『ガンパウダー・ミルクシェイク』ポップ&クールな女性たちの壮絶ヴァイオレンス・アクションとそこに至る系譜

ニューシネマ・アナリティクス

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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

主人公の殺し屋を女性に据えたヴァイレンス・アクション映画は今に始まったわけではありませんが、最近は手を変え品を変えながら、非常にユニークな形態でお目見えするものが増えてきています。

3月18日から公開された『ガンパウダー・ミルクシェイク』を筆頭に、ヒロイン・アクション映画の魅力を検証してみましょう!

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縦にも横にも連帯していく女性たちの粋な生きざま!

『ガンパウダー・ミルクシェイク』はネオンきらめく架空のクライム・シティを舞台に、殺し屋で今は行方不明の母を持つ腕利きの殺し屋サム(カレン・ギラン)の決死の行動を描いたもの。

ひと仕事終えたらバニラシェイクを飲み、傷口を自ら縫いながらシリアル(日本製の子ども向けっぽい?)を食べる彼女は、新たな仕事で殺したターゲットの娘エミリー(クロエ・コールマン)を匿ったことから組織を追われ、命まで狙われるようになります。

次々と襲いかかる刺客たちをなぎ倒しながら、サムは母の知り合いと思しき3人の女性が仕切る図書館へ飛び込むのですが……。

本作は単にストーリーを読んでも、その魅力を1割も伝えることはできないでしょう。

まずはタイトルが象徴するように甘いスイーツの匂いが立ち込めるかのようなカラフルな映像センスの中、壮絶なヴァイオレンス・シーンがスタイリッシュに繰り広げられていきます。

残酷な殺戮シーンなど苦手な方も、これに関してはかなりのめり込んで見ていられることでしょう。

クエンティン・タランティーノも太鼓判を押す期待の新鋭ナヴォット・パブシャド監督は古今東西のアクション映画にかなり精通しているように見受けられますが、それをわかりやすく象徴しているポイントのひとつに音楽が挙げられます。

全体的にマカロニ・ウエスタン・タッチが印象的なフランク・イルフマンの楽曲の数々にしても、そもそも彼はエンニオ・モリコーネの『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』(66)のサントラを聞いて映画音楽の道を志すようになったのだとか(ボーリング場のシーンなど、まんまモリコーネ!しかしそれらが不快にならないのは、やはりオリジナルへのリスペクト精神が見る側に好もしく伝わっているからに他なりません)。

さらに今回、彼はやはり『ガン・クレイジー』(66)などのマカロニ音楽から『ベニスの愛』(70)などのラブストーリー、はたまた『血みどろの入江』(71)などホラーまで多彩に手掛けるステルヴィオ・チプリアーニ特有のサロン・ミュージック感覚、さらにはヒッチコック映画などの名匠バーナード・ハーマンのスリラー音楽なども念頭に置くようパブシャド監督から要請され、見事に期待に応えてくれています(そう、音楽も巧みにシェイクされている!)。

次に本作は、母と娘の絆をベースに敷きながら展開していきます。

母と娘がダイナーで1個のミルクシェイクに2本のストローを挟んで飲むシーンは、まさに娘が母の稼業を受け継ぐ継承盃のようでもあり、よくよく見ると日本のヤクザ映画やアクション映画などを彷彿させる箇所が満載。

さらにはサムの母への忸怩たる想いを秘めているかのような図書館のおばさま3人の貫禄と、それに見合ったアクションのポップ&ホット&クールなすさまじさ!

アンジェラ・バセット、ミシェル・ヨー、カーラ・グギーノといった名優たちが五十肩も何のそのといったバリバリ格闘戦、さらにはそこにサムの母スカーレット(レナ・ヘディ)も加わってのおばさんパワー全開のカタルシスは女性同士の連帯といった横軸として、母と娘の絆=縦軸とも見事にクロスしていきます。

そして、この縦と横のクロスが、サムとエミリーの疑似的な母と娘の関係性にも直結していくという、実に上手い仕掛けなのです。

衣装も含めた美術シーンのポップなセンスの良さも特筆ものですが、個人的に大いに気に入ったのは図書館内の書物たち!

図書館とは知識を養うところであり、「もっと勉強しなさい」とばかりにサムがおばさまたちから渡される書物の数々が、その著者とも呼応しあいながら、それこそ悲鳴をあげてしまいそうなくらいに素敵なのでした(何が素敵かは、見ればわかります!)。

アクションそのものもガン・アクションあり、ソード・アクションあり、肉弾戦にカー・アクション(地下駐車場の一幕もサイコーにイケている!)と、やはりこの監督、古今東西のジャンル映画にかなり精通しているのがよくわかります(香港のクンフー映画も好きですね。だってミシェル・ヨーを出演させているくらいだから!)。

局部麻酔を打たれたサムがオバカ殺し屋トリオに立ち向かうくだりのアクションも、本作の白眉のひとつたる秀逸なものとして映えわたっていました。

–{女性たちは映像の中で いかに闘ってきたか?}–

女性たちは映像の中でいかに闘ってきたか?

(C)2020 UNIVERSAL STUDIOS. (C)355 Film Rights, LLC 2021 All rights reserved.

今年は世界各国の女性スパイたちが共闘して巨悪に立ち向かう『355』(21)も公開されていますが、こうしたヒロイン・アクション映画は今やすっかりひとつの大きなジャンルとして定着した感があります。

ところで、こうした女性たちが銃なり刀なり拳なりでさっそうとしたアクションを披露する傾向とは、いつぐらいから普通になってきたのかな?と振り返っていきますと、たとえば「ワンダーウーマン」原作漫画が発表されたのは1941年で、また悲劇の英雄ジャンヌ・ダルクの生涯とその伝承や、中国のムーラン、日本でも武田信玄の女武者隊など、実は世界各地に女性が勇ましく台頭していく設定そのものは、古くから存在していたように思われます。

こうした中、個人的に目を見張るのが香港(広東語)武侠映画のジャンルで、その中には女性剣士などを主人公にした女傑ものの伝統もサイレント映画の時代から点在していて、それが1960年代に入って香港&台湾映画界の名匠キン・フー監督による『大酔侠』(66)『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(67)『侠女』(70・71)など、ヒロインを主体とする武侠映画の傑作を連打していくことで、女傑ものもひとつのムーブメントになってゆきます。

1960年代は米ソ冷戦を反映したスパイ映画のブームも勃興しますが、その火付け役となった007シリーズ(62~)のボンド・ガールは、最初の頃こそ主人公ジェームズ・ボンドの相手役といったスタンスでしかなかったのが、回を重ねるごとにヒロインそのものとしてアクティヴな魅力を徐々に開花させていくようになっていきますので、その時代時代を見据えながら順を追って観賞していくと、いろいろ見えてくるものもあることでしょう。

1967年は「ルパン三世」原作漫画がスタートしていますが、そこから生まれたヒロインがおなじみ峰不二子で、セクシーな国際秘密保険調査員の活躍を描いたTVドラマ「プレイガール」の放送が始まったのは1969年。

また魔女っ子アニメ実写版を目指して作られた国産特撮ファンタジーTVドラマ「好き!好き‼魔女先生」(71~72)ヒロインのひかる先生は、後半アンドロ仮面に変身して悪を退治するようになりますが、これは今に至る特撮変身ヒロイン・アクション路線の先駆けといってのいいかもしれません。

1970年代はブルース・リーのブームに乗せてアンジェラ・マオなどの香港ヒロイン・アクション映画も続々輸入されましたが、我が国からも志穂美悦子という偉大なるアクション女優が登場しています。

「女囚さそり」&「修羅雪姫」シリーズなどの梶芽衣子もタランティーノがリスペクトしてやまないひとりで、今や世界中のディープな映画ファンから支持されていますね。

TVアニメ「マジンガーZ」では弓さやかがアフロダイA、ダイアナンAといった美女型ロボットを操縦するようになり、その後のロボットものでも女性が活躍するのは当たり前の時代になっていきます。

「科学忍者隊ガッチャマン」シリーズ(72~80)の3号こと白鳥のジュンも不滅の人気キャラですが、「秘密戦隊ゴレンジャー」(75~77)モモレンジャーなどもしかりで、この時期の女性はまだ紅一点といったスタンスを保持していた感があります。

アメリカでは「地上最強の美女バイオニック・ジェミー」(76~78)「チャーリーズ・エンジェル」(76~81)といったヒロイン・アクションドラマが世界的な人気を博し、特に後者はその後も3回映画化されています。

「ワンダーウーマン」もそれらに先駆けて1973年に初めてニメ化され、74年に90分の実写ドラマ(日本未放送)、そして1975年から連続ドラマ「ワンダーウーマン」(75~79)が始まり、やはり世界的に評判となりました。

© 1984 Studio Ghibli・H

1980年代に入ると日本ではアニメーション・ブームの中、あの名作『風の谷のナウシカ』(84)が公開されています。

また峰不二子に続けと言わんばかりに(もしくは彼女とは真逆のロリっぽい風情を求めて?)『プロジェクトA子』シリーズ(86~89)など美少女アクション・アニメーション作品がOVAを中心に量産されていきます。その中には庵野秀明監督の出世作でもある「トップをねらえ!」シリーズ(88~89)も含まれますね。

実写では、今や伝説のTVドラマ「スケバン刑事」シリーズ(85~87/ちなみに和田慎二の原作漫画は1975年にスタート)は斉藤由貴に南野陽子、浅香唯などの人気を不動のものとし、87年と88年には劇場用映画にもなる人気っぷりでした。

映画でも早見優主演『KIDS』(85)や宇佐美ゆかり主演『V.マドンナ大戦争』(85)など、アイドル映画の枠を借りながら、実は巧みにヒロイン・アクションものが作られるようになっていきます。

1980年代のヒロイン・アクション映画として筆頭に挙げるべきは、ジェームズ・キャメロン監督の「エイリアン2」(86)という気もしています。1作目ではどちらかというと恐怖と対峙するクルーのひとりといったテイストだったリプリー(シガニー・ウィーヴァー)でしたが、ここでは見事にバトル・ヒロインとしてエイリアンと堂々戦います。

この作品の成功以降、徐々にヒロイン・バトル映画は企画として大いに「あり」といった風潮が生まれたようにも思うのですが、いかがでしょうか?

『ガンパウダー・ミルクシェイク』

ちなみに『ガンパウダー・ミルクシェイク』出演のミシェル・ヨーも1980年代にデビューし(当時の芸名はミシェル・キング)、真田広之と共演した『皇家戦士』(86)などで世界へ飛躍していくことになるのでした。

そして1990年に発表されるや、世界をあっと驚かせたのがリュック・ベッソン監督の『ニキータ』でしょう。政府の秘密警察官によって殺し屋として育てられた少女(アンヌ・パリロー)の過酷で哀しい運命は、そのまま現在のヒロイン・アクションの系譜を探る際に必須のものとして注目すべきものがあるように思われます。

ヒロイン・バトル・アニメーションの革命的な草分けともいえる「美少女戦士セーラームーン」シリーズ(92~97)が開始されたのも1990年代で、現在大人気の「プリキュア」シリーズも、これがなかったから誕生してなかったかもしれません。

(ちなみに現在のウクライナ侵攻によって難民生活を余儀なくされているウクライナの多くの子どもたちが、プリキュアのイラストやグッズなどで大いに心励まされ、癒されているというニュースを聞きました)

こうした流れによって、21世紀に入るとヒロイン・アクションものが特に画期的なジャンルとは思えなくなるほど、割と普通に作られるようになっていきました。

その中で描かれるものも、男性主体の社会構造に対する女性たちの反抗を描くものもあれば、逆にそういった思想的なものをすっ飛ばして男など足蹴にしながら女性たちの趣味や嗜好を軽やかに、そして全面に打ち出していくものも増えてきているようには思われます。

(C)Marvel Studios 2021

最近の『ワンダーウーマン』2作(17・20)や『ブラック・ウィドウ』(21)などを見ても、完全に女性主体の壮大なアクション映画足り得ていて、男性はあくまでも従といった、20世紀のそれとは真逆のテイストになっているのも大きな進歩かもしれません。

個人的には昨年公開された阪本裕吾監督の日本映画『ベイビーわるきゅーれ』(21)が、アルバイト感覚で殺し屋稼業に精を出すふたりの少女(髙石あかり&伊澤彩織/このコンビ、阪本監督の前作『ある用務員』(21)でも女子高生殺し屋を演じており、本作はいわばそのスピンオフ的雰囲気の作品でもあります)を日常的感覚で捉えたユニークな作品として印象的です。

(C)2021「ベイビーわるきゅーれ」製作委員会

それでいてアクション・シーンはよくぞ撮ったり!のハイテンションで、今はインディペンデントでもメジャーを凌駕するアクション映画は優に作れることを実践してくれているかのような快作でした。

もちろん、現在に至るさまざまな性差別や偏見、それらに対する運動など数々の歴史的事象を経て、今ようやく露になってきた日本映画界内部にはびこるセクハラ&パワハラはもとより、世界中で唱えられ続けている“me too”運動などを顧みるに、本当のヒロイン・アクションが作られてしかるべきなのはこれからであると期待したいもの。

そして、そこには当然ながら性別などを優に越えた連帯が必須になっていくことでしょう。

(文:増當竜也)

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–{『ガンパウダー・ミルクシェイク』作品情報}–

『ガンパウダー・ミルクシェイク』作品情報

ストーリー
ネオンきらめくクライム・シティ。サム(カレン・ギラン)はこの街の暗殺組織に属する腕利きの殺し屋。だがある夜、ターゲットの娘エミリー(クロエ・コールマン)を匿ったことで組織に追われて命を狙われることに……。

刺客たちを蹴散らし、夜の街を駆け抜ける2人は、かつて殺し屋だった3人の女たちが仕切り図書館に飛び込んだ。図書館秘蔵の銃火器の数々を手に、壮烈な反撃が始まる!

予告編

基本情報
出演:カレン・ギラン/レナ・ヘディ/カーラ・グギーノ/クロエ・コールマン/アダム・ナガイティス/ミシェル・ヨー/アンジェラ・バセット/ポール・ジアマッティ

監督:ナヴォット・パプシャド

公開日:2022年3月18日(金)

製作国:フランス・ドイツ・アメリカ

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