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2023年09月14日

「こっち向いてよ向井くん」最終話:赤楚衛二の“名刺代わり”のような作品に!頭が焦げるほど選択肢がある幸せに気づかせてくれた

「こっち向いてよ向井くん」最終話:赤楚衛二の“名刺代わり”のような作品に!頭が焦げるほど選択肢がある幸せに気づかせてくれた

ねむようこの同名漫画を原作とした赤楚衛二主演のドラマ「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ系)が2023年7月12日よりスタート。本作はGP帯連続ドラマ初主演となる赤楚が、雰囲気も性格も良く、仕事もできるのに10年間彼女がいない30代の男性を演じるラブコメディだ。共演には、波瑠、生田絵梨花、藤原さくら、岡山天音らが名を連ねる。

本記事では、最終話をCINEMAS+のドラマライターが紐解いていく。

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「こっち向いてよ向井くん」最終話レビュー

「カレーってさ、誰もが好きな食べ物ってイメージが出来上がってるよね」

学校の給食で大人気のカレー。だけど、実はあまり好きじゃなかったという麻美(藤原さくら)の告白に思わずハッとさせられた。

ついに迎えた「こっち向いてよ向井くん」(日本テレビ系)最終話。互いに綺麗な虹の写真を送りたくなるような存在となった向井くん(赤麻衛二)と洸稀(波瑠)は、自分たちの関係にどんな名前をつけるのだろう。友達のままか、それとも恋人に進展するか。ついついその二択に縛られていたからこそ、カレーのくだりに不意を突かれたのである。

恋愛ドラマの最終回といえば、主人公とその恋の相手が何かしらでぶつかり、一度は別れを選ぶものの、なんやかんやで結ばれる……みたいな展開をイメージする。だけど、本作では派手な展開が一切ない。これまでと変わらず、ただ淡々と描かれるのは人と人との“対話”だ。

再び会社同士のコラボが決まり、一緒にデザイナーとの打ち合わせに赴く向井くんと洸稀。アポを取っているのに何時間も待たせるデザイナー、どうなっているんだと思いつつも、待たされている間に2人が交わす会話にはちゃんと意味があった。

以前はカラオケでパフェのどの部分が好きかで議論していた彼らだが、今回も名前だけじゃ想像がつかないメニューを店員に訪ねるかどうかで盛り上がる。出てくるまでのお楽しみにしていたい向井くんに対し、食べたいものじゃなかったら嫌だから必ず聞くという洸稀。この2人はいつも意見がバラバラだ。幸せな家庭で育った向井くんは「子どもを持つことで、子どもの頃に楽しかったことを追体験できる」と思えるけど、両親が不仲だった洸稀はそうは思えないように、育った環境や培ってきた経験が違えば、価値観も違ってくる。

そうは理解していても、これだけ価値観が違うと普通ならついぶつかったり、どちらからともなく離れていくものだけれど、向井くんと洸稀はそうじゃない。一緒にいると楽しい、失いたくないと思う。その気持ちを思わず「好き」という言葉で伝えてしまった向井くんだが、彼がえらいのは、それがもしかしたら洸稀に負担をかける行為かもしれないことをちゃんと理解していることだ。

大人の男女が一緒にいると、すぐ恋愛に結びつけられることに洸稀同様、モヤっとするという人もいるだろう。男女の友情が成立すると信じていたら、相手に告白されて困ったという経験もないだろうか。恋愛感情がなかったとしても断ったら一緒にいられなくなるかもしれない。だけど、恋愛対象としては見れないけど、これからも一緒にいたいと言うのはずるい気がしてしまう。そんな葛藤を相手に負わせる可能性があるということを理解しているか、していないかでは全然違うはずだ。

向井くんは自分の気持ちを伝えたけれど、恋人になるかならないかの選択を洸稀にはさせなかった。それは彼女自身が今は恋愛や結婚というものを望んでいないことに、対話を通して気づいたからではないだろうか。その上で、自分はどうしたいか。いきなり走ってつってしまった足で洸稀の元に向かった向井くんは「一日の終わりには坂井戸さんと話がしたい」「自分と考えや価値観が違っても、全部わかり切らなくても、違うんだってことを理解して向き合っていきたいんだ」と伝える。

結論から言えば、向井くんと洸稀は名前のない関係に落ち着いた。「向井くんと過ごす時間は私も好き。だから、ありがとう」という洸稀の返事に、フラれた!と落ち込むのではなく、むしろ喜ぶ向井くん。

洸稀を既存の形に無理やり当てはめないこの作品も、向井くんも私は好きだ。この先、どちらかに好きな人や恋人がどうするの?とか、子供が欲しいなら早めに……とか、色々と思うところはあるけれど、それはタイミングが来たときに2人がどうするかを決めるべきこと。

また、本作の良さは誰かと生きることを一切否定していないところだ。今の時代、恋愛や結婚が人生に必須という価値観は薄まりつつあるが、逆に一人で生きていける、自立したかっこいい大人にならなければと自分を追い込んでしまう人もいる。それが本作においては美和子(生田絵梨花)だったが、麻美の「誰かと一緒にいるから、強くなれるってこともあると思う」という言葉が少し肩の力を抜くきっかけとなった。

そんな麻美は、元気(岡山天音)といわゆる事実婚という形で、自分たちだけの幸せの形を模索する。一方で、結婚という制度を利用している向井くんの同級生や同僚たちも幸せで、結局は人それぞれなのだ。「こっち向いてよ」の“こっち”は自分の気持ちであり、相手の気持ちでもある。「世間が」とか「みんなが」とかではなく、向き合うべきは常に“こっち”。

だけど、カレーはみんな好きだからという理由で特別な日に出されたりするように、人と人との結びつきに関してもまだまだ世間は大多数の意見に合わせようとしてくる。例えば、麻美と元気が話していたように、子供の親権や苗字はどうするかとか。2人は「お互いの名字を合体できたらいいのに」と冗談ぽく言っていたけど、本当はそんな風にそれぞれの幸せに合った選択が用意されていたらいいなと思う。

「今日は幸せでも、明日は何かに悩んでいるかもしれない。まぁ、それが人生よ」という公子(財前直見)の言葉にも含蓄があった。令和を生きる私たちには、昔よりはるかにたくさんの選択が用意されている。選ぶのは大変だし、何かを選んだからといって幸せになれるとも限らない。だけど、選べるということ自体がとても贅沢で幸せだと本作は思わせてくれた。ゴールも、正解もない、自分だけの、自分たちだけの幸せを。それこそ元気のように、頭が焦げるほど考えて生きていきたい。

そして最後に、主演を務めた赤楚衛二の健闘に触れざるを得ないだろう。こういう作品はどうしても説教くさく感じられがちだが、そうならなかったのは彼の素直なリアクションがあったからこそ。向井くんの悩める姿をリアルに、かつクスリと笑える形で演じてくれたから、私たちも一緒に難題と向き合うことができた。ストーリー・テラーとしての主人公にこれほどふさわしい役者はいない。きっと「こっち向いてよ向井くん」は代表作、あるいは名刺代わりのような作品として赤楚の役者人生に刻まれることだろう。

(文:苫とり子)

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