2022年05月31日

『トップガン マーヴェリック』考察:“不可能”を“可能”にする男が出したアンサーとは?

『トップガン マーヴェリック』考察:“不可能”を“可能”にする男が出したアンサーとは?

「ルールは君らの安全のためにある」への完璧なアンサー


■メトカフ中佐から言われた「ルールは君らの安全のためにある」

トップガンに赴任したての頃、マーヴェリックは訓練で教官ジェスター(マイケル・アイアンサイド)の背後を取ることに成功する。しかし、曲芸に近い方法で勝利を収めた挙句、管制塔近くを疾走するパフォーマンスを魅せたせいで呼び出される。メトカフ中佐(トム・スケリット)は「ルールは君らの安全のためにある」と指導する。しかし、結局のところ実践の場においてルールは存在しないもの同然。曲芸のような無茶でもってエースであるアイスマン(ヴァル・キルマー)を救い、強力な敵機を撃墜することに成功した。


ルールを破り続けること早30年。彼が教壇に立ち、何を語るのか?

本作はここに着目している。

■君ら全員を生還させるためにルールを破る

まず、教壇に立つや否や、マニュアルをゴミ箱に捨てるところから始まる。


なぜマニュアルをゴミ箱に捨てたのか?

それは、ルールと現状を照らし合わせているうちに殺されることをマーヴェリックは知っているからだ。飛行訓練では高度制限を無視し、容赦なく訓練生の背後を取っていく。にこやかに煽り、恐怖心を与え続けていくのだ。無茶な訓練ができるようにルールの改訂申請も行う。彼の指導法はメトカフ中佐と異なり型破りである。

また、以前であれば恋愛を優先してビーチで仲間と絆を深める機会を犠牲にしていたが、率先して訓練生と一緒にビーチで遊ぶ。「短い時間なのに訓練もせず遊んでて大丈夫なのか」と訊かれると、ビーチを指す。チームとしての絆の高まりを魅せつけるのだ。短い時間だからと焦って、ルールに従い詰め込み教育を行うことは悪手だ。チームワークの大切さを知っている彼は、遊びを通じて絆を深めていたのだ。

特に、今回のメンバー編成には非業の死を遂げた相棒の息子ルースター(マイルズ・テラー)がいる。彼の母の想いを背負い、ルースターがパイロットになることを妨害してきたマーヴェリック。それでもルースターはこの危険なミッションに参加することとなった。ルースターの命を預かることは、マーヴェリックにとって十字架を背負っているようなもの。それも彼の恨みが染み込んだ十字架を。

だからこそ、犠牲は仕方がないと考える作戦本部に対して、誰も死なせない意志を持つ彼はルールを破り続けるのだ。リハーサルが行き詰まり、本部が作戦を変更しようものなら、マーヴェリック自身が無許可で練習エリアに入る。そして実演し、不可能に見える作戦が「可能」であることを証明する。現役パイロットとして、自らが突破口を開くのだ。この情熱に訓練生の心を揺さぶっていき、成長の上限を超えさせてみせる。

若気の至りとしてのルール破り。それを強調するために、中佐は「ルールは君らの安全のためにある」と発した。あれから30年が経ち、マーヴェリックは「仲間を守るためにルールを破る」哲学をものにしたのである。まさしく中佐への完璧なアンサーといえよう。

不可能を可能にする男たちは感動のために死ぬことはない


■いくつもの映画的奇跡を積み重ねる男トム・クルーズ

主演のトム・クルーズといえば『ミッション:インポッシブル』シリーズをはじめとして、様々な不可能を可能にしてきた俳優である。そんな彼に不可能はない。

本作では「一人残らず生還させてみせます」と語る一方で、死亡フラグが次々と立っていく。しかし、紙一重で乗り越えていく。この華麗さに胸躍らされる。

訓練生を守るために、自らミサイルの餌食となって墜落したマーヴェリック。なんとか生き延びるが、目の前に軍用機が現れて袋のネズミとなる。絶体絶命だと思ったら、ルースターが軍用機を破壊する。そのままルースターの戦闘機も不時着する。敵地にいるふたりは、F-14を盗み脱出を図る。だが、そこにも修羅場がある。最先端の戦闘機との勝ち目ない空中戦が始まってしまうのだ。見たこともないようなアクロバティックなミサイル回避をする敵機。銃弾数も少なく、あっという間に30発程度になってしまう。

直感的飛行で、なんとか撃墜するものの、そこにさらに敵機が現れる。銃弾は最後の抵抗で底をついた。いよいよ死が目前に迫る。マーヴェリックもルースターも国を守るために死んでしまうのか?

ミサイルが放たれる。すると、敵機ごと爆発する。仲間が間一髪で、助けに来たのだ。

作戦会議のシーンで、奇跡を2回起こす必要があると語っていたが実際には、

・最初の爆弾投下
・第二の爆弾投下
・ミサイル総攻撃からの脱出
・墜落する自機からの生還×2回(マーヴェリック、ルースター)
・軍用機から生身で逃げ切る
・最先端の戦闘機に空中戦で勝つ×2回

と1つのミッションで8つもの奇跡を起こしているのだ。現実世界ではありえないだろう。しかし、これは映画だ。虚構の中で、奇跡はいくらだって起きてもいいはずなのである。映画の中で不可能を可能にし続ける男トム・クルーズの安心感を背に、仲間が誰一人死ぬことなく生還した。

昨今のブロックバスター映画では、主役格の人物が犠牲的に死ぬことでカタルシスを生む演出が散見される。しかし、この映画において確かにアイスマンこそ老衰で亡くなれど、マーヴェリックやルースターが感動のために死ぬ必要はなかった。後部座席から、開いた口が塞がらぬまま曲芸で修羅場を切り抜けていく爽快さ。そこに感動と興奮が詰まっていたのだ。

『トップガン マーヴェリック』は、2022年最強のアクション超大作であることに間違いない。

(文:CHE BUNBUN)

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