「らんまん」資産家・永守徹は史実だと誰に当たるのか<第120回>
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2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第120回を紐解いていく。
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旅立つ人たち
最終回かと思った。朝ドラあるあるですが、まだあと2週間あります。いきなり降って湧いたような援助の話。資産家・永守徹(中川大志)が叔父から莫大な遺産を継いだので、それを万太郎(神木隆之介)の図鑑に出資すると言うのです。なんだったら博物館も作ろうと。
個人への投資というよりは貴重な植物の標本の散逸を防ぎたいという思いからでした。
そしてもうひとつ、陸軍に行く前に遺産を正しく使いたいという思いも。
すると万太郎は、兵役から帰ってくるまで待つと答えます。
万太郎のモデルの牧野富太郎も、資産家から投資をしてもらっています。大正5年、かなり経済的に困窮し、大事な標本を海外に売ってお金を作ろうとしたことがあり、そのとき、新聞広告を出して窮状を救ってもらおうとしたそうです。そこで手を差し伸べてくれたのが、池長孟という人物。神戸の美術コレクター。二万だか三万円だかを出資してくれたうえ、亡くなった父(叔父の養子になっていた)のもっていた建物に標本を収蔵し、池長植物研究所をつくりました。
池長の援助は長続きせず、やがて途切れたそうです。なんで途切れたのか、牧野の自叙伝には触れていません。自叙伝の性質上、仕方ないとはいえ、牧野の自叙伝は一部曖昧で歯切れが悪いところがあります。それはさておき。永守という人物は「らんまん」のオリジナル人物。大正より前、明治に登場し、陸軍に入る=戦争に行くーー「人の命には限りがある」と憂う役割です。
自分の命がある前に、文化的に重要な資料を萬集しておきたいと考える永守に、未来の希望ーー帰ってきたら植物図鑑や博物館に手をつけると万太郎は言うのです。つまり、永守に、生きろ、という。彼の名前が、永く、守る であることが印象的です。
その頃、綾(佐久間由衣)と竹雄(志尊淳)と藤丸(前原瑞樹)は沼津で酒蔵をはじめるため東京を出ることになります。
別れを惜しむ、藤丸と波多野(前原滉)。波多野はうさぎ柄の手ぬぐいを餞別に藤丸に渡しますが、下手だなあと藤丸はからかいます。照れ隠しに言っているのは明白なのですが、新品ではなく使用感のあるもので、なんで? 藤丸を思って作って使っていたものを、渡したの? という疑問が……。
でもそれは次の場面で解消します。万太郎と寿恵子と綾と竹雄の別れの食事のシーンでは、万太郎が竹雄に酒をこぼしたとき渡した手ぬぐいが峰屋のものでした。故郷の思い出をずっと、持っていたのです。峯と染め抜かれた文字だけで、万太郎と竹雄の生きてきた時間がわかります。
手ぬぐいという小道具で、二組の友情を描いた。そこに意味があります。
竹雄は、万太郎のこれまでの生き方を振り返り、肯定します。
万太郎は、南方熊楠の手紙を読んで熊野に行って、ツチトリモチを採集してきました。森が伐採されるとこの植物は居場所がなくなってしまう。万太郎は国立大学に勤めていながら国の政策に反対しようと考えます。モデルの牧野富太郎の自伝からは思想な発言がほとんど見られないですが(自由民権運動に参加したこともさらっとしか書いていない)、「らんまん」はかなり強い意思で権力への抵抗を書いていることを感じます。
資料散逸しないように博物館を作ろうという話は、先日、話題になった国立科学博物館のクラファンを思わせます。森林伐採といい、明治の物語がなぜかとても令和と重なっています。
「小さい神様が消えていくゆうがを見逃すより 手を差し伸べるおまんがえい」
(竹雄)
(文:木俣冬)
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(C)NHK