「らんまん」田邊、海には行っちゃだめだ<第100回>


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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。

「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。

ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第100回を紐解いていく。

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帰ってきた徳永

田邊(要潤)は「欧米の学者は頼らず、日本人自らが自分で学名を与え発表するとここに宣言する」という宣言を表明しました。

有言実行。植物採集で発見したキレンゲショウマを研究し、
「世界でもまれに見る特異な植物であり」「新属新種であること」を突き止めました。そして、学名にtanabe の名前もつけます。

これが日本人が日本の雑誌に発表した最初の新属になりました。

ほかにない一種。田邊が愛したシダーー「始祖にして、永遠」と同じく、唯一無二の、孤高の植物とは、田邊らしい。
人生に迷った末、このひとつを発見するとは、田邊も強運であります。

同時期に、万太郎(神木隆之介)も同じ植物を調べていましたが、田邊は大学の資料や人材を総動員して研究をすすめ、万太郎は明らかに不利な状況で研究し、その差は歴然としていました。

「まさか同じ植物を調べていたなんて」
波多野(前原滉)が気の毒そうに言いますが、万太郎は潔く「おめでとうございます」と心のなかで祝福します。

悔しいけれど清々しい。互いの健闘を讃える。この感覚は、スポーツの試合のような感じではないでしょうか。

田邊はすっかり満たされた様子で、聡子(中田青渚)のおかげだと、彼女の誕生日に何かプレゼントをしようと申し出ます。

「一日だけあなたをください」と聡子は、子供を連れて海に行きたいとねだります。
聡子の台詞は素敵だけれど、
海はやめとけ。

田邊のモデルになった人の人生を知っていると、不安しかない。
背景にはらはらと花びらが舞っているのも美しいけれど儚くて、フラグを感じます。

が、学名が、モデルのyatabeではなく、役名のtanabeであることで、世界線が違うのではないかという一縷の希望も……。

これまで、実際の学名に使用されている名前は、役名も変えずに同じにしていましたから。

田邊は唐突に大学を罷免され、代わりに留学帰りの徳永(田中哲司)が教授になります。
一瞬、徳永が、田邊派から美作(山本浩司)派に素早く切り替えた調子のいい、いやな人だった?と思わせて、そういうわけでもなく、美作が見ているうちは彼を立て、でも、田邊とふたりきりになったら、ちゃんとこれまでの関係性を感じさせます。

「わたしも世界を見てきましたよ」と徳永が田邊に握手したのは、
聡子が第99回で「旦那様のはじめた学問には続く人がいます。あなたがはじめたんです」と言ったように、たとえ教授の座を追われても、田邊の精神は引き継がれるのです。
始祖にして、永遠。そういうことなのかなと思いたい。

田中哲司さんが、徳永は何を考えてるのか、想像の余地をたっぷりもたせた表情をしていて、出世を選ぶやな人にも、人情を大事にするいい人にも極端に振らず、感情過剰にしていないことが、あくまで行動原理が知性と理性がベースなのだと感じられて心地よかった。

田邊は、徳永より直情的です。そこが彼の不器用で損なところでしょう。こんなに人間関係をうまくやっていけないのにここまで出世できていたのは、それだけ学問に関しては優秀だったのでしょう。

教授の部屋を出ていくとき、それまでいろいろ田邊の好きなもので彩られていた部屋がすっかり何もなくなって、胴乱しか置いていませんでした。
田邊が最後は、植物学を最も大事にしていたように感じました。
胴乱は、誰かが使うでしょうか。


余談ですが、田邊の家の障子にシダの模様がついていたのが洒落ていました。


(文:木俣冬)

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