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2022年04月28日

<解説&考察>「ムーンナイト」第5話:アメコミ実写の革命!濃密なテーマを描く人間ドラマの最高峰

<解説&考察>「ムーンナイト」第5話:アメコミ実写の革命!濃密なテーマを描く人間ドラマの最高峰

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マーベル・スタジオが送るドラマシリーズの最新作「ムーンナイト」が2022年3月30日より配信された。

『スター・ウォーズ』シリーズのオスカー・アイザック主演、マーベル作品としては異例のサイコスリラー調で描かれる本作は、まさしく、シリーズの新機軸である。睡眠障害を持つ冴えない博物館のギフトショップ店員・スティーヴン・グラントが遭遇する不可解な出来事。彼に秘められた才能と、「エジプト」「多重人格」というキーワードに隠された思わぬ秘密とは……。

本記事では、「ムーンナイト」第5話の魅力をマーベル好きのライターが紐解いていく。



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※本記事では「ムーンナイト」第5話の核心に触れています。未視聴の方はご注意ください。

「ムーンナイト」の世界観を整理する



多くの視聴者を混乱に渦に陥れた前回の衝撃ラスト。
今回は、まず、ここから明らかになった本作の世界観を改めて整理しておきたい。

ドラマ「ムーンナイト」では、前回のラストから大きく2つの世界を舞台に物語が描かれるようになった。

1:主人公マークが作り出す虚構の精神世界
2:彼が生きている現実の物質世界

この2つだ。



「1」は、元傭兵・マークが別人格・スティーヴンと共にダークヒーロー・ムーンナイトに変身しつつ、宝探しに挑む第1~4話で描かれてきた世界。

「2」はシカゴのパットナム病院に収容されている精神病患者・マークの世界であり、第4話のラストで彼の頭の中の妄想が「1」であることが明かされた。

今回の第5話では、これらの物語が同時進行で描かれていく。

悪役・アーサーの凶弾に倒れ、主人公が命を失ってしまった「1」の物語では、冥界(死後の世界)で分離したスティーヴンとマークの魂が真実を探るために過去の記憶を辿ることになる。



一方、「2」の現実世界では、精神病患者・マークと担当医であるアーサーの会話が展開される。
アーサーは、マークにカウンセリングを行うことで彼から過去の出来事を引き出そうとしており、マークが記憶を辿っていく行為そのものが妄想世界である「1」へと反映されていくのだ。

このように、今回のエピソードは、一見、困惑しやすい物語ではあるが、整理してみると単純な物語であることが分かるだろう。

「ムーンナイト」は“何について”の物語なのか?



謎が謎を呼ぶミステリアスな展開から、物語の核心が掴めなかった「ムーンナイト」

しかし、今回のエピソードでは「多重人格障害(解離性同一性障害)の男がファンタジーの力を借りて、自身の症状を克服しようとする」という物語の全容が明らかになった

これまでの物語が主人公・マークによる妄想だと分かった前回のラストに続き、今回は彼が妄想と地続きの世界で自身の第2人格・スティーヴンを失う展開が描かれた。

スティーヴンは母親の虐待という厳しい現実から目を背けるためにマークが作り上げた別人格であり、彼との決別は“自身の障害”を乗り越えるという意味合いも持っていると考えられる

このことを踏まえ、本シリーズは主人公の精神療法の過程をヒーローものという題材で表現したメタファーだったとも言えるのだ。

虚構を活かしたメタ構造



また、過去のマークと現在のマークにおける虚構のあり方を対比してみても面白い。

幼少期のマークは、他者が作り上げた“虚構”からスティーヴン・グラント(彼の名前は映画『トゥームバスター』から名付けている)という存在を生み出し、現実から逃げてしまい、多重人格障害(解離性同一性障害)を負うことになる。

しかし、この物語で描かれる青年期のマークは、自分が作り上げた“虚構”の物語によって自身の別人格と決別し、現実に立ち向かって多重人格障害を克服しようとしているようにも捉えられる。

このように、本作では“虚構”という要素を活かした“メタ構造”が機能しているが、これはフェイズ4を迎えたMCU作品においては、特に顕著にみられる傾向である。



例えば、フェイズ4の第1作「ワンダヴィジョン」では、魔術を扱うワンダの作り上げた“虚構”が物語の中心として描かれ、作品構造そのものでもあるシットコム(ワンシチュエーションで1話完結のTVドラマ)という“虚構”がキャラクターの悲惨な現実を救う存在として描かれていた。


©2021 Marvel

また、「ロキ」では、主人公のロキがいち視聴者のようにこれまでのシリーズをメタ構造的に俯瞰する描写があり、その物語を知った上で自身の存在意義を問い直す展開もある。


(C)Marvel Studios 2021

映画『エターナルズ』では、地球の歴史を見守るキャラクターたちの立ち位置も面白いが、ライバル会社であるDCコミックへの言及をするなど、メタなギャグが散りばめらている。

このように、近年は、マーベル作品そのものが自らのジャンルの解体に挑戦しており、改めて、その意義や核心を問い直そうという姿勢が盛り込まれているのが興味深いのだ。

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古代エジプト文明に忠実な表現



今回のエピソードでは、命を失った主人公が冥界(死後の世界)に辿り着く。
そこは大きな船の中で心臓と羽毛が乗せられた天秤により、死者の審判を受け、行くべき道が決定するのだという。

そして、最終的に天秤が釣り合ったマークは、黄昏色に輝く緑豊かな土地へ降り立つことになった。

これらの描写は、若干のアレンジはありつつも、基本的には古代エジプトの実在の書物“死者の書”に忠実であり、最後に主人公が辿り着く場所は死者の楽園“アアル”であることが推測される。

これは、今回のエピソードのメガホンをとったエジプト出身監督・モハメド・ディアブらしいこだわりと言えるだろう。

また、古代エジプト人の死生観では、死は新たな人生へのはじまりと言われていたという。

つまり今回のラストは、マークが自身の第2人格・スティーヴンを失い、多重人格障害(解離性同一性障害)を乗り越えたことで、マークという1人の人間として新たなスタートを迎えたということではないだろうか

ちなみにマーベル作品では、映画『ブラックパンサー』でも死後の世界が登場。
こちらでも、ワカンダ(アフリカの架空の国)特有の死生観を反映した描写にこだわっていた。

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兄弟愛の物語


また、今回は、主人公の兄弟に関するエピソードも語られた。

幼少期から弟思いだったマークは事故で弟を失い、その自責の念に駆られたことで、多重人格者への道を歩み始めることとなる。

悲しくも美しい兄弟愛の物語は、観るものの胸を打つ苦しいエピソードだった。

ちなみに、劇中では、マークとスティーヴンが共演するシーンがある。

これらの場面では、主演・オスカー・アイザックの実の弟・マイケル・ベンシャミン・ヘルナンデスが彼の代役を務めた。(顔などは視覚効果でのちに合成。)

オスカー・アイザック本人が直々に弟に出演のお願いをしたという逸話も公表されており、現実世界でも兄弟愛を感じられるエピソードには心が温まる

予測される今後の展開



最終回で注目したいポイントは、ダークヒーローものとしての決着と、存在が示唆され続けている第3人格の存在だろう。

本作では、序盤こそダークヒーローものとして始まったものの、設定そのものが主人公の妄想だったことで、ヒーローの活躍が描きづらくなってしまっている。

そのため、ここから、いかにムーンナイトを活躍させていくのかは、大きな見どころと言える。

妄想の世界における比喩として登場するのか、なんらかの形で現実世界に飛び出してくるのか、その扱い方には特に注目だ。

また、第3人格という設定は多重人格障害(解離性同一性障害)という題材を描き切るためには大切な要素と言えるだろう。

今回の物語でスティーヴンの人格に対して一区切りがついたからこそ、残虐性を持った第3人格との対峙は、クライマックスの大きな見せ場になるのかもしれない。

なにはともあれ、今回のエピソードでキレイにまとまってしまっただけに続く最終回の描写が難しい作品だとも言えるだろう。

ハロウィンドラマの存在



ちなみに、マーベルでは、 マイケル・ジアッキーノ(『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『THE BATMANーザ・バットマンー』の音楽を担当)がメガホンをとったハロウィンスペシャルが企画中である。

「ワーウルフ・バイ・ナイト」というキャラクターが題材となったMCUのスピンオフ的立ち位置の作品で、海外では今秋ディズニープラスでの配信が予定されている。

原作コミックでは「ムーンナイト」の初登場は本作からであり、ひょっとすると最終回では、本作の存在が何らかの形で関わってくるのかもしれない。

人間と狼男のハーフを主人公にドラキュラ、ブレイドといったハロウィンらしいキャラクターたちの客演もウワサされており、こちらの作品にも注目しておきたいところだ。



今回は、「ムーンナイト」最終回目前の第5話を紹介した。

他のマーベル作品との繋がりを徹底的に排し、それが魅力にもなってきた本作。

とはいえ過去に配信されたマーベルドラマの最終回では、ほぼ必ずと言っていいほど今後のMCU作品に繋がる要素が提示されてきている。

果たして、最終回で物語はどうなっていくのか、不安と期待が入り混じるところだ。

(文:大矢哲紀)

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