映画コラム

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2022年11月20日

『すずめの戸締まり』神木隆之介の“芹澤朋也”に感じた『君の名は。』瀧くんとは異なる魅力

『すずめの戸締まり』神木隆之介の“芹澤朋也”に感じた『君の名は。』瀧くんとは異なる魅力


公開中の映画『すずめの戸締まり』にて、物語のキーパーソン宗像草太(松村北斗)の友人・芹澤朋也を演じている神木隆之介

振り返ってみると『千と千尋の神隠し』や『サマーウォーズ』など、幼少期から声優としてのキャリアを積み重ねてきた神木。その中でも、新海誠作品への出演は今回で3度目。彼の中でも特別なのではないかと想像する。

本稿では、神木が『君の名は。』『天気の子』で演じた立花瀧と『すずめの戸締り』での芹澤朋也、印象の異なる2役を解説。新海誠作品における神木隆之介の挑戦を振り返る。

※本記事では『すずめの戸締まり』のストーリーに触れています。未鑑賞の方はご注意ください。

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『君の名は。』平凡な高校生・瀧くんと、そこに宿る三葉

(C)2016「君の名は。」製作委員会

東京に暮らす男子高校生・立花瀧。瀧くんというキャラクターは、良い意味で神木そのものだ。

実年齢との差さえあるものの、友人たちに囲まれて高校生活を謳歌する姿は、何歳になっても「神木くん」と呼ばれる神木の親やすさと通ずるものを感じさせた。しかし、繰り返し見ていく中でふと思ったことがあるーー「瀧くんって、めちゃくちゃ難しい役なのではないか」と。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

『君の名は。』という作品は、東京に暮らす少年・瀧と飛騨地方に暮らす少女・三葉(上白石萌音)の身に起きた「入れ替わり」が物語における1つの軸となっており、視聴者は1つのキャラクターの入れ替わり前後の動きや表情、そして声から「入れ替わっている」ことを認知できる。

一方、瀧を演じている神木はというと、平凡な高校生・瀧という体でありながら、中身は三葉というシチュエーションを演じなければならなかったのだ。

(C)2016「君の名は。」製作委員会

瀧の役は、新海の指名で決まったもの。『君の名は』公開当初のインタビューで新海は「芝居が滑稽になってはいけないと感じ、声の後ろで演じている人が透けて見えたとしても観客が嬉しい人、女性役を男性が演じていても嬉しい人じゃないと上手くいかないと思ったので、神木隆之介を指名した」と答えている。

例えば、アルバイト先の先輩・奥寺の切られたスカートを瀧(中身は三葉)が直すシーン。瀧は「ふふふ」と自然に笑い「今日は助けていただき、ありがとうございました!」と言う。本来であれば、突然男子高校生のキャラクターが「ふふふ」と笑うと気になってしまいそうだが、視聴している側が何の違和感もなく、この入れ替わり設定を楽しめた。

そういう意味で神木は、新海誠からのリクエストに見事に応えたと言えるだろう。

『すずめの戸締まり』神木のイメージとかけ離れた芹澤


そんな神木が『すずめの戸締まり』演じた芹澤朋也は、草太の友人。

髪は明るく、耳にはピアスやイヤーカフを複数つけており、柄シャツを着た丸メガネ姿という印象的なビジュアル。草太の家に訪れた際は、返事を待たずに「おーい草太!いるのか?いるんだろ?」と声をかけ、「開けるぞ?開けるからな?」と半ば強引に押しかける乱暴っぷり。ご察しの通り瀧くん、及び“神木くん”とは真逆のアングラな印象だ。

おそらく事前情報を入れずに映画を見ていたら、演者が神木だと気づかずにエンドロールを迎えてしまう人がいるに違いない。これまでに神木が演じてきた役や彼のパブリックイメージと、人から金を借りるようなだらしなさが目につく芹澤は、あまりにも結びつかないからだ。

実際、この役のオファーが来た時に神木は「立花瀧のイメージを壊すかもしれないし、芹澤を演じる自信もない」と新海誠に伝え、一度は断ったそう。その役を結局受けることになったからなのか、芹澤というキャラクターには、いつもより声が低めであったり、ちょっとキザな言い回しであったりと、神木のチャレンジが詰まっているように感じた。

友達思いの“おめでたい男”という共通点


一方で、神木と芹澤には共通点もある。

鈴芽(原菜乃華)との出会いのシーンこそぶっきらぼうではあるが、基本的には陽気……神木が日頃から憧れている「おめでたいやつ」を体現しているキャラクターなのだ。まず、親友・草太が何をしているかわからない、大事な教員試験をほっぽり出したとなると、事情を知っていそうな鈴芽に対して、草太はなにをしているのか、どこにいるのかと責めてきそうなところだ。だが彼は不満は言いつつも深追いすることはしない。

ちなみに不満を言って去るシーンで、芹澤が「あいつは自分の扱いが雑なんだよ……腹が立つ……何があったにせよ連絡くらいできねえのかよ」というセリフがとてもツボだった。草太に対する怒りと見せかけて、自分が草太にとって頼りない存在なのかと落胆する気持ちが見え隠れしているようで、芹澤というキャラクターが実は心優しいのだろうなと想像させた。ここにも友達大好きな神木っぽさを重ね合わせてしまった。

さらにそのあとで、鈴芽やダイジンについて深追いせず言われるがまま、東北へと車を飛ばす芹澤。その間、鈴芽と叔母・環の関係性を「闇が深いな」と呟くこともあるものの、車内を盛り上げようと昭和の名曲「ルージュの伝言」などを、1人能天気に歌う姿はおめでたいうえに愛おしかった。

考えれば考えるほど沼が深い・芹澤朋也

新海誠作品での「神木=瀧くん=好青年」のイメージを打破した『すずめの戸締まり』での芹澤朋也という役。

ここまで見てくれた方なら許してくれることを信じて、本音を言わせてほしい。芹澤朋也は、新海誠監督作品史上最も沼が深いキャラクターだと。

実際に、筆者も芹澤沼にハマった1人。映画鑑賞から数日経った今、私は『すずめの戸締まり』の小説を購入し、好きな芹澤のセリフがあるページに付箋を立て、何度も読み返しているほどハマってしまった。

「早く、芹澤に会いたい」ーー今週末もきっと映画館に足を運ぶだろう。

(文:於ありさ)

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