「らんまん」田邊教授(要潤)の「私が思いついた」職場あるある<第54回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第54回を紐解いていく。
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大畑の娘の勘違い
いよいよ学会誌が刷り上がります。万太郎(神木隆之介)を待つ間、大学では学生たちがはしゃいでいます。みんなとても楽しげで、あの小うるさい大窪(今野浩喜)もすっかり巻き込まれ、苦虫を噛み潰したようだった徳永(田中哲司)も学生を止めることなく、ユウガオを愛でて微笑んでいます。
最後に田邊(要潤)が重しのように出てきて、この構図を見るに、田邊の強権の下、自由を奪われていた植物学研究室の人たちが、万太郎によって、解放されたのだと感じます。
大窪も徳永も悪い人ではなく、好きなものが大事にしたいものがあったのに、田邊によって個人の意見を言えなくなっていただけなのでしょう。
気にしないで邁進する万太郎ですが、出来上がった学会誌の出来がいいと、田邊は「私が雑誌を思いついたからこそ」と手柄を自分のものにします。
そのとき、みんなピクリとしますが、何も言えません。万太郎もことを荒立てず、田邊に花を持たせます。そこが万太郎の賢いところです。ここで名誉欲に目がくらんで食ってかかっても潰されるだけでしょう。
ここで救いは、田邊以外は、みんな万太郎の功績だとわかっていることです。現実の世界だと、周囲もほんとうのことをわかっているかどうかもわからないことがありますから。
万太郎は、そもそものきっかけは丈之助(山脇辰哉)であることもちゃんと口にします。
こういうことにホッとします。誰もとりこぼさないというのは、そういうことです。
まあでも、この場合は、植物学の雑誌を作ることが最大目的で、みんなが論文を寄せて協力して作ったのだから、その結果を喜べばいいのです。
万太郎は、次号は大窪に任せます、と託してしまいます。図版は岩下(河井克夫)に頼めばいいと。そう、万太郎は雑誌が作りたいわけではなく、植物学者になって、植物学を極めることが目的なので、雑誌はその学問の第一歩に過ぎません。あれもこれもと、欲張らないのです。岩下の仕事もとってしまおうなどとこれっぽちも考えていない。むしろ、結果的に岩下の仕事が増えるのではないでしょうか。
自分のやりたいことをやりながら、巻き込んだ他者の未来も作り出す。それが、ほんとうに仕事のできる人なのです。他者の良いところを頂くだけ頂いて、全部、自分の手柄にして上に行く人は本物ではありません。
絵師の野宮(亀田佳明)も万太郎の絵を認めますが、植物学の絵であって、従来の絵画ではないと、自分と万太郎の棲み分けをちゃんと認めます。岩下と野宮は同じ絵の国の人という感じです。植物的にいうと、こんな感じ?
絵画科 洋画属 野宮
絵画科 日本画属 岩下
植物画科 万太郎
さて。出版祝いが牛鍋屋で行われます。研究室の人たち、印刷工場の人たちが一同に介します。ここでもみんな楽しそう。この支払いは、万太郎が出しているのでしょう。竹雄(志尊淳)もこういう使い方はOKなのでしょう。
その宴会のあと、万太郎は大畑(奥田瑛二)に仲人を頼みます。この時代は交際から結婚ではなく、即結婚で、しかもそこには正式な手続きが必要だったようです。
ここで大畑の娘佳代(田村芽実)がコメディリリーフとして機能します。
雑誌ができて、さあ結婚を申し込みに行くぞだけでもいいところを、もう一品加える。
朝ごはんに、ちょっと美味しい佃煮を一品、みたいなセンスの良さ。朝ドラが久々に、高級旅館の朝ごはんになりました。
まつ(牧瀬里穂)が寿恵子(浜辺美波)に万太郎が迎えにくるかもと言わなかったのは、知らないほうが喜びが大きいし、来なければ来ないで期待もしてないしという考えだったのかもしれません。でも、知らせてないことによって高藤(伊礼彼方)の魔の手が忍びよっているわけで、物語あるあるの哀しいすれ違いにならないといいのですが(とはいえ、万太郎と寿恵子の結婚は既定路線なので安心)。
(文:木俣冬)
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