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【タイ映画】『プアン/友だちと呼ばせて』2022年夏に「ちょっとした感動を得られる佳作」を観たいあなたへ



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もし「死ぬまでにやりたいことリスト」を作るとして、あなたなら何をリストアップするだろうか。

『プアン/友だちと呼ばせて』は、白血病で余命宣告をされたウード(アイス・ナッタラット)が、友人のボス(トー・タナポップ)とともにリストを埋めていく。記された項目は「昔の恋人に会い、渡しそびれていた物を返す」だ。

ボスとウードはかつてNYで同居していて、ウードだけがタイに出戻りしている。ウードはボスをNYから呼び戻し運転手として起用。2人は元カノ行脚の小旅行に出かける。しかし、リストを埋め終わったとき、ウードはボスにある秘密を打ち明ける。

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製作総指揮ウォン・カーウァイ/監督バズ・プーンピリヤ



といっても、小品は小品である。公開規模もそれほど大きいわけではない。けれど、もし今年の夏に「ちょっとした感動を得られる佳作」を観たいのであれば、『プアン/友だちと呼ばせて』はピッタリの作品だ。お涙頂戴にならないよう真摯に作られていると感じるし、タイの陽気は観客を暗くさせることがない。何よりもバケットリストムービーだからして、程度の違いはあれど、誰しもが感動するに決まっている。

今年の夏は酷いホラー映画が大豊作だったため(褒め言葉です)、思わず何作も観てしまい、老人を見れば殺人鬼、電車に乗れば周囲の人間が感染者に見え、とにかく自分にかけられた呪いを何とかしようとしている方の口直しにもいいだろう。

口直しといえば、ボスはNYでバー経営(兼バーテンダー)をしており、劇中でも様々なカクテルが登場し、重要な意味をもつ。偶然にも筆者は年間100日ほどバーテンダーをしているので、映画評としては少々珍味だけれども、まずは酒の観点から話を進めていきたい。

『プアン/友だちと呼ばせて』に登場するカクテル



本作に登場するカクテルのなかでも、特別な意味をもつのが「ニューヨーク・サワー」だ。材料はライ・ウイスキー、レモンジュース、シロップ、卵白(入れない場合もある)、赤ワインで、クラレット以外をシェイクしてグラスに注ぎ、クラレットはフロートさせる。ライ・ウイスキーはバーボンでも代用できるが、前者の方が香りが際立つ。

ニューヨーク由来のカクテルといえば「マンハッタン」が真っ先に思いつくが、あえてニューヨークサワーをチョイスするのが粋で、その後登場するオリジナルカクテルにもスムーズにアクセスしている。

オリジナルカクテルは、ウードの元カノをイメージして作られている。公式Twitterでレシピを公開しているので、そちらを参考に紹介していく。というか、『プアン/友だちと呼ばせて』の公式Twitterは「映画を観る前でも観た後でも有益な情報を提供する」「中の人が変な人格を持たない」そして「珍妙なハッシュタグを作らない」点で素晴らしい。煽らず、騒がず、映画の魅力を伝えてくれる真摯な広報である。


オリジナルカクテルについて、ダンサーのアリスをイメージした「Alice’s Dance」は、ジンにベルモット、グレープフルーツ、ルクサルド、ビタービアンコ、ライムジュース、クランベリーシロップ、トニックでアップ。シナモンスティックを焦がして香り付けをしている。


女優のヌーナーに捧げられるのは「Noona’s Tears」だ。スパークリングワインにサンジェルマンエルダーフラワー、角砂糖にはアンゴスチュラ・ビターズをドロップする。

カメラマンのルンのイメージは「After The Rain」。ウォッカ、ローズマリー、ジャスミンシロップ、ポメロジュース、ミルク、ライムジュース、ミントが使われている。


ここで、カクテルの命名センスがダサいとかクサいとか言ってはいけない。カクテルの名前なんてほとんどが気取っている。マンハッタンだってそうだし、サイドカー、フレンチ・コネクション、ホワイトレディ、XYZ、以下ほぼ全てのカクテル名はイキっているのだ。なので、本作のカクテルの名前だけがダサいわけではない。古の命名規則に準じて付けられた正統派だと思ってもらって構わない。

これらのオリジナルカクテルは、いずれも彼女らを想起させるに十分な出来栄えで、作ったことはないが美味いのは解る。そして、ここで使われているリキュールやハードリカーはバックバーにピントも合わされずに佇んでいるだけではない。あるシーンでも効果的に使われている。

ネタバレになってしまうので少々ボカすが、このレシピと使用しているアイテムは、そのままボスと「師匠」の師弟関係を明示している。と書いたが、単に酒を使いまわしているだけかもしれない事実に気付いてしまった。けれど、自分の店にどんな酒を揃えるか、発注するかはバーテンダーの出自を如実に語るので、使い回しとて同じことである。


またこの手の映画で懸念されがちな肝心要のシェイク、ステアなどのバーテンダーの技術だが、舞台が日本ではないので査定がし難い。ボスはオーセンティックなバーテンダーではないし、店の雰囲気を見る限り「あのくらいが丁度良い。というか実際に居そう」としか言えない。ディスでも諧謔でもなんでもなく、ストレートに「いい塩梅」と評するのが最適だと思う。

本作の原題は『One for the road』で「最後の一杯」という意味がある。ウードも彼女たちの思い出に終止符を打つかのように最後の一杯を飲む。ただ、酒飲みであれば解るだろうが、最後の一杯は始まりの一杯でもある。

映画として新鮮なショットやカットなどひとつもない。だが



シネフィルだろうがなかろうが、本作を観れば「あれ、これどっかで観たことある」と既視感を抱くはずだ。様々な映画のちょっとしたシーンやテロップの出し方など、あらゆる映画を想起できる画作りになっている。だがこれは剽窃ではなく、サウダージを発生させる装置としておそらく意図的に仕掛けられている。

本作はこの偽物感が素晴らしい。偽物と書くと語弊があるかもしれないので補足するが『プアン/友だちと呼ばせて』は、「本物になりたかった似非」のような可笑しみがある。

ローソンの「からあげクン」を想像してみて欲しい。あれは「唐揚げに似た何か」である。しかし100%唐揚げではないと断じることはできない。なにせ名前が「からあげクン」だ。自称している。別に唐揚げ界隈から敵視されているわけでもない。むしろ多くの人に愛されているからこそ、十年二十年と販売され続けているのだろう。

「どこか似ている」が「本物ではない」曖昧で柔軟な画作りは、昔の友人と語らい、昔の恋人に会い、昔のことを思い出す行為を優しく包み込む。観客側にもいろいろと想起させる力が強い。果てはラストで流される「Nobady Knows」でさえ「本物になりたかった似非」スタイルで、ありとあらゆる楽曲を想起できる。

映画内で徹底的に既視感とサウダージを利用することで、逆にどこにも存在しない作品になっている、とすら捉えられるかもしれない。そして本物になりたい偽物がどれほど豊かなのかを、本作は教えてくれる。本物になれない偽物なのは、我々とて同じである。

ところでなぜ、アジア映画はバイクで2ケツするのか



別にアジア映画だけではないし、初出はどう考えても当該地方ではないのだが、日本や台湾、マレーシアに至るまで、アジアの映画はとにかくバイクで2ケツをする。直近の直近でいえば 『哭悲/THE SADNESS』でも2ケツしていた。当然、本作でもお約束のように2ケツが披露される。

繰り返すが、2ケツはアジア映画だけではない。青春映画に直結しているかのように2ケツは披露される。今やバイク2ケツ描写は世界的なもので、なくてはならないクリシェだと言ってしまって構わないだろう。

でも、アジアの2ケツと北米や欧州の2ケツは、若干意味合いが異なるように思える。後者のそれは物語を駆動させるための車輪だったり、関係性を明示するような演出だったりと、映画の枠を出ない印象がある。一方でアジアの2ケツは日常感が強い。

加藤順彦が著した「若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録」によれば、彼はベトナムのホーチミンに滞在していたとき、早朝からバイクの音で起こされ、外を見たら朝方だというのに物凄い数のバイクが走っていたそうだ。彼は現地の人に尋ねる。

「今日は朝5時半にバイクの音で起こされました。彼らはどこへ行くんですか?5時半からバイクに乗っていく工場ってどこですか?」と。そしたら、彼は笑っていいました。「彼らは出勤してるんじゃない。朝が来て嬉しいから走ってるんだ。彼らは朝が来たことを喜んでるんだ。会社には歩いて行ってる人も多いよ」と。

加藤順彦. 若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録

「朝が来て嬉しいから走っている」そう、特に理由なんてないのである。アジア映画の2ケツは「理由なき2ケツ」だ。そう考えると、アジア圏の2ケツはとにかく美しく純粋で、なんだか泣けてきてしまう。『哭悲/THE SADNESS』は除く。

『プアン/友だちと呼ばせて』でも、効果的な2ケツが登場する。タンデムするのはボスとウードではないが、そこには「隠しきれない嬉しさ」が表出している。この青春感は、アジア映画にしか出せない趣がある。

今、っつうか結構前から、アジア映画は豊かだ。アジア映画と括るのはちょっと範囲が広すぎるかもしれないが、多くの名作が制作されている。けれど、そのクオリティに比して日の目を見ない作品も数多く存在する。

『プアン/友だちと呼ばせて』も、間違いなくそれに当てはまるだろう。けれど、このクソ暑い夏に、最大の感染者数を記録している最中に、本作を観た経験は一生残るはずだ。映画内にはコロナのコの字もない。たとえ余命宣告を受け、過去にケリをつける「死を前提とした哀しい物語」であったとしても、その世界がどれだけ豊かであったのかは、もう映画でしか体験できないのかもしれない。

(文:加藤広大)

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