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映画コラム

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2023年05月15日

【第76回カンヌ国際映画祭】是枝裕和『怪物』だけじゃない!映画ライター注目作を徹底紹介

【第76回カンヌ国際映画祭】是枝裕和『怪物』だけじゃない!映画ライター注目作を徹底紹介

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5月16日(火)から開催される、第73回カンヌ国際映画祭。

日本からは、是枝裕和『怪物』がコンペティション部門に選出されたほか、北野武が構想30年の時を経て生み出した『首』がプレミアム公開される。また、ヴィム・ヴェンダースが渋谷の公衆トイレをテーマにした新作『PERFECT DAYS』を発表。役所広司がトイレの清掃員役として出演している注目作となっている。

さらに、インディペンデント映画普及協会主催のACID部門からは二ノ宮隆太郎『逃げきれた夢』が選出。この他にも、個性的な作品がお披露目となる。

そこで、今回は筆者の注目作を8本紹介していく。

【目次】


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コンペティション

コンペティションはカンヌ国際映画祭の花形部門。

ベルリン、ヴェネチアと比べると大御所監督作品が多数選出され、ラインナップ発表時点で日本での公開、配給が決まっていることも多い。

ウェス・アンダーソン、ケン・ローチ、アキ・カウリスマキなど日本でも人気な監督の新作が並ぶ中、筆者は以下の作品に注目したい。

■THE ZONE OF INTEREST(ジョナサン・グレイザー)



ジャミロクワイ「ヴァーチャル・インサニティ」のMVで知られるジョナサン・グレイザー最新作『THE ZONE OF INTEREST』。本作は「ナボコフ夫人を訪ねて」で知られるマーティン·エイミスの同名小説を映画化した一本だ。ナチス将校がアウシュビッツ司令官の女に恋をする話であり、製作にはA24が関わっている。

ジョナサン・グレイザー監督といえば、スカーレット・ヨハンソンが怪しげなエイリアン役を務めた『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』や能面をつけた輩にリンチされ井戸に落とされるも、なんとか生き延びる人を凄まじい音と間で表現した短編『THE FALL』とミュージックビデオ的視覚表現を得意とする監督だ。

そんな監督がホロコースト映画をどのような視点で描くのかが興味深い一本といえよう。

■JEUNESSE(ワン・ビン)

(C)LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

中国を代表とするドキュメンタリー監督ワン・ビン。『死霊魂(506分)』『収容病棟(237分)』『鉄西区(545分)』と長い時間かけて、中国社会が持つ痛みを捉えていく作風が特徴的な監督である。

『JEUNESSE(青春)』も上映時間が3時間を超える作品となっている。上海から150km離れた繊維工業地帯で働く若者を捉えたドキュメンタリーだ。ワン・ビンは2016年に中国東部の繊維工場へ出稼ぎに来た夫婦の亀裂を生々しく捉えていた『苦い銭』を製作。

さらに、翌年には中国の繊維工場で働く移民労働者を15時間長回しで撮影したビデオ・インスタレーション『15 HOURS』を発表、日本でもTake Ninagawaにて上映され話題となった。



最近、『All the Beauty and the Bloodshed』『アダマン号に乗って』といったドキュメンタリー映画が三大映画祭で最高賞を獲る傾向がある。ワン・ビン監督作は毎回、強烈な中国社会の暗部を赤裸々に提示してくるため、パルムドール受賞も十分期待できる作品であろう。

なお、本祭ではスペシャル・スクリーニングとして60分の作品『MAN IN BLACK』も出品している。こちらは、ドイツに亡命した中国の作曲家・王西麟がブッフ・デュ・ノール劇場で3日間かけて行った無観客公演に『アネット』の撮影などで知られるカロリーヌ・シャンプティエと共に迫った作品。

証言を元に中国の暗部を暴き出す手法は『鳳鳴 中国の記憶』や『鉄西区』でも確認できるが、本作は、中国外部からの視点による掘り下げが期待できる。

■LA PASSION DE DODIN BOUFFANT(トラン・アン・ユン)

(C)Lam Duc Hien, Photographer

ベトナム出身のトラン・アン・ユン監督は異色の経歴を持っている。『青いパパイヤの香り』『シクロ』で注目された彼は、木村拓哉やイ・ビョンホンと共にノワールもの『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』を撮る。さらには村上春樹の小説「ノルウェイの森」を映画化している。

そんな彼の新作『LA PASSION DE DODIN BOUFFANT(ドダン・ブファンの情熱)』はフランスを舞台にしている。ジュリエット・ビノシュ演じる料理人ウジェニーは20年にも渡って美食家ドダン(ブノワ・マジメル)の下で働いてきた。ドダンは結婚しようとするが、自由を求める彼女はそれを望んでいなかった。そこで、ドダンは彼女のために料理を作ろうとする。

『青いパパイヤの香り』で美味しそうな料理描写を通じた人間心理の変化を描いてきた監督の原点回帰ともいえる作品に仕上がっていそうだ。

なお、本作は既にギャガが配給権を獲得しており2024年の公開が決まっている。

■BANEL E ADAMA(Ramata-Toulaye SY)

大御所監督の名が並ぶコンペティションリストの中に、見慣れない名前があることにお気づきだろうか?

フランス系セネガル人の監督であるRamata-Toulaye SYは、フランスの名門映画学校ラ・フェミス脚本学科出身。彼女の長編デビュー作がコンペティション部門に顔を連ねた。



『BANEL E ADAMA(バネルとアダマ)』はセネガル北部の村を舞台にしており、村長候補であるアダマがそれを断り離村することをきっかけに混乱が生じるといったもの。近年、『アトランティックス』のマティ・ディオップや『サントメール ある被告』のアリス・ディオップとフランス系セネガル人の映画が国際的に評価されている。

またカンヌ国際映画祭にて長編デビュー作が評価された例として、2019年に審査員賞を受賞した『レ・ミゼラブル』が記憶に新しい。

ダークホースとして注目の作品である。

ある視点部門

ある視点部門は、今後注目の監督が発掘されることで知られている。

アリ・アッバシ監督は『ボーダー 二つの世界』である視点部門グランプリを受賞。その後『聖地には蜘蛛が巣を張る』が本祭コンペティション部門に選出された。他にもグザヴィエ・ドラン、ホン・サンス、深田晃司などといった監督がこの部門で発掘されている。

意外なところでは『クリード チャンプを継ぐ男』『ブラックパンサー』のライアン・クーグラー監督も長編デビュー作『フルートベール駅で』が本部門第1回作品賞を受賞している。

■CROWRÃ(João SALAVIZA, Renée NADER MESSORA)

2023年のある視点部門ではJoão SALAVIZA、Renée NADER MESSORAコンビに注目である。

出品作『CROWRÃ』は前作『The Dead and the Others』に引き続き、ブラジルのクラホ族を描いた作品とのこと。『The Dead and the Others』では、呪術師になることを拒んで都市に出てきた15歳の男の子が虚無を抱く物語。マジック・リアリズムとして描かれる前半と、喧騒としているがどこか寂しい都市空間を捉えた後半パートの差が印象的な作品となっており、ある視点部門審査員賞を受賞した。

『CROWRÃ』では、3つの時間軸からクラホ族の歴史を紐解いていく作品となっている。『The Dead and the Others』同様、子ども目線から描いていくため、よりテーマを掘り下げた作品だと思われる。

ミッドナイト・スクリーニング

ファンタスティック映画枠としてミッドナイト・スクリーニング部門がある。今年も個性的な作品が選出された。

■ACIDE(ジュスト・フィリッポ)

イナゴの次は酸性雨だ!

生き血を吸ったイナゴが人々に襲いかかるパニック映画『群がり』。本作を手がけたジュスト・フィリッポの新作は、2018年に製作した短編映画を長編化させたものとなっている。猛暑の中、突如現れた酸性雨から逃げる家族を描いている。主演は、『ベル・エポックでもう一度』『冬時間のパリ』のギヨーム・カネ

CANAL+の公式YouTubeチャンネルでは短編版を観ることができる。ぬいぐるみ、アスファルト、人間をジュワッと溶かしていく強烈なオープニングから始まる。17分の作品ながら、観る者にトラウマを与える作品がどのようにパワーアップしてやってくるのか期待が高まる。

その他部門

■RETRATOS FANTASMAS(クレベール・メンドンサ・フィリオ)※スペシャル・スクリーニング

(C)2019 CINEMASCOPIO - SBS PRODUCTIONS - ARTE FRANCE CINEMA

『バクラウ 地図から消された村』
のクレベール・メンドンサ・フィリオ監督新作はドキュメンタリーとなっている。ブラジル・レシフェの映画産業について掘り下げた作品となっており、個人や専門機関から収集したフッテージを用いて語る手法が取られているとのこと。

近年、フッテージを繋ぎ合わせて歴史を語るドキュメンタリーが国際映画祭の場で流行している。例えば、ノーベル文学賞作家であるアニー・エルノーが1972年から1981年に撮られたホームビデオを再構成して、当時の社会情勢を語ろうとする『THE SUPER 8 YEARS』を発表した。

日本でもピアニストからリトアニア国家元首となった、ビータウタス・ランズベルギスの歴史を資料とインタビュー交えて語るドキュメンタリー『ミスター・ランズベルギス』が上映され話題となった。

クレベール・メンドンサ・フィリオ監督は『NEIGHBOURING SOUNDS』『アクエリアス』『バクラウ 地図から消された村』と一貫して、空間からその土地の歴史を紐解こうとする作劇を行ってきた。

そのような監督が、レシフェにおける土地と映画産業との関係性をどのように捉えていくのかが楽しみである。

■JAM(Jason YU)※批評家週間

カンヌ国際映画祭シーズンには、並行していくつかのイベント上映が開催される。批評家週間は新しい才能を発掘するため、長編1〜2作目の監督作品を中心に上映していくもの。

今年は、ポン・ジュノ監督のアシスタント・ディレクターを務めたJason YUの長編デビュー作がお披露目となる。

第一子が産まれたことで、関係が悪化していく若い夫婦を描いた作品であるが、物語に幽霊がかかわってくるダークコメディに仕上がっているとのこと。

最後に

カンヌ国際映画祭のラインナップは、公式サイトから確認できる。他にもユニークな作品が目白押しとなっているため、要チェックである。


(文:CHE BUNBUN)

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参考資料

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