「ブギウギ」茨田りつ子はなぜ、客席で大きな帽子を脱がないのか<第42回>
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2023年10月2日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。
「東京ブギウギ」や「買物ブギー」で知られる昭和の大スター歌手・笠置シヅ子をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。歌って踊るのが大好きで、戦後の日本を照らす“ブギの女王”となっていく主人公・福来スズ子を趣里が演じる
ライター・木俣冬がおくる「続・朝ドライフ」。今回は、第42回を紐解いていく。
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「戦闘服ですから」
クールビューティー(日本語でいえば、冷たい美女)な茨田りつ子(菊地凛子)。なにもかもかっこよくて、近寄りがたい存在ですが、第42回では、取り付く島がいくつかありました。三尺四方のなかで歌うよう、警察に要求されたにもかかわらず、スズ子(趣里)は我慢できずに、はみ出して歌い踊ってしまい、公演は中止。スズ子は警察で取り調べを受けます。
警察には茨田も来ていて、彼女は常連(5回目)だとか。警察の言うことを聞かずに毅然と自由にやっているのです。
茨田に感化されるスズ子に辛島(安井順平)は、くれぐれも気をつけてほしいと頼みます。茨田は個人ですが、スズ子は梅丸楽劇団を背負っているのですから。
後日、楽劇団公演を、茨田が観に来ます。入り口には大日本国防婦人会が、自主的な取締をしていて、茨田の派手な服装を咎めます。すると「これは私の戦闘服です。丸腰では戦えません」と反発。
ですが、客席で、大きな帽子をかぶったままの観劇こそ、国防婦人会の人たちに注意してほしかった。これなら誰も、国防婦人会の人たちが横暴だとは思いません。むしろ、応援するでしょう。
以前、松永(新納慎也)が紅茶のカップを持ち込んで見ていたこともありましたし、この時代はいまより劇場が解放的で、かつ、貴族的に着飾って、観劇するものだったかもしれませんが、一般客席のなかであのつばの異様に広い帽子、後ろの人は見えないに決まっています。茨田のうしろに座った人のストレスを思うと、「お客様に夢を見させる」の説得力がふっとびます。茨田の場合、「見せる」のではなく「聞かせる」だとしても。
実際、うしろの客はふう、と渋い顔をしています、スズ子の抑制した歌にがっかりしているという演出かもしれませんが、この帽子なんとかしてくれよって思っているのでは、と想像すると愉快です。
大きな帽子をかぶった茨田は、公演終了後、スズ子が「カカシ」みたいだと責めに来ます。そんなことでいいのかと発破をかけて帰りかけたところに、福島なまりの少女・小夜(富田望生)が弟子にしてくれと駆け込んできます。茨田は、弟子はとらないと交わすと、「おめえでねえ!」と無視、スズ子に駆け寄ります。
茨田の立場なし。無敵そうな茨田にも隙があった、と逆に好感度が上がりました。
好感度が下がる一方なのが、梅吉(柳葉敏郎)です。
スズ子のお金で飲んで酔っ払って下宿の前で寝ています。下宿にがたいの大きな元力士がいるから、運んでもらえて助かりそう。
それにしたって、仕事もうまくいってないうえに家には何もしない居候。うんざりしそうですが、甘やかしはしないけれど、けっして怒鳴りつけたりしないのがスズ子の人徳。
もう映画の脚本は書かないのか、と訊ねると、「映画は人を助けてくれへん」と自暴自棄。ツヤに依存して生きてきたから、何もやる気が起こらない。そんなときこそ、大好きな映画を見て、元気をもらったらいいのに。このご時世、好きな映画も制限されているのでしょうか。
狭い部屋で息が詰まりそうなとき、六郎(黒崎煌代)から手紙が届きます。
亀のことばかり心配する六郎(亀の絵がかわいい)。そんな手紙でも、スズ子と梅吉にぽっとあたたかいあかりが灯ったようです。
六郎はいまの自分のことを理解してくれると、と「はよ帰ってきいへんかなあ」と心待ちにする梅吉。戦況はますます激化しているのだから、早く帰ってくるわけもないでしょう。父として、こんな甘えた態度でいいのかと、ちょっといらっとしました。
ツヤのように対等の立場できつく叱る人がいないと、梅吉みたいな人はマイナスな面ばかり強調されてしまいます。それこそが、つれあいを亡くす悲劇です。
(文:木俣冬)
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