『“それ”がいる森』相葉雅紀×中田秀夫監督の“挑戦”
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『事故物件 恐い間取り』でJホラー最大のヒットを記録した中田秀夫監督が、「今回ほど考えてチャレンジした作品はない!!」と言い切る最新作が『“それ”がいる森』。
主人公を演じるのはホラー映画初挑戦の相葉雅紀。『事故物件 恐い間取り』に続いて中田ホラーに登場の江口のりこが元妻役で出演。
さらに松本穂香が主人公と共に怪奇現象に巻き込まれる女性教師を演じるほか、小日向文世・眞島秀和・野間口徹・宇野祥平・酒匂芳といったバイプレイヤーが脇を固めます。
また“それ”を目撃する少年を数百人の中からオーディションを勝ち抜いた上原剣心が演じています。
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“それ”とは?『“それ”がいる森』のストーリー
田舎町で1人、農業を営む田中淳一のもとに、突然、別離れた妻・爽子のもとから小学生の一人息子・一也がやってくる。
中学受験で爽子と口論になった一也は家出同然に家を飛び出し、そのまま淳一のもとでしばらく暮らすことに。ちょうどそのころから、近くの森で不可解な怪奇現象が立て続けに起こり、淳一のすむ町でも住民の不審死や失踪する事件が立て続けに起きていた…。
そんな矢先、一也は偶然、得体の知れない“それ”を目撃してしまう。
「“それ”の正体とはいったいなんなのか?」
淳一は一也を守るため、信じるために一也の担任教師・絵里と共に怪奇現象を追っていくことに……。
容赦なし!!中田秀夫監督の新たな挑戦
1998年の『リング』から始まったJホラー。
厳密には1988年の『邪願霊』や1996年の『女優霊』を発端とする意見もありますが、世間一般に“怪談ではない”日本製ホラーを印象付けたのはやはり『リング』でしょう。
この『リング』を手掛けたのが中田秀夫監督。本作はその後、ハリウッドリメイクまでされ、中田監督も『ザ・リング2』でハリウッドデビューを果たしました。
多くのホラー映画を中心に手掛けてきた中田監督が、今までにない男性主人公作品として発表したのが亀梨和也主演の『事故物件 恐い間取り』でした。『事故物件 恐い間取り』の製作にあたって中田監督は“恐ポップ(こわポップ)”という言葉を造り、作品を表現しました。それまでの中田監督作品と本作の大きく違うところが“出し惜しみしない”ところでしょう。
実際に事故物件を転々としている“事故物件住みます芸人”に松原タニシの著作をもとにしたこともあって、劇中でも亀梨和也演じる主人公は事故物件を転々とした先でどんどん起きた怪奇現象を映画の中でどんどん出してきます。映画『事故物件 恐い間取り』は“何かわからないものの気配”を漂わせ続け、ラストにドーン!と恐怖を出してきたこれまでの中田監督作品とは全く違った方向の作品でした。
思えば中田監督は、2019年に久しぶりの“日本のリングシリーズ”の新作『貞子』を手掛けていましたが、ここで自身の作風にひとつの大きな転換点を打ったのかもしれません。
『事故物件 恐い間取り』の“恐ポップ(こわポップ)”では恐怖と笑いが交錯する物語を展開しました。
それまで恐怖(とその根源)を追い続けてきた『リング』シリーズや『スマホを落としただけなのに』シリーズなどと違い『事故物件 恐い間取り』は劇中に“恐怖と対になる存在”として“笑い”の要素を大きく取り入れました。恐怖と笑いという正反対の要素を際立たせるためにどちらも出し惜しみしないという形になったと言えるでしょう。
結果として“恐ポップ”路線第一弾『事故物件 恐い間取り』は23.4億円の興行収入を叩き出し、“Jホラー”作品としては最大のヒット作となりました。(ちなみに、これ以前のナンバーワンヒットJホラーは奇しくも中田監督の1999年の『リング2』です)
そして『事故物件 恐い間取り』の興行的な成功をもとに中田監督は新たなチャレンジ作品としてオリジナル企画の『“それ”がいる森』を作り上げます。
『“それ”がいる森』は原作のないオリジナル作品として、ある意味実験的な作品ですが、『事故物件 恐い間取り』の秋田プロデューサーが引き続き企画の舵取りを行い、『事故物件 恐い間取り』で中田監督と組んだブラジリィー・アン・山田と『スマホを落としただけなのに』の大石哲也が脚本を担当するなど盤石の構えを作りました。
中田監督は『“それ”がいる森』に対して「人間はどういうときに恐怖を感じるのか」という原点に立ち返り「容赦ない」と完成作品について感想を語っています。もちろん『“それ”がいる森』は全国公開される映画であり、“『事故物件 恐い間取り』の次”となるため相応のヒットも求められます。
その部分はメインキャストに相葉雅紀、松本穂香、江口のりこというネームバリューのある俳優をキャスティングできたことでかなり補完されることかと思います。
父性を容認させる稀有な存在・相葉雅紀
中田監督の新しい挑戦作品であり、Jホラー最大のヒットとなった『事故物件 恐い間取り』の次でもある『“それ”がいる森』。本作の主演を務めるはなかなかのプレッシャーだと思いますが、そんな重責を担うことになったのが相葉雅紀。
映画は2014年の『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』以来と、少し久しぶりになりますが、今さら説明するまでもなくジャニーズ事務所の大黒柱である嵐のメンバーです。
目下、グループ活動は休止中ですがバラエティからドラマまで様々な形で日本のエンタメの最前線を張る1人です。2022年は久しぶりに舞台にも出演するなどふり幅がさらに大きくなっている感があります。
そんな相葉雅紀が『“それ”がいる森』で演じるのは“離婚歴のある男”でしかも“一児の父”という役どころです。言うまでもなく相葉雅紀は俳優であり、タレントであり何よりも現役バリバリのアイドルです。
そんな彼が“離婚歴のある一児の父”というのはなかなか挑戦的な役を演じていると思います。しかも、江口のりこ演じる妻が故人であるというようなこともなく、劇中にも普通に出てきて交流する場面もあり、息子を挟んで“離婚した両親と一人息子”という構図も登場します。
アイドルであることは、本人が望んでいなくても、求められるまたはついて回るイメージというものでしょう。作品のキャラクターの中でも、特にリアリティのある設定の恋愛色の強い役の場合は、一番の支持層であるファンからのブーイングを浴びる可能性もあります。
そんな中での『“それ”がいる森』の役どころは、鑑賞前の時点で設定だけでも拒絶反応が出てもおかしくありません。一方で不思議なことに相葉雅紀の場合は、“父性”が容認されているのです。
思い起こせば相葉雅紀は2009年のドラマ「マイガール」で父親を演じ、現在のテレビCMでも父親を演じています。本当に不思議なのですが、この“相葉雅紀の父親役”というものをびっくりするほど、素直に受け入れている自分がいます。そして、そんな意見は少数派ではないというのが現状でしょう。40代に入った相葉雅紀にとって、俳優として新たなステージに進むにあたって非常に大きな武器になる可能性があります。
“離婚歴のある一児の父”という役はアイドルとしては挑戦的なものではありますが、相葉雅紀が演じるとその先を大いに感じさせる挑戦と言えます。
以上のことを考えて改めて映画『“それ”がいる森』を見てみると監督・中田秀夫のチャレンジと俳優・相葉雅紀のそれぞれの“挑戦”が重なっていることになります。
2022年はホラー映画の豊作の年
毎年、ホラー映画の意欲作が公開されていますが、2022年はバリエーションの豊富さが目につくような気がします。
洋画ではキング親子原作の『炎の少女チャーリー』『ブラック・フォン』、台湾ホラーを一気に注目させた『哭非』と『呪詛』、A24の『X エックス』『LAMB/ラム』、ジョーダン・ピールの『NOPE/ノープ』などなど。
邦画では恐怖の村シリーズ第3弾『牛首村』、ネット都市伝説をもとにした『きさらぎ駅』、考察型ホラー『N号棟』、TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM発信の『この子は邪悪』、和製エクストリーム系『真・事故物件 本当に怖い住民たち』『オカムロさん』などなど。
どれもホラー映画ではありますが、内容として被っているものがほとんどありません。他にも怪奇色が強いサスペンスなどに対象を広げると作品は倍増以上します。
Jホラーも2022年秋は大作感のある作品が続いて、ジャンルファンにはたまらないでしょう。
その口火を切るのが今回の『“それ”がいる森』、続いて橋本環奈主演の『カラダ探し』、人気シリーズ最新作『貞子DX』といったタイトルが何と2週間おきに公開されます。
1998年の『リング』から『呪怨』『着信アリ』など話題作が続き、ハリウッドでリメイクもされるなど世界的なブームとなったJホラーですが、その後は粗製乱造気味になり、いつしか作品規模もコンパクトになり下火に……。
しかし、近年『事故物件 恐い間取り』や“恐怖の村”シリーズのヒットなどもあって、人手もお金もかけたJホラーが復権の気配を感じさせます。怖い話は夏場のイメージがあるかもしれませんが、この秋に連続公開されるホラーの話題作を見て、劇場でヒヤッとしてみてはいかがでしょうか?
(文:村松健太郎)
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(C)2022「“それ”がいる森」製作委員会