「ちむどんどん」第113回:賢秀と清恵の熱演も、引っ張り過ぎてのびたおそばみたいに思える要因とは
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2022年4月11日より放映スタートしたNHK朝ドラ「ちむどんどん」。
沖縄の本土復帰50年に合わせて放映される本作は、復帰前の沖縄を舞台に、沖縄料理に夢をかける主人公と支え合う兄妹たちの絆を描くストーリー。「やんばる地域」で生まれ育ち、ふるさとの「食」に自分らしい生き方を見出していくヒロイン・比嘉暢子を黒島結菜が演じる。
本記事では、その第113回をライター・木俣冬が紐解いていく。
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大切な人を見放してはいけない
雨降って地固まる ということわざが絵になっていました。やっと清恵(佐津川愛美)を見つけた賢秀(竜星涼)。清恵は帰らないと意地を張りますが、賢秀はもう二度と「大切な人を見放すことはしない」と強い決意で粘ります。
賢秀が大切な人を見放さないと思ったきっかけは子供の頃、暢子(黒島結菜)が貧しさから東京に養女に出されそうになったときの苦い経験です。家族が引き裂かれることの悲しみが募りに募り、暢子は東京にいかず、家族で幸せになると決意したあの日……。
和彦(宮沢氷魚)が暢子の手を離さないと誓ったのと同じく、賢秀もそう思っていて、いまは清恵に対してその思いを注いでいるのです。
三郎(片岡鶴太郎)に言われて黙って後ろから抱きしめる賢秀。恋愛ドラマで有名なシチュエーション(別名・あすなろ抱き)ですが、実は、子供時代に、賢秀は暢子を後ろから抱きしめています。家族愛の表現として。
子供の日の回想シーン。賢秀(浅川大治)と暢子(稲垣来泉)が猛ダッシュで駆け寄って、賢秀は勢い余ってお互い通り過ぎそうになるところを、咄嗟に腕で暢子を抑え込んだすえに抱きしめる。最初からはかったように前から抱きしめるのではなく、勢い余った感じが最高にいいのです。
子役の浅川大治さんの懸命さが胸を打つ、大好きなシーンです。
後ろから抱きしめるは形骸化するともはやコントですが、本来は、背を向ける相手を必死で止める感情の発露です。
暢子の手を逡巡したすえ握った、和彦の子役・田中奏生さんの演技にも切実なものがありました。
少年時代の賢秀と和彦は、貧しさゆえ運命に翻弄されるひとりの沖縄の少女をなんとかして守りたいと
思いながら何もできない非力な自分が悔しい。かの名作「火垂るの墓」に感じるようなものがありました。
ところが大人になると、和彦と暢子は、戦争の話と自分たちを重ね合わせて沖縄の海で愛を誓うというすっきりしないことになり、賢秀と清恵の場合は、店の前で舞台のような絶叫芝居をはじめ、「グッド・バイ」を歌うのか歌わないのかというわかりやすい暗喩めいたやりとりがあり、そこに雷ゴロゴロ、雨ザーザーという、そうでもしないと間がもたない流れで、引っ張りに引っ張ったすえ、ようやく清恵は千葉に戻ります(この撮影に携わった人たちの想いをドラマ化してほしい)。
昭和のドラマには当たり前にあった”生きる悲しみ”の必要性と、平成に求められた楽しくなければ……のノリと、令和になって、いろいろ描き過ぎちゃうと視聴者が引いてしまうから配慮の必要性とのせめぎあいによって「ちむどんどん」は足元が安定しないものになっているような気がします。まるでアメリカと日本と中国に挟まれている沖縄のようです。
先日、脚本家の羽原大介さんに取材する機会がありまして。恋愛の話になったら
恋愛はすれ違うからこそ恋愛なんだ。https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/20220913-00314814
とおっしゃっていたことが印象的でした。恋愛に限ったことでなく表現がストレートでなく遠回りしてしまいがちな作風なのだなあと感じました。これは房子(原田美枝子)に言わせたらたぶん、強みであり弱みでもあるのではないでしょうか。
清恵の手をようやく掴んだ賢秀は、回り回って暢子を救うことになります。彼の育てた豚がちむどんどんの看板メニューを作り出す。子供の頃のあの悔しい想いがここへ来て、生かされているのですね。賢秀が暢子を笑顔にしたのです。
というのは理屈ではわかるのですけれど、2時間くらいの映画のプロットというおそばがすっかり伸び切ってしまったものを食べている心境です。ストレートに言えず100回近く費やしている。ある意味強烈な個性だし、それを許容するNHKは寛大だ(中原丈雄さんの役名ではありません)。でもやっぱり「マッサン」のエリーみたいな、ぐずぐずするマッサンにツッコめる人物の必要性を感じますが、どうでしょうか。
(文:木俣冬)
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