『悪は存在しない』© 2023 NEOPA / Fictive

【第80回ヴェネツィア国際映画祭】濱口竜介『悪は存在しない』だけじゃない!映画ライター注目作を徹底紹介

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8月30日(水)よりイタリアで開催されるヴェネツィア国際映画祭。本祭は、世界三大映画祭のひとつとして知られている。近年ではアカデミー賞前哨戦の役割を担っており、『ノマドランド』『ジョーカー』『シェイプ・オブ・ウォーター』などといった作品が最高賞<金獅子賞>を受賞している。

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved. 

今年はブラッドリー・クーパー長編2作目『MAESTRO』、ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』といった作品がアカデミー賞にも影響を与えそうだ。

日本からは濱口竜介監督の『悪は存在しない』が選出され、三大映画祭全てでの受賞に王手をかけた。また、オリゾンティ部門からは『野火』『鉄男』の塚本晋也最新作『ほかげ』(11/25公開)。ベニス・デイズでは杉田協士『彼方のうた』が選出されている。

他にも注目作品が目白押しな映画祭となっているので、いくつかピックアップして紹介しよう。

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コンペティション部門

■BASTARDEN(ニコライ・アーセル)



『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』や『特捜部Q』シリーズの脚本家ニコライ・アーセルが17世紀にユトランド半島を開拓したLudvig von Kahlenの半生を描いた作品。

『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』に引き続き、マッツ・ミケルセン主演の歴史劇となっておりデンマークの壮絶な歴史を語る作品になっていると予想される。

■LA BÊTE(ベルトラン・ボネロ)

『メゾン ある娼館の記憶』『SAINT LAURENT/サンローラン』と官能的な世界観を生み出してきたベルトラン・ボネロ監督の新作はレア・セドゥ主演のSFであった。人工知能が支配する近未来において「感情」は脅威の対象であった。ガブリエルは過去に戻ってDNAを浄化しようとするが、そこで恋人と出会ってしまうといったもの。



ボネロ監督は2019年に『ZOMBI CHILD』というジャンル映画を撮っている。ゾンビものとはいってもロメロ系ではなく、ジャック・ターナー『私はゾンビと歩いた!』路線の作品に仕上げていた。『LA BÊTE(野獣)』はハリウッド大作のようなあらすじであるが、一筋縄ではいかない物語となっている予感がする。

■HORS-SAISON(ステファヌ・ブリゼ)


『愛されるために、ここにいる』や『女の一生』
と男女間の心理に迫る物語を撮ってきたステファヌ・ブリゼ監督。

最近は、ヴァンサン・ランドン主演でフランス社会の労働問題を扱った作品を撮り続けているが、再び原点回帰した人間ドラマを手がけたようだ。15年前に別れた男女。俳優、ピアノの先生と別々の道を歩んだ二人が中年になったところで再会する。すっかり忘れた傷が広がってしまうのか、あるいは親密な関係になるのかをギョーム・カネとアルバ・ロルヴァケルが演じる。

『愛されるために、ここにいる』では、窓やタンゴによる足取りを通じた心理的間合いの演出が印象的であったため、期待が高まる一本だ。

■FERRARI(マイケル・マン)


▲『ヒート』

日本でも人気が高い『ヒート』のマイケル・マンが自動車メーカー・フェラーリ創業者の半生を映画化。倒産の危機に瀕しているフェラーリ。再起をかけて1,000マイルにおよぶ公道レース「ミッレミリア」に賭ける物語だ。

マイケル・マンは『フォードvsフェラーリ』の製作総指揮を務めていることから、今回の映画化にはただならない情熱が注がれていること間違いなしだ。エンツォ・フェラーリを演じるのはアダム・ドライバー。一見すると結びつかない組み合わせだけに、どのような演技を魅せるのかが見所だ。

また、全米配給権をNeonが獲得していることも注目である。Neon配給作品が映画祭で賞を獲るケースが増えており、昨年の金獅子賞受賞作『All the Beauty and the Bloodshed』はもちろん、ここ数年のカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作の米国配給を担当している。金獅子賞受賞はもちろん、アカデミー賞ノミネートにも期待が高まる一作だ。

アウト・オブ・コンペティション

■THE WONDERFUL STORY OF HENRY SUGAR(ウェス・アンダーソン)

ウェス・アンダーソンはロアルド・ダールを「アイデアの偉大な発明である」と称賛している。そんな彼が『ファンタスティック Mr.FOX』に引き続きロアルド・ダール作品を映画化した。


今回は「奇才ヘンリー・シュガーの物語」を原作とする短編映画となり、製作にNetflixが関わっている。物語は、父親の遺産で暮らすヘンリー・シュガーが奇書を手にするといったもの。『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』に引き続き入れ子構造で語られる作品のようだ。

■DAAAAAALI!(カンタン・デュピュー)

タバコ戦隊が怪獣を肺ガンにさせて撃退する『タバコは咳の原因になる』や巨大なハエを育成して一攫千金を狙う『マンディブル 2⼈の男と巨⼤なハエ』と変わった映画をハイペースで作り続けるカンタン・デュピュー。

今年は2本の作品が制作され、そのうちの1本がヴェネツィアでお披露目となる。フランスのジャーナリストがドキュメンタリー・プロジェクトのためにサルバドール・ダリと会う内容。



もう一本の『YANNICK』は、予告編からルイス・ブニュエル『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』を意識した不条理劇になっていることが予想されるため、2023年のカンタン・デュピューはシュールレアリズム作家に歩み寄る年となっていることだろう。

■THE CAINE MUTINY COURT-MARTIAL(ウィリアム・フリードキン)

先日亡くなったウィリアム・フリードキン新作。タイトルをみてピンと来る方も多いだろう。『ケイン号の叛乱』の4度目の映画化である。原作はピューリッツァー賞を受賞したベストセラー小説であり、パワハラを繰り返す艦長を制し台風の危機を脱したが反逆罪として軍法会議にかけられてしまうといったもの。


ウィリアム・フリードキンといえば『エクソシスト』撮影時に、俳優から演技を引き出すために予告なしにビンタをしたりショットガンで脅したりしたエピソードがある。ひょっとすると今回の映画化は、彼自身が過去に行った暴力を省みる内容となっているのではないだろうか?

近年、映画業界でのハラスメント問題が明らかとなってきている。著名な映画監督も過去に行ってきた撮影を振り返る必要性が出てきている文脈からみて重要な作品といえよう。

■HIT MAN(リチャード・リンクレイター)



昨年、Netflixで配信された異色アニメーション『アポロ10号 1/2: 宇宙時代のアドベンチャー』を撮ったリチャード・リンクレイター監督。彼は実験的なアプローチを取り入れる傾向があり、現在制作されているミュージカル『Merrily We Roll Allong』は20年かけて映画化するとのこと。

本作はショービジネスの世界で成功した者が過去を振り返り、失ったものに気づいていく物語だ。ビフォア3部作や『6才のボクが、大人になるまで。』で取り入れた映画制作で流れる時間を映画に投影させてきたリチャード・リンクレイター。通常なら若い頃と老いた頃で役者を分けたり、特殊メイクで演出するものを、20年間に及ぶその場の演出で作り込んでいく壮大なプロジェクトは彼の集大成となりそうだ。

そんな彼の新作『HIT MAN』は20年前に読んだニュース記事が基となっている。殺し屋になりすまして黒幕を捕まえるという、実録犯罪ものだ。しかし、リチャード・リンクレイターのことなのでオーソドックスな演出に収まることはない。カイエ・デュ・シネマにてコメディ、ダークスリラー、心理ドラマなどいくつかのジャンルを横断して描くと語っている。

■XUE BAO(ペマ・ツェテン)

(C)2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.

今年の5月にチベット出身監督ペマ・ツェテンが亡くなった。彼は『タルロ』『羊飼いと風船』など4作品で東京フィルメックスにて受賞を果たすほどに日本とゆかりのある監督だ。

近年は大阪アジアン映画祭で上映された『君のための歌』や息子のジグメ・ティンレーが手がけた『一人と四人』(東京国際映画祭にて上映)など新鋭監督作品のプロデュースを手掛けている。

そんな彼の遺作のひとつ『XUE BAO(SNOW LEOPARD)』は9頭の羊を殺したユキヒョウを巡り対立する親子を描いた物語となっている。ペマ・ツェテン映画において「羊」は重要な要素として度々登場する。

映画.comに掲載されたインタビューによれば、食料として、収入源としてチベット人にとって重要な羊が映画に登場することは必然的であり、そこに様々な意味を持たせるアプローチをとっているとのこと。『XUE BAO』ではどのような意味が込められているのか期待が高まる。

オリゾンティ

■TATAMI(ガイ・ナティブ、ザーラ・アミル・エブラヒミ)



A24映画『SKIN スキン』のガイ・ナティブと『聖地には蜘蛛が巣を張る』でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したザーラ・アミール・エブラヒミが共同監督した作品が新しい映像表現を積極的に選出するオリゾンティ部門に選出された。

その名も『TATAMI』。突然の日本語に戸惑う方もいるかもしれない。

本作はイランの女子柔道家とコーチが、イラン史上初の金メダルを目指して世界選手権に臨むも政府から怪我を装って負けるよう言われてしまう話。コーチはイラン政府に従おうとする中、どのような決断をするのか注目である。

■INVELLE(Simone Massi)

『あの世への口笛』がショートショートフィルムフェスティバルで紹介されたイタリアのアニメーターSimone Massi初長編作品。彼は一貫して鉛筆や木炭を使った版画のようなタッチで作品を制作している。

『INVELLE』は、第一次世界大戦中、両親の代わりに家事・育児をしてきた子どもゼリンダと第二次世界大戦を生きる片足の子どもアスンタ、そして戦後を生きる子どもイカロの3人を描いた作品とのこと。



過去作『L'infinito』を観たところ、どこか不気味な白黒の世界観に惹き込まれた。これが90分続くとなると思うと鳥肌が立つのであった。

オリゾンティ・エクストラ

■STOLEN(Karan Tejpal)

日本でもインド映画旋風が定期的に巻き起こっているが、「踊らないインド映画」はなかなか日本公開にいたらない。配信に来る場合もあるが、話題になることは少ない。しかし、映画祭を追っていくと「踊らないインド映画」を見つけることがある。

オリゾンティ・エクストラに選出された作品『STOLEN』は貧しい部族の女性の赤ちゃんが盗まれてしまう話。誘拐現場を目撃した兄弟が助けようとするが、捜査は難航してしまう。

(C)BLACK TICKET FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた『燃え上がる記者たち』に通じる物語と推察できる。インドでは部族や性別による断絶が存在する。差別を受ける部族の女性は社会問題に声を上げようとしても封殺されてしまうことが少なくない。警察ですら邪魔をしてくる。

『STOLEN』はそんなインド社会の問題に一石を投じようとしている作品であろう。『RRR』が社会現象となりインド映画に対する関心が高まっている今、特に注目したいインド映画だ。

最後に

『悪は存在しない』© 2023 NEOPA / Fictive

他にもリュック・ベッソン『DOGMAN』やソフィア・コッポラ『PRISCILLA』、デヴィッド・フィンチャー『THE KILLER』など注目作品が目白押しである。

公式サイトをチェックして自分の期待作を探してみてはいかがだろうか?

▶︎ヴェネチア国際映画際 公式サイトをチェックする

(文:CHE BUNBUN)

参考資料



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