アニメ『犬王』レビュー:劇場で観てほしい、“犬王”と“友魚”の世界


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

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室町時代に活躍した能楽師「犬王」を主人公にしたミュージカル・アニメーション『犬王』が2022年5月28日(土)に公開された。

本作では「平家の呪い」が主人公・犬王と友魚(ともな)に大きく宿命として関わってくる。友魚は両目の視力を失い、犬王は異形の者として生まれてくるのだ。

作中ではアニメーションならではの表現で、彼らが感じ取っている世界が描かれている。

制約があるなかでも、生き生きと表現された主人公たちを紹介したい。

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平家の呪いで光を失った「友魚」が感じ取る世界


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

物語は現代日本で琵琶をかき鳴らす友魚(ともな)の語りで始まる。今を遡ること600年前、室町時代が舞台。“奪われて失われた”犬王と友魚の物語だ。

友魚(ともな)は壇ノ浦に住む五百(いお)の一族の男の子。平家の遺物あさりと漁を糧に暮らしていたが、あることが原因で平家の呪いを受けて失明してしまう。(友魚は作中で友一、友有と名前を変えていくが、ここではすべて友魚と呼ぶことにする)

父を喪い、母は事態に怒り狂い、自分は光を失った。内側に怨みを抱えずはいられない立場だ。原因となった平家の物語を求めて旅に出る。


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

視覚を失ったからこそ、友魚の視界で感じられたであろう景色が続いていく。緑鮮やかな植物、激しい雨音、雨宿り先の軒下へ流れる雨。そしてやがて師となる琵琶法師の姿。

『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

視力がないなかで琵琶を爪引き、犬王とタッグを組んでからは着物ははだけ、橋の欄干に登って琵琶を奏でる。

前半が静の美しさなら、後半からは別人のような肉体を使った動きのパフォーマンスを披露してくれる。

静と動の対比、表現の違いを楽しんでほしい。


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

呪われた主人公「犬王」から見える世界


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

犬王は京都の猿楽能の一派、比叡座の棟梁の息子として生まれた。生まれつきで異形だった。実の母親さえ彼をまともに見ようとしない。


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

ただ、彼は底抜けに明るい。自暴自棄の明るさではなく、全てを受け入れる強靭さがあっての明るさだ。

犬王は与えられた自分の肉体を愛し(目があるべき位置になく、背中に鱗が生え、手足の位置や長さは不釣り合いでも)、見よう見まねながら独自の舞を身につけていく。

はじめは瓢箪形の面の穴から見えるだけだった世界。季節を感じる世界から、やがて兄たちが学ぶ踊りへ。

足の形が整ってからは市中を駆け巡り、笑い、面をとって人をからかう。徐々に世界が広がっていくのだ。

『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

犬王は初めから終わりまで動を貫く。体を使い喜び、弾けるように演じる姿は観る側をも心地よい気持ちにさせてくれる。

平家の亡霊が望むこと


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners


やがて京で出会った2人は、平家の亡霊から彼らの物語を聞き取り、六条河原の下でパフォーマンスを行うようになる。

平忠度(たいらのただのり)が右腕を切り落とされた話にちなんだ「腕塚」。壇ノ浦で平知盛がイルカに勝敗の行方を占わせた「鯨」。


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

人が集い共に腕を上げ、手拍子を打つ様子はミュージカルというよりフェスなのだ。照明や演出など、当時はなかったとは言い切れない。

なにしろ犬王は実在の能楽師で記録も残っているが、演目はなにひとつ現存していないのだから。

「誰かが知っているだけでいい。それだけで救われる」

やがて分かってきたのは、平家の亡霊は犬王を呪っているわけではなかったということ。


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

ただ、自分たちのことを知っていてほしい。人知れず悲しい運命を辿った自分という存在がいたことを、誰かに知ってほしい。名を残す残さないではなく、自分が生きた証を誰かに知ってもらうことで解放されていく。

それは犬王と友魚にも言えることだった。

おわりに


『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー ©2021 “INU-OH” Film Partners

盲目の琵琶法師、異形の能楽師はクライマックスで足利義満の前でパフォーマンスを行っていく。

2人の辿りつく結末とその後はぜひ劇場で確かめてほしい。

(文:ささのは)

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