっと彼女を悩ませていたストーカー本人だったのだ。取り返しのつかないミスをしたのでは、と不吉な予感に震え上がった橘高は、急いで別荘へ車を走らせる。
しかし、喜和を救うことはできなかった。予想し得る最悪の状態で横たわっている喜和とストーカーが目に入った。この瞬間、橘高はミスにミスを重ねることとなる。
「ストーカーに、喜和の住所を伝えてしまった」。故意ではないにしろ、重大なミスをしたことに代わりはない。どんなに弁明し、詫びたとしても、失った命は返ってこないのだ。友人である天達に何と言えばいいのか。お前が殺した、お前がミスをしなければ、と責められはしないか。
慌てた橘高は、自分が別荘に来た証拠=雪面についた足跡を消すために雪かきをする。そして、自分のしてしまったミスについては隠し通すことを決意した。正直にミスだと言えなかったことが、橘高の最大のミスだったのだ。
掛け違えられたボタンは、どんどん歪みを、綻びを大きくしていく。
友人から「別荘で行うミステリー会」に誘われた橘高は、整の指摘した通り、恐怖で動けなくなった。喜和の夫である天達は、すべてを知っているのではないか。全員で自分を陥れ、復讐するために自分を呼び出すのではないか?
殺されるのか?
殺すしかないのか?
悩んだ末、橘高は透明人間になることにした。自分が別荘にいた形跡を残さずに、庭に生えている夾竹桃を使って集まった全員を皆殺しにする。帰りは暗渠排水路を通れば、証拠は一切残らない。わざと忘れてきたスマホに着信履歴を残すように仕向けて、アリバイも完璧だ。
しかし、橘高の反抗計画は実現しなかった。
またもや整の観察力が存分に発揮されたことも理由のひとつだが、それ以前に、天達が勘付いていたのだ。何らかの形で、橘高が絡んでいる可能性について。
風呂光も口にしていた。このところ、似たような手口のストーカー殺人事件が頻発している、と。
犯人は口を揃えてこう言っている。「ある日、突然、非通知で電話がかかってきた。被害者の居場所を告げる電話が」ーー自分のミスを受け入れられず、悔やみ、悔やみ、悔やみ切って疲れた橘高が、ストレス発散のためにしたことだった。市役所勤めの彼にとって、被害者の情報を得ることは難しいことではない。
実は刑事だったデラさん&パンさんがその情報をキャッチし、喜和の夫である天達へ協力を依頼。ミステリー会と称して疑わしい人物=橘高を誘き寄せ、情報を得ようとしたのである。
橘高が戻れるタイミングは、たくさん用意されていたように思える。
ストーカーに住所を伝えてしまった可能性を、別荘に向かう前に友人たちへ共有することもできた。別荘に到着した時点で、警察に通報することもできた。ストレスを蓄積させる前に助けを求めることも、ミステリー会の前に正直に謝罪することもできたかもしれない。
彼にはたくさんの道が用意されていた。
しかし「自分のミスを、ミスだと言えなかった」こと自体が、橘高の最大のミスとなった。
彼が正直になれなかった理由は、プライドの高さか、成功している友人に対する嫉妬心か。いずれにしても、些細なきっかけが喪失へと繋がってしまった。
もはや、この友情は元に戻らないだろうと誰もが考えるだろうが……警察に連行される橘高を見て、天達はこう伝える。「介護が必要なお母さんのことなら、何とかするから心配要らない」。橘高はこう返す。「お前は変わらないな、天達」。
ずっと変わらないことが、優しくあり続けることが、恐ろしく人を卑屈にさせることもある。この”掛け違えられたボタン”について考えるたび、何とも言葉にできない、人間の心の機微について悩まされる。
私たちにできることは、誰でも等しく過ちを犯す可能性があることを、心に留めておくことくらいだろうか。
(文:北村有)
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