映画コラム

REGULAR

2023年04月01日

池松壮亮の魅力を知る映画“3選”|『シン・仮面ライダー』公開中!

池松壮亮の魅力を知る映画“3選”|『シン・仮面ライダー』公開中!



「面白い映画を観たい」と言われれば、「池松壮亮主演の映画を観なさい」と答える。

池松壮亮こそ「今もっとも硬派な映画人」と言える。しっかりと選んだ末に演じた彼の主演作は、どの作品も彼自身の映画愛で溢れている。時間を返せ、あるいは金を返せと思うような映画は、ない。

必ずしもエンターテインメント性に溢れた作品ばかりではない。観る人を選ぶような、問題作も多い。しかしながら、「観て損した」と思うような作品は、1本もない。必ず、観た人間の心の深い部分にいつまでも残り続ける映画。それが池松壮亮の映画だ。

そんな池松壮亮が主人公・本郷猛を演じる『シン・仮面ライダー』が、公開された。さすがは庵野秀明。よくわかっている。『シン・仮面ライダー』をもう観た方も、これから観るという方も、この池松壮亮という男のことを、もっとよく知ってほしい。

うってつけの作品を、3本用意した。

【関連記事】『シン・仮面ライダー』賛否両論になる「5つ」の理由

【関連記事】『シン・仮面ライダー』公開劇場情勢&興行分析|今後の粘り強い興行がカギに?

【関連記事】『シン・仮面ライダー』4DXで観るべき「5つ」の理由|特に「風」を感じてほしい!

『ちょっと思い出しただけ』~正統派池松~

©2022『ちょっと思いだしただけ』製作委員会

2022年公開。監督、松居大悟。共演、伊藤沙莉。

“巻き戻せば恥ずかしいことばかりで早送りしたくなる”

クリープハイプの名曲「ナイトオンザプラネット」の一節。この曲をもとに作られたのが『ちょっと思い出しただけ』であり、この一節が作品を言い表している。

30歳前後の、そんなに若くもない男女の恋についての「終わりから始まり」を、遡って描いている。

この作品は、少なくとも30歳以上の人間に刺さると思われる。結婚もして子供もいて、今の生活が幸せでなんの不満もない。ただ、ちょっとしたボタンの掛け違いで別れてしまった「あの人」。あの人とあのまま続いていたら、一体どうなっていただろう。「そうなってれば良かったのに」とは思わない。ただ「ちょっと思い出しただけ」。

©2022『ちょっと思いだしただけ』製作委員会

ダンサーの照生(池松壮亮)は、足の負傷で2度と踊れない体になってしまった。付き合って6年目の恋人の葉(伊藤沙莉)とも、会えばケンカばかり。葉は、ダンスを辞めて普通に働いている照生と、これからも歩んで行きたいと思う。だが照生にとって、ダンスを辞めた自分を想像することはできない。ダンスを辞めた自分には、もはや生きている価値はない。ましてや、恋人を幸せにする資格などない。

なにかに賭けていた人間ほど、その賭けていた物がなくなった時、そのような思考回路に陥ってしまう。まさに筆者もそうだったので、よくわかる。

©2022『ちょっと思いだしただけ』製作委員会

本当は全然そんなことはなくて、新たな道を歩き出した照生も、またそれが平凡な道であろうとも、葉にとっては等しく価値があり、かけがえのないものだ。だが、挫折したばかりの男というものは、そのことがわからない。

いっときの感情で別れてしまったら、絶対後悔するぞ。お前はこの後、照明技師の道に進む。その道に価値を見いだす。だから今は辛いだろうが、また葉と幸せに暮らせる日々が必ず戻るから、とりあえず今は踏ん張ってくれ。筆者は、そう照生に説教したかった。ついでに昔の自分にも。

©2022『ちょっと思いだしただけ』製作委員会

そして6年前。
2人の出会い。
葉は、ある小劇場演劇を観に来ている。
照生は、その舞台にダンサーとして立っている。
舞台上で輝く照生に、葉が一目惚れしたことがそもそもの始まり……ではなく。

ミュージカル調のこの舞台がまた絶妙に恥ずかしく、観客の居心地の悪さが伝わる。この恥ずかしい芝居を役者は気持ち良く自信満々に演じており、もはや北海道と沖縄ぐらいの温度差が、観客との間に生まれている。

芝居の打ち上げにたまたま観に来た演者の友達(葉)まで、ノリで誘ってしまう。ただ、あくまで終演直後のテンションで誘っただけなので、その子へのアフターフォローはない。結果、その子はポツンと孤立する。

すべて、20代の頃に小劇場演劇に携わっていた筆者がさんざん見てきた光景である。あの頃の自分を思い出し、筆者は映画館から走り出してそのまま失踪したくなった。あの頃、筆者の芝居をいつも義理で観に来てくれた、友人、当時の彼女、そしてお父さんお母さん。本当に申し訳ありませんでした。

僕が興奮気味に「面白かったやろ!?」と聞いた時のみなさんの困り笑顔。その困り笑顔の意味が、今ならイヤと言うほどわかります。なんなら腹を切るので、介錯お願いします。



監督の松居大悟自身、劇団を主宰している。だからこそ、これだけリアルに小劇場演劇の「いなたい」空気感を描写できたのだ。小劇場演劇の「恥ずかしさ」を重々承知しながらも、それでも舞台表現にこだわってしまう。松居監督がそういう種類の人間であり、主人公の照生もまた、そういう人間なのである。

この日の公演について自画自賛し合う演者やスタッフたち。隅でポツンとしている葉に話しかける照生。照生は、芝居の正直な感想を葉に求める。おそらく照生だけが、この芝居を俯瞰で見ている。打ち上げでポツンとしている子に声をかけ、「ここ抜けて、どっかで呑み直しませんか?」な輩も、よく見た光景だ。正直に言えば、演劇時代の筆者がそういう輩だった。

いい感じに出来上がった2人が、飲み屋街的なところを歩くシーン。お互いを意識しだした頃。
学生と違い、社会人の恋愛は敬語で始まる。その敬語とタメ口が混ざり合う頃。それぐらいの時期がいちばん楽しい。

最初に「終わり」を見せつけ、どんどん楽しい時期に遡る。残酷で胸が痛いが、美しい映画。
尾崎世界観の気だるそうな歌い方が、「6年も付き合って結婚しなかった男女の恋愛」には、よく似合う。

【関連記事】『ちょっと思い出しただけ』で思い出す、古傷をえぐる映画4選

【関連記事】<解説>『ちょっと思い出しただけ』×「クリープハイプ」の魅力

『宮本から君へ』~熱(苦し)い池松~

(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

2019年公開。監督、真利子哲也。共演、蒼井優。

90年代に、新井英樹という漫画家の描く「宮本から君へ」という漫画があった。当時10代後半だった筆者にとって、もっとも好きだった漫画である。不器用だが熱い営業マン・宮本浩が、仕事に恋に奮戦する様を、ひたすら暑苦しく濃く描く。

今の若い方にこの漫画を読ませた場合「90年代って暑苦しい時代だったんだなぁ……」と思うだろう。だが、それは違う。リアルタイムでも、この主人公・宮本浩は確実に周囲から浮くぐらい暑苦しかった。当時の雑誌アンケートで、「嫌いなマンガキャラ」1位に選ばれたりもした。

連載終了から25年近くたった2018年。突然この作品がドラマ化されるという報が入った。今時のスマートに洗練された若い役者に、あの暑苦しい主人公を演じることができるのか。今風にオシャレなドラマにするぐらいなら、映像化自体やめてくれ。

(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

主人公を演じるのは、池松壮亮らしい。実は、筆者が池松壮亮を意識し出したのは、このドラマがきっかけである。

池松壮亮は、見事に宮本浩だった。

「こんなにも漫画とおんなじ顔をした役者、よく見つけてきたな……」

感心しながら、ドラマを毎週楽しみに観ていた。宮本だけではなく、他のキャラの造形も限りなく原作に近い。宮本の上司役の星田英利も、同僚役の柄本時生も、先輩役の松山ケンイチも、そして、ヒロイン・中野靖子を演じる蒼井優も。

(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

ストーリーもあくまで原作に忠実で、真利子監督の原作愛が伝わる。この監督と、この漫画の話だけで一晩酒を酌み交わしたい。ドラマで描かれているのは、原作前半に当たる「熱血土下座営業編」(サブタイトルは筆者が勝手につけた)。

競合に敗れ、彼女にもフラれた宮本が、失意のまま夜の街を歩くシーンで、ドラマは唐突に最終回を迎える。

「えっ、これで終わり!?こっから面白くなるのに……!」

そう思っていたら、今度は映画化の報が入る。冷静に考えて、この先の「前歯吹き飛ぶ愛の復讐編」(筆者が勝手につけた)は、地上波ではできない。映画で良かったと思う。

ドラマでは出会いまでしか描かれなかった宮本と靖子は、映画において正式に恋人同士となる。
新井英樹は、セックス・シーンを一切美しく描かない。主人公とヒロインが初めて結ばれるシーンなのだ。普通なら、そういうムードになる場面があり、ページをめくったら既に事後であったりする。

しかし新井英樹は、もう身も蓋もないぐらい丹念に、妥協なく最中を描く。お互いの愛情を容赦なくぶつけ合う、真剣勝負のように描く。

(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

ヒロイン役が蒼井優と聞いた時、さすがにそういうシーンはサラッと描かれるんだろうな。蒼井優の中野靖子は適任だけど、その点が残念だな。それなら、無名でもしっかり脱げる女優さんが良かったな。

蒼井優は、そんな筆者の懸念を一気に吹き飛ばしてくれた。蒼井優的に(あるいは事務所的に)、できる限りの最大限の濡れ場を演じてくれた。新井英樹作品において、セックスというものは「人間の業」を描く上でもっとも重要な要素のひとつであり、そこを妥協するぐらいなら映像化する意味はない。ありがとう、蒼井優。

先述した通り、この作品は「復讐編」である。蒼井優演じる靖子が、レイプされる。相手は巨漢のラガーマン・拓馬(推定体重:115㎏)。あろうことかその暴行は、泥酔して眠り続ける宮本の傍で行われるのだ。暴行のショックと助けてくれなかった宮本への怒りから、別れを突きつける靖子。拓馬への復讐を誓う宮本。1度目の復讐はあっさり返り討ちに遭い、前歯を4本持っていかれる宮本。それでも宮本は言う。

「俺は泣いてからが強い子供だったんだ……!!」

(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

この作品での池松壮亮はほぼ全編において、前歯がなくなっているか、顔がボコボコに腫れあがっているか、さもなくば血まみれだ。復讐を果たし、血まみれの顔で靖子に結婚を迫る宮本。「世界中の人間を敵に回すつもりで」自らの行動原理に則って動き、愛する人を力技で取り戻す。

この暑苦しくうっとうしくはた迷惑な男を、商業映画の主役として演じられる俳優。そんな男、池松壮亮以外には考えられない。

『君が君で君だ』~狂気の池松~

(C)2018「君が君で君だ」製作委員会

2018年公開。監督、松居大悟。共演、キム・コッピ。

『ちょっと思い出しただけ』と同じ、松居大悟監督作品。ただ、みんなにオススメしたい『ちょっと……』と違い、『君が君で君だ』は観る人間を選ぶ。いろんな意味で、危ない作品である。

“好きな女の子を隠れて観察するために、その子の部屋がよく見えるアパートで10年間共同生活をする3人の男。名前を捨て、その子が好きだと言っていた、尾崎豊、ブラッド・ピット、坂本龍馬として生きている”

ストーリーだけ聞いた時、同じくマイケル・ジャクソンやチャップリンになりきって生きる人間たちを描いた映画『ミスター・ロンリー』(2007年公開。監督、ハーモニー・コリン)を思い出した。しかし本作は、その何倍も闇が深かった。

(C)2018「君が君で君だ」製作委員会

男たちは、その子(キム・コッピ)のことを「姫」と呼ぶ。自分たちのことは、「姫を守る兵士」と呼ぶ。それぞれ尾崎豊(池松壮亮)、ブラッド・ピット(満島真之介)、坂本龍馬(大倉孝二)として生きている。

部屋中に「姫」の写真を貼り、「姫」の生活を盗聴・盗撮し、「姫」の出したゴミを集める。話だけ聞くと、鳥肌が立つぐらいにとんでもなく気持ち悪いし、実際にとんでもなく気持ち悪いと思いながら観ていた。

(C)2018「君が君で君だ」製作委員会

しかし、話が進む内に、彼らの(特に尾崎豊の)「狂気」が「純愛」に見えてきてしまうのだ。いつの間にか、涙ぐんでいる自分に気付く。なにが「変態」で、なにが「純愛」なのか。その境目が曖昧となり、「もしかしたら自分もそういう“属性”の人間だったのか」と、怖くなる。

劇中での、女ヤクザ(YOU)とその子分(向井理)とのやり取り。

「あんた、あんなに人を愛したことある?」
「あんなん愛じゃないでしょ、気持ち悪い」
「だからあんたは半端なんだよ」

YOUよ、頼むから彼らの行為を正当化しないでくれ。なにやら崇高な純愛にしないでくれ。向井理の反応が、正常な人間の正しい意見なんだ。筆者は、尾崎ブラピ龍馬サイドに堕ちそうな自分を、繋ぎとめるのに必死だった。

(C)2018「君が君で君だ」製作委員会

人間の、どうしようもなさ、哀れさ、そして愛おしさ。そんな深い「業」のようなものを描き切った作品。観るに及んでは覚悟が必要だ。

ただ、この作品こそが、池松壮亮の「裏の」代表作だと思う。覚悟を決めたら、観てほしい。

~さらに池松~

(C)2003 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『宮本から君へ』や『君が君で君だ』を観てお腹いっぱいになった方は、お口直しに『ラストサムライ』(2003年公開。主演、トム・クルーズ)をオススメする。今作での池松壮亮は、トム・クルーズと心を通わす少年剣士である。暑苦しさや狂気や業を背負う前の、若干12歳だ。まだ初々しい池松壮亮を観て、心癒されてほしい。

逆に、『宮本……』や『君が……』でもまだ物足りない!という強者は『愛の渦』(2014年公開。監督、三浦大輔)を観るといい。乱交パーティーを描いた作品のため、池松壮亮は上映時間の85%は全裸もしくは腰タオル姿である。ただこの作品は、単なる問題作ではなく、秀逸な会話劇でもある。

そして、『シン・仮面ライダー』~変身池松~



2023年公開。監督、庵野秀明。共演、浜辺美波。

「本郷猛役は池松壮亮」と聞いた時、筆者は庵野監督にお礼を述べたくなった。この令和の時代に生きる俳優で、昭和ライダーのあの「泥臭さ」を表現できる男は、池松壮亮以外にはいないと思うからだ。

洗練されてシュッとした平成ライダーにはない、昭和ライダーの泥臭さ、不器用さ、暗さ、そして、悲しさ。池松壮亮は、昭和ライダーのあらゆる要素をひとりで背負って、立っていた。

池松壮亮演じる本郷猛は、頭脳明晰でスポーツ万能。それなのに「コミュ障で無職」という、珍しいキャラクターである。普通はそれだけのハイ・スペックなら、陽キャになりそうなものだ。スペックは、元祖・本郷猛の藤岡弘、先生、でもマインドは碇シンジというややこしいキャラだ。



コミュ障ゆえにぷるぷる震えながら喋る様は、とてもヒーローには見えない。しかし一方でこの本郷猛は、改造手術により、人間を簡単に撲殺できる力を持っている。その二面性に思い悩む様は、まさに原作者・石ノ森章太郎の描くヒーロー像そのものである。この“憂い”を表現できる数少ない俳優が、池松壮亮なのだ。

『シン・仮面ライダー』をまだ観ていない方は、早めに観に行くことを勧める。弱さと強さ、この相反する要素を兼ね備えた、最高に人間臭くてかっこいいヒーローを、観ることができるから。

(文:ハシマトシヒロ)

【関連記事】『シン・仮面ライダー』賛否両論になる「5つ」の理由

【関連記事】『シン・仮面ライダー』公開劇場情勢&興行分析|今後の粘り強い興行がカギに?

【関連記事】『シン・仮面ライダー』4DXで観るべき「5つ」の理由|特に「風」を感じてほしい!

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!