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【映画祭の秋】シッチェス映画祭のおすすめ作品“5選”



芸術の秋、映画の秋、映画祭の秋だ!


日本では、この秋に東京国際映画祭、東京フィルメックス、フィンランド映画祭といろんな映画の祭典が開催される。世界を見渡すとヴェネツィア国際映画祭や釜山国際映画祭などがある。スペインでは先日、シッチェス映画祭が行われた。この映画祭は1968年から続く「ジャンル映画」の祭典だ。近年では、『スイス・アーミー・マン』『LAMB ラム』などといったA24配給の映画が作品賞に輝く傾向があり注目の映画祭だ。

2022年は『レア・エクスポーツ 囚われのサンタクロース』のヤルマリ・ヘランダー監督新作『Sisu』が4冠(作品賞、男優賞、音楽賞、撮影賞)を制した。本作は、ラップランドから都心部に金塊を運ぼうと、ドイツ軍に占領された荒野を突き進む作品だ。西部劇と戦争映画のマリアージュが楽しめるとのこと。

また、第35回東京国際映画祭で上映されるカンタン・デュピュー監督による戦隊モノ『タバコは咳の原因になる』は『地下室のヘンな穴』と共に脚本賞を受賞した。

さて、今回はシッチェス映画祭にゆかりのある作品を5本紹介しよう。

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1本目:『キラー・ジーンズ』

(C)10619248 CANADA INC. / EMAFILMS 2019

トマトの悪魔、ゾンビの悪魔など、さまざまな悪魔が群雄割拠しているこのところ。そんな時代にオススメしたいのは、「ジーンズの悪魔」が大活躍する映画『キラー・ジーンズ』だ。

舞台はキャンペーン準備をする夜のアパレルショップ。インフルエンサーの撮影対応も重なりてんてこ舞いとなる店内。そこへ、新開発された「どんな人にもフィットするジーンズ」が忍び寄る。サメのようにガブリ、ひとり、またひとりと噛みつくジーンズ。人を捕食するたびにパワーアップ。巻きつき攻撃、ジッパーを使った切断技を駆使して血祭りに上げていく。

一見すると滑稽な映画に見えるが、本作は痛烈なファストファッションビジネス批判となっている。恐怖とは得体が知れないから怖い。キラー・ジーンズは顔がないためとても怖いが、対話をすることによって搾取の被害者の像が見えてくる。モンスターとの闘いから社会構造との闘いへと発展していく社会派モンスター映画として観応えある作品といえよう。

<基本情報>
監督:エルザ・ケプハート

出演:ロマーヌ・ドゥニ、ブレット・ドナヒュー、セハール・ボジャニ

<配信サービス>
Amazon Prime Video
U-NEXT 
Rakuten TV
dTV
Hulu
ひかりTV
J:COM
FOD
TELASA
Paravi
iTunes
Google

2本目:『ぼくのデコ 23歳のヴァンパイア兄貴』


(C)2021 Workshed Films Ltd.

もしも兄貴がヴァンパイアになったどうしますか?


『ぼくのエリ 200 歳の少女』をもじったタイトルが特徴の本作は、前半と後半とで物語がガラリと変わる作品だ。前半は、ヴァンパイアになってしまった兄との珍事が描かれる。陽に当たると身体から煙が出て燃えてしまう。常に血に飢えており、気を抜くと弟に噛みつこうとする。そんな状況でも、兄に向き合い冷静に解決方法を模索する姿は涙ぐましい。介護の物語が紡がれていくのである。

後半へ差しかかると、目の前に現れる敵に立ち向かうため、弟は修行をする。気がつけば、ジャンプ漫画のような友情・努力・勝利の物語へと発展していくのだ。



全体的にゆるいテンポの作品ではあるのだが、アクションの切れ味が抜群となっている。落下・上昇・死角を巧みに使うことで狭い家が立体アクション装置へと化けるのである。弟が修行をする中で確実に袋のネズミへと追い込む格闘を習得していくところに熱くなる。

そんな『ぼくのデコ 23歳のヴァンパイア兄貴』は10月21日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて開催の「シッチェス映画祭」ファンタスティック・セレクション2022で上映されるため要チェックだ。

3本目:『ピンク・クラウド』


(C)2019 Luminary Productions, LLC.

2023年1月27日(金)
に恐るべき映画が公開される。

触れる者を死へ至らしめる「ピンクの雲」が現れる。政府からの指示に従い、ステイ・ホームをする夫婦。最初は、非現実な状況を楽しもうとする。しかし1週間・1ヶ月・1年と経てども状況は改善されず時は過ぎ去っていく。やがて「ピンクの雲」が現れる前の世界が非現実な存在へと追いやられていくのだ。

イウリ・ジェルバーゼ長編デビュー作『ピンク・クラウド』はコロナ禍を思わせる内容ながらも、脚本が作られたのが2017年、撮影が終わったのが2019年である。

本作が怖いところは、予言的な内容でありながら、その解像度が異様に高いことある。孤独を抱える人を結びつけようとマッチングアプリの広告が打たれたり、友人や家族との会話はビデオチャットで行う。やがて「ピンクの雲」がある世界しか知らない子どもが現れる。子どもは生まれた時から家の中で暮らすのが当たり前となっているので、「ピンクの雲」出現前の生活を渇望する親のことが理解できないのだ。

来年上半期期待の最凶ホラーであること間違いなしの作品である。

2023年1月27日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開


4本目:『CLIMAX クライマックス』


(C)2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS

A24配給作品
にしてシッチェス映画祭グランプリを受賞した『CLIMAX クライマックス』は、ギャスパー・ノエ特製の鮮血のサングリアとなっている。

ダンスのリハーサルを行う男女。その打ち上げで飲んだサングリアに何者かが薬物を入れたせいで、地獄の一夜となる。観る者は人間離れした動きをするダンサーたちが折り重なる魔界組体操に目を奪われ、覚めることのない悪夢に心を奪われる。

本作は、酔うことで精神が肉体と分離し、制御できなくなってしまう様子を見事に描いた作品だ。

こんな経験はないだろうか?飲み会で浴びるほど酒を飲む。終電が迫っていて帰らないといけないのに、身体は帰ろうとしない。幽体離脱してしまったかのような制御不能な状況が、酔いによって発生する。



『CLIMAX クライマックス』において、カメラはなかなかダンスフロアを出ようとしない。ようやく通路に出るが、外には行こうとしない。助けも求めることはない。ただ、フラフラしながら崩壊していく様子が映し出される。つまり、「酔う状況とは何か」を描いた作品と分析することができるのである。

映画が進むとびっくりするような展開が次から次へと押し寄せてくる。気がつけば、鮮血のサングリアを飲ませられ、あなたも脱出不能な酔いの世界に溺れることだろう。

<基本情報>
監督:ギャスパー・ノエ

出演:ソフィア・ブテラ、ロマン・ギレルミク、スエリア・ヤクーブ

<配信サービス>
Amazon Prime Video
U-NEXT 

5本目:『ZOMBIO/死霊のしたたり』



『MEMORIA メモリア』のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が好きなゾンビ映画に『ZOMBIO/死霊のしたたり』がある。医学校を舞台に、死者蘇生のエキスを開発した学生ハーバートがルームメイトのダンと一緒に死体置き場へ忍び込み実験を行う。しかし、うっかり学長を殺してしまう。学長にエキスを注ぎ込み、ゾンビ化させるが事態はドンドン悪化していく物語だ。

本作は、グロテスクな描写がとても丁寧。死体から脳を取り出す工程も、頭の後ろから切れ込みを入れて慎重にベリッと頭蓋骨を引き剥がしていく。頭だけの存在となった博士が作戦を実行する場面では、移動手段としてバッグを使い、警備員にバレないように行動する様子をじっくりと魅せる。終盤では、様々な肉体がひとつの空間で思い思いのアクションを展開していく。



ゾンビ映画といえばゾンビと人間が対立するイメージが強い。しかし、『ZOMBIO/死霊のしたたり』は死者蘇生を分析し共存していこうとするプロセスが描かれており今観ても色褪せない新鮮さがある。

思えば、『MEMORIA メモリア』においてティルダ・スウィントン演じるジェシカがコロンビアの山奥で出会う男の描写に本作の片鱗が垣間見える。過去の記憶にアクセスできる男は、死んだように眠り復活する。ジェシカはそんな男の奇妙さをそのまま受け入れることで、あるものを見出す。これはハーバートたちがゾンビとなった存在をそのまま受け入れ、新しい世界を見出す運動と共通している。

実は、『MEMORIA メモリア』と併せて観ると面白い作品だったのだ。

>>>【関連記事】<考察>『MEMORIA メモリア』オールタイムベスト級の体験を紐解く

<基本情報>
監督:スチュアート・ゴードン

出演:ジェフリー・コムズ、ブルース・アボット、バーバラ・クランプトン

<配信サービス>
Amazon Prime Video

(文:CHE BUNBUN )

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