「ブギウギ」身勝手でずるくて、根性なしの人たちが愛おしい不思議<第25回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。小さい頃から歌って踊るのが大好き、後に戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第25回を紐解いていく。
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大和さんみたいになりたい
突然の大和礼子(蒼井優)の訃報。梅丸少女歌劇団でお別れ会が行われました。礼子はもともと腎臓の調子が悪かったところ、出産を機に悪化して、死に至ったのです。
再会したときは、そんなふうに見えず、心身ともに満たされていたようでしたが、辛さをひた隠していたと思うとまた泣けます。
礼子は、己の体の限界を感じているからこそ、宿った命をこの世に送り出したいと思ったのかもしれません。
赤ん坊を見て「きっと歌と踊りの天才になるわあんた」と頭をなでる橘アオイ(翼和希)の思いはいかばかりか。知らせを聞いたときは、おそらくかなり逆上したことでしょう。でもいまは粛々と、会に出席しています。
「急すぎて涙も間に合わへんわ」、というのは、桜庭和希(片山友希)。そういうことってありますね。
そこへ、縁を切っていた礼子の両親が現れて、お父さん(上杉祥三)のほうは、娘が劇団に入りさえしなければこんなことにならなかったとだけ言って去っていこうとします。ど修羅にならなくてよかった。
スズ子(趣里)の「大和さんはお二人に育てられたんやなって」という言葉が、たぶん、ご両親の救いになったことでしょう。そして、スズ子もまた、自分のなかで、何かが整理されたのでしょう。
東京に行く決意をするのです。
ツヤ(水川あさみ)は、梅吉(柳葉敏郎)に、これまで彼にも話していなかったスズ子への強烈なまでの愛を吐露します。自分は「身勝手でずるい」と。
梅吉に「おなごの意地」と執着していることといい、ツヤは愛情が深く、欲深い人なのかなと感じます。誰かを愛して尽くしている自分が好き、なタイプかも。
そして、もし、実の息子が死んでなかったら、ここまでスズ子を自分だけのものにしようと思わなかったかもしれないなあ、なんてことを筆者は思いました。
ツヤの告白を聞いて、梅吉は自分も「身勝手でずるい」のだと返します。ツヤがふたりの子供を連れ帰ってきたとき、問いただすことをせず、そのまま面倒になることを避けて、事実に触れずにいたからです。
何も聞かないでいてくれることは、ときにとてもありがたいことではありますが、重大な問題を隠蔽してしまうことにもなります。物事を明確にしないと、存外、そのままになってしまう。そういうことって世の中にあふれています。
梅吉は梅吉で、俳優業に、脚本と、やりたいことがうまくいっていませんが、誰かが諦めろと言わない限り、自分では終われない。ツヤが引導を渡す人ではないので、そのままにしていられる。一方、ツヤは梅吉にスズ子のことをツッコまれないので、救われている。じつは、似たもの夫婦。はっきりさせたくないことをはっきりさせずにいられる関係であったということです。この関係、理想とは言い難いですが、こういう、くされ縁のような関係もあるというのがいいと感じます。
そこへスズ子がやってきて、東京に行くと宣言。大和さんの死によって、大和さんの意思を継ぎたい思いや、やりたいことをやらなくては(命短し恋せよ乙女的な)という思いに駆られたのでしょう。
ツヤもようやくスズ子の希望を認めることができました。
血は繋がっていないけれど、花田家はみんな「根性なし」(ツヤだけは根性あり)なところが似ているということで、雨降って地固まります。
さあ、いよいよ東京へーー。
余談ですが、この回、印象的だった場面があります。
股野(森永悠希)のところに礼子の両親が現れたとき、アオイが一歩退くときのしゃきっとした感じと、股野とアオイとスズ子たちが立ち話しているとき、リリー白川(清水くるみ)も一緒に立ち話のなかに入らず、手前でお客さんに挨拶しているように描くことで、画面に立体感が出ていること。
全員、棒立ちだと興ざめですから。そうならなくてよかった。
(文:木俣冬)
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(C)NHK