(C)映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」製作委員会
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映画コラム

REGULAR

2023年11月19日

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』で“鬼太郎”の見かたが変わるワケとは

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』で“鬼太郎”の見かたが変わるワケとは

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アニメ映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が2023年11月17日(金)より公開中。本作は原作者である水木しげるの生誕100周年を記念して世に送り出された。

結論を先に申し上げれば……すごく……ものすごく面白かった!『ゲゲゲの鬼太郎』シリーズをまったく知らなくても楽しめる上に、後述する様々な要素が見事に融合した、恐ろしく、悲しく、涙がポロポロとこぼれるほどの感動もあった、素晴らしい作品だった。

アニメとしてのクオリティーも高く、「闇」を意識した画はスクリーンで観る価値も存分。声優陣も超豪華で、特に「関俊彦と木内秀信が利害が一致したバディとなる」というのがたまらないし、種﨑敦美の「葬送のフリーレン」や「SPY×FAMILY」ともまったく違う演技にも圧倒されるだろう。

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また、本作はエンドロールの最後まで、席を立たずに見届けてほしい。途中で帰ってしまうのはあまりにもったいない「何か」がそこにあるのだから。

PG12指定納得のおどろおどろしさと残酷さ、でも若い方にも観てほしい

さて、何よりも強調してお伝えしておかなければならないのは、本作が「簡潔な殺傷・出血の描写がみられる」と言う理由でPG12指定のレーティングがされていることだ。

同じくPG12指定の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』がそうだったように、「残酷描写があること」をある程度は覚悟して観たほうがいい作品だろう。

予告編の時点で、鬼太郎はこの映画そのものにも向けられているような「警告」を口にしているし、字体や雰囲気はおどろおどろしく、はっきりと「目玉を咥えているカラス」も登場したりもするのだ。



なお、本作は2018年から2020年にかけて放送されたテレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第6期をベースとしており、ヒロインの「ねこ娘」も第6期における長身のデザインになっている(声優も庄司宇芽香が続投)(その第6期第1話は期間限定で公開中)。

そちらは毎週日曜朝に放送されており、もちろん子どもをターゲットにした作品だった。だが、今回は直接的な描写のみならず、物語上で明かされる事実にもグロテスクなものがあり、かなり「大人向け」へとシフトしている印象が強い。

ただ、むやみやたらに残酷描写を入れ込んでいるわけでもない。最近では『シン・仮面ライダー』もそうだったが、暴力や殺人の恐ろしさが物語と不可分であり、それを手加減をせずに描くことが、重要だったのだと思い知らされたのだから。

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さすがに未就学児ごろのお子さんにはおすすめできないが、この恐ろしくも悲しい物語は、中学生ごろの若い方には、むしろ現実で生きるための「糧」にもなり得るので、届いてほしいと心から願うことができた。

ちなみに「ゲゲゲの鬼太郎」が大人向けのアニメとして展開したのはこれが初めてではない。深夜に放送された「墓場鬼太郎」は原作からあるブラックユーモアや不気味さを強く打ち出しており、その第1話のラストのセリフからも“良い子”な内容ではないことがわかるだろう。(「墓場鬼太郎」第1話は公開中)。

それでも「墓場鬼太郎」はテレビで放送されるため、ある程度の表現の自粛を求められたそうだが、今回の『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は劇場で上映されるアニメ映画。だからこそ、制約を受けることなく、これほどまでにおどろおどろしい雰囲気に満ちた作品にできたのだろう。

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とはいえ、ただ恐ろしく残酷なだけでなく、かわいらしい&カッコいいキャラクターの掛け合いがほのぼのとしている場面もあるため、親しみやすさも十分にある、間口はとても広い作品だと思う。

何より、後述する通り、さまざまな要素が融合したエンターテインメントとして完成されていることが、本作最大の美点だろう。PG12指定にある程度の抵抗を覚えてしまうのは致し方ないが、それでも劇場で観てほしいと願うばかりだ。

『犬神家の一族』や『ミステリと言う勿れ』的な正統派「殺人事件ものミステリー」

あらすじを紹介しよう。昭和31年、血液銀行に勤める水木は、日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族の当主の死の弔いを建前にして、人里離れた哭倉村(なぐらむら)を訪れる。そこでは当主の後継をめぐっての醜い争いが起きており、ついには神社で一族の一人が惨殺される。妻を探すため同じく哭倉村にやってきていた鬼太郎の父は、その殺人事件の犯人として捕えられるのだが……。

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本作ははっきり『犬神家の一族』を連想させる作品だ。大きな湖のある田舎町、遺言状が読まれてから起こる殺人事件、そして美しくも不気味な雰囲気など、横溝正史の小説またはその映画化作品のテイストをアニメ映画として観られるような面白さがある。(その『犬神家の一族』は11月23日までの期間限定で本編が公開中)

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直近で公開された映画版『ミステリと言う勿れ』にも似た魅力があったので、そちらが好きな方も大いに楽しめるだろう。はたまた、バラエティ番組『水曜日のダウンタウン』で放送された企画「名探偵津田」を連想する方もいるかもしれない。

推理要素そのものはそこまで入り組んだものではなく、後述する複数の要素の比重のほうが大きいとも言えるが、それでも「犯人は一体誰だ?」と予想する、正統派の「殺人事件ものミステリー」の面白さを存分に感じられるはずだ。

バディもの+怪奇もの+戦後ものの面白さが融合

本作は「バディもの」でもある。初めこそ会社の命令に従い村にやってきた水木と、妻を探すも捕えられてしまった鬼太郎の父は、目的は違えど村を捜査する行動は同じであるため結託する。

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初めこそ2人の相性は水と油、生真面目な水木に対して鬼太郎の父はひょうひょうとしている印象もあり、初めこそ本当に利害が一致しただけにも思えるものの、いつしか2人が相棒になっていく、いや友情に近い関係性が育まれる過程が面白い。

もちろん妖怪ものの代表である「ゲゲゲの鬼太郎」シリーズのひとつであるため、殺人事件の裏には妖怪の影がちらつくし、それ以外にも人智を超えた出来事が起こるなど、「怪奇テイスト」がかなり強い。

その「じわじわくる」不気味さの先には、ダイナミックな作画による迫力のアクションが飛び出す上に、あっと驚くスペクタクルも展開するので、そちらも楽しみにしてほしい。ていうか、会話シーンでもアクションでも、鬼太郎の父がめっちゃカッコいい!鬼太郎の父がこんなにカッコよかったなんて知らなかったよ!

そして、昭和31年(1956年)という時代背景であり、現在公開中の『ゴジラ-1.0』にも通ずる「戦後もの」であることも重要だ。まだまだ戦争の傷跡は残るものの、これから日本は高度経済成長期へと向かい、誰もが希望が持てる時代になろうとしている。

しかし、舞台となる人里離れた哭倉村は新しい文化や価値観からも切り離れていて、時代の恩恵にはあずかれない。その一方で、劇中のおぞましい陰謀は、その戦後の風潮に強く関わっている。

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殺人事件ものミステリーに加えて、それらのバディもの+怪奇もの+戦後ものの要素が見事に融合しており、何より物語のいちばんの感涙シーンは、それらのすべてがなければなし得なかったものでもあった。謎の全てが明らかになるその瞬間を、見逃さないでほしい。

「ゲゲゲの鬼太郎」の見かたが変わるかもしれない

「ゲゲゲの鬼太郎」という作品であることを忘れたままでも存分に楽しめる作品ではあるが、映画冒頭から鬼太郎、ねこ娘、(目玉になった)鬼太郎の父というおなじみのキャラクターが「物語の導き手」の役割を担っているし、もちろんタイトル通りに「鬼太郎誕生の物語」にもなっている。

それを持って、本作は「『ゲゲゲの鬼太郎』という作品、はたまた鬼太郎と鬼太郎の父というキャラクターの見かたが変わる」作品になり得ていた。

前述した「墓場鬼太郎」もプロローグ的な位置付けの作品だったが、今回の物語で描かれたのは、さらに悲しくも恐ろしい話であるので、「鬼太郎の父は、過去にこれほどのものを背負っていたのか」と思い知らされるという構図があるのだ。

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また、普段の子どもが観るテレビアニメでの鬼太郎は、基本的には人間の味方で、たまに悪いことをしている人間をたしなめたりする立ち位置だった。だが、今回の映画の物語では、はっきりと許し難く、あまりにおぞましい、人間の「悪意」や「業」が表出している。

鬼太郎の父と鬼太郎は、人間そのものを憎んでもおかしくないのに、それでも人間の味方をしている彼らが、どれほどに尊い存在であるのかと、今回の物語を振り返ればこそ思えるのだ。

残酷描写も入れ込んだ、大人向けの作品にした意義も、まさにそこにあったと言える。そして、「鬼太郎たちはなぜ人間の味方をするのか」という根本的な疑問もまた、本作の物語を最後まで追えば、きっとその答えの一端に触れることができるだろう。

とにかく「ゲゲゲの鬼太郎」の作品のひとつとしても、ホラー要素の強い映画としても、本作は高い完成度を誇っている。映画の後で(前でも)前述した「墓場鬼太郎」の第1話(または原作の第1話)や、アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第6期を観ると、さらに感慨深さも増すだろう。改めて、劇場で観てほしいと願う。

(文:ヒナタカ)

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