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<考察>『アネット』カラックス過去作との決定的な“違い”とは?

2:賞賛の声は“群”として、非難の声は“個”として

■緑の賞賛は解像度を下げる


次は、ヘンリーのパフォーマンスと反応に注目していく。『アネット』における観客の映し方は独特である。最初のパフォーマンスでは、客席は緑の光に覆われている。観客が「群」として捉えられており、不気味な笑いがヘンリーに力を与えているように見える。


一方で、アンが出産した後のパフォーマンスでは、同様の破壊的振る舞いを行うも非難が投げつけられる。この場面での客席は、自然体のライティングで映され、批判者の顔が明確に見える演出となっている。

これは、賞賛と非難を与えられた際の心理的な差を象徴しているといえる。



賞賛の声は群として認識するが、非難の声はその出所を確認しようとする為、個人の顔が意識される。この特性が、本作をグロテクスな物語へと豹変させる。

最初の舞台で、突然ヘンリーが銃撃され倒れる場面がある。客席にカメラが向けられると、緑に覆われた観辛い画の中心で露悪的に爆笑する男がいる。その周りには、悲鳴を上げる人がいる。だが、笑い声が空間を支配しウケたパフォーマンスとして処理されてしまう。緑の覆いは、個人を束ねてしまう効果があり、賞賛の声がいかに「群」として認識され物事の解像度を下げてしまうかを物語っている。

■賞賛の中には、非難の中よりも、より多くの鉄面皮がある。by ニーチェ


アネットをスターとしてプロデュースするヘンリー。たちまち世界中で話題となる。その賞賛の中で「搾取だ!」と非難の声が混じるが、厚顔無恥な態度でワールドツアーを敢行していく。動画の視聴回数や行く先々で投げかけられる声援が、ヘンリーを良心から引き剥がしていき、開き直らせる。

運よく、消え去ったアン、そして性的暴行の告発者たちのことを内に押し込む。「アネットのためだ」と自分に言い聞かせながら、カリスマプロデューサーとして振る舞おうとする。

後戻りできなくなる程に分厚くなった鉄面皮を提げて、ついに自分の地位を脅かす存在である指揮者を殺してしまうのだ。

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